125話 添い寝
コップを洗って、テレビの電源も消してから、わたしは階段を上がる。途中にてれすの姿がないので、どうやら私の部屋までは辿り着いたらしい。
だけど、わたしの部屋の扉が開いたままになっていた。
「てれす?」
声をかけるけど、もう寝てしまったのか、てれすの返事はない。
中に入って、てれすのことを探す。
しかし、てれすがさっきまで寝ていた布団には、誰の姿もなかった。
首をかしげて部屋を見渡すと、てれすがわたしのベッドで眠っていることに気がついた。思わず声が出そうになったけど、てれすを起こすのは悪いので、なんとか口を押えて言葉を飲み込む。
それから、ゆっくりてれすに近づく。
「て、てれす、どうしてわたしのベッドで……?」
小声でつぶやくも、寝ているてれすかが返事をするはずもない。
どうしてだろうと考えながら、寝息を立てて気持ちよさそうに眠っているてれすの近くに歩いて、腰を下ろす。
あれだけわたしに寝顔を見られたくないと言っていたのに、こんなにも早く、またてれすの寝顔を見ることができてしまった。てれすの寝顔を見ていると、自然と笑みが零れる。
「やっぱり、眠かったんだ」
てれすも家ではベッドで寝ているだろうから、寝ぼけてわたしのベッドのほうに来てしまったのかもしれない。
そんな状態だったのに、わたしのために起きていると言ってくれたのだろうか。
そう思うと、なんだか無性にうれしくなる。
「……」
てれすの顔を見つめる。
「わ、わたしも少し、眠くなってきたかも……なんちゃって」
誰が見ているわけでもないけど、言い訳するようにつぶやいて、わたしはてれすの掛布団をめくった。
そこに自分の身体を、ゆっくり滑り込ませる。
「わたしの布団だし、少しくらい、いいよね……」
てれすを起こさないように慎重に、横になる。めくった布団を整えて終わると、目の前に、てれすの顔があった。
心臓が飛び上がりそうになるけど、なんとか踏み留める。
「――ッ!」
それはもう、目と鼻の先にてれすの顔が。
可愛くて美人。まつ毛が長くて、肌が透き通っている。髪がさらさらで、なんだかいい匂いも……。
あと、なんかいい感じにあったかくて――。
「――す」
耳元で何か聞こえた気がする。
「ありす」
これは、てれすの声?
てれすが、わたしの名前を呼んでいる。
「ありす」
ゆっくり目を開けると、やはりそこにはてれすがいた。
「え、てれす?」
「ええ、てれすよ。ありす」
困ったように苦笑いを浮かべながら、てれすがうなずく。
どうして、てれすがこんなに近くに。近くというか、隣にいる。
少しずつはっきりしてきた意識で、思案を巡らせる。
わたしのベッドにわたしとてれす。
……いろいろ思い出した。
「うわああ!?」
「ど、どうしたの?」
「わ、わたし、寝ちゃってた……」
そうだ、少しだけならって思って、てれすに添い寝したんだった。そのまま眠ってしまったらしい。
どうしよう。てれすに変なことをしたと思われているかもしれない。
「ありす?」
「へ?」
「おはよう、ありす」
「お、おはよ」
「大丈夫? 起きてる?」
「大丈夫だよ。起きてる」
10時になったら起こしてあげると約束したのに、情けない。
てれすにどう言い訳をしようかと考えていると、誰かが階段を上って来る足音が聞こえた。
続けて、ノックがされる。
わたしは慌ててベッドから降りて、お母さんのことを待つ。すぐにお母さんの声がした。
「ありす、てれすちゃん?」
「は、はい!」
「入るわよ~」
扉が開かれる。
お母さんはわたしとてれすを見て、意外そうに言った。
「あら、二人ともちゃんと起きてたのね」
「う、うん」
「何してたの?」
「え、いや、別に」
まさか、てれすと一緒に寝ていただなんて言えるはずない。
お母さんから目を逸らす。もちろん、てれすにも向けられない。お母さんは少し首をかしげながらも、言及することなく、うなずいた。
「そう。それじゃあ、ご飯食べられる?」
「うん」
「てれすちゃんも大丈夫?」
「はい」
「それじゃあ、早めに下りてきてね」
お母さんが部屋から出ていって、わたしとてれすも遅くなった朝ご飯を食べに行くことにした。




