124話 二度寝
リビングにやって来たわたしは、まずカーテンを開けた。爽やかで心地の良い光が部屋の中に入ってくる。
当たり前だけど、まだ誰も起きてきていないみたいだった。
わたしはテレビをつけて、適当な番組にチャンネルを合わせててれすに言う。
「てれす、ここ座ってて?」
「ええ」
「飲み物はお茶でいい?」
「ええ、ありがとう」
「ううん。冷たいのと、一応常温のほうもあるけど、どっちがいい?」
「常温のほうで」
「はーい。それじゃあ、ちょっと待ってて」
てれすがソファに座ったのを見てから、食器棚に向かう。コップを二つ取り出して、ダイニングに置いてある常温のお茶を注ぐ。
お昼くらいに飲んだらぬるいかもしれないけど、今の飲む分にはいいだろう。いきなり冷たいものをお腹に入れるのはあんまりよくなさそうだ。
おぼんに乗せて、リビングに戻る。
「てれす、お待たせ」
しかし、てれすから返事はない。
テレビから小さな音が聞こえているだけ。
「おーい、てれす?」
「……え?」
顔を覗き込むと、ゆっくりてれすの目が開いた。
そして、自分が眠っていたことに気づいたらしい。
「ごめんなさい、寝ていたわ」
「大丈夫?」
「ええ、問題ないわ」
てれすはそう言っているけど、さっきわたしの部屋でも、てれすは眠たそうにしていたから心配だ。
「ほんと?」
「ええ」
しっかり目を見てうなずいてくれたので、てれすにお茶を渡すことにする。何か飲んだから、もっと目が覚めるかもしれない。
「はい」
「ありがとう」
わたしもてれすの隣に腰を下ろして、お茶を一口飲む。
起きたばかり――というわけではないけど、乾いていたのどに染み渡る。
一息ついていると、てれすが口を開いた。
「この時間に起きたの、いつぶりかわからないわ」
「そうなの?」
「ええ。本当に、最近ではまったくないわね」
「てことは、一年生の時も、わたしと最初に会ったときみたいな感じだったの?」
「そうね。中学校もそんな感じだったわね」
「え!」
「そんなに驚くこと?」
「あはは、ごめん」
何度も思ったけど、やっぱり今、てれすが毎日ちゃんと学校に来てくれてるのって、すごいことなんだ。
わたしは少しでも多くてれすといられるなら、嬉しい。でも、ひょっとすると、てれすは無理しているのかもしれない。
「ずっとそういう感じだったなら、今の学校、朝からきついんじゃない?」
尋ねると、てれすは苦笑しながらうなずいた。
「それは否定しないわ。でも、大丈夫」
「どうして?」
「授業中に寝ればいいもの」
「な、なるほど……」
たしかにてれすは有言実行で、眠っている。それはもう、自宅なのかと錯覚してしまうくらい気持ちよさそうに。
と。
テレビからてれすに視線を移すと、ちょうどてれすがあくびをしているところだった。
部屋では、わたしに寝顔が見られるのが恥ずかしいと言って二度寝はしないと言っていたてれす。だけど、まぶたが重たそうだった。
「やっぱり眠い?」
「ええ、少し」
「てれす、寝る?」
「いえ……」
「無理しないで? 今日は日曜日だから、まだお母さんも起きてこないと思うし、大丈夫だよ」
「そう、かしら」
「うん」
「それなら、そうさせてもらおうかしら」
「うん。それじゃあ、こっちの片付けはしておくから、てれすは先に寝てて?」
「ありがとう」
「10時とかに起こすね」
「ええ、お願い」
ふらふらと2階に戻って行ったてれすを見送って、わたしはコップを片付ける。そして、てれすを追って自分の部屋に向かった。




