123話 お泊り会起床
「んん……」
目が覚めた。
カーテンから薄っすらと光りが差し込んでいて、わたしは朝が来たのだと理解した。伸びをしながら時計で時間を確認すると、いつもと同じ時間の6時半だった。
昨日、早く寝たおかげか、いつもより頭がすっきりとしている気がする。
……なんだか、すごくいい夢を見ていた気がするんだけど、内容がまったく思い出せない。すごく幸せな夢だったという感覚のようなものは、今も残っていた。
思い出そうとしても何も思い出せないけど、まぁ、いいか。と思っていると、てれすがお泊りしていることを思い出した。
てれすが眠たそうにしていたから、昨日は早めに寝たのである。
床に敷いたお布団の上のてれすを見ると、てれすは熟睡していた。
寝息を立てている姿に、思わず笑みが零れてしまう。
「ふふ、幸せそう」
普段のキリリと凛としているてれすではなく、ここにいるのは無防備で、見ているこっちが自然と笑顔になるようなてれすだった。
今日は日曜日だし、起こすのは申し訳ない。
とはいっても、わたしの意識は完全に覚醒してしまい、二度寝をするのは無理そうだ。てれすは寝坊助さんのイメージがあるから、まだしばらくは起きないだろう。
これからどうしようか、と考えていた時。
「……ありす」
不意に名前を呼ばれて、思わずてれすを見る。
しかし、てれすは変わらず眠っていた。
「寝言……?」
首をかしげる。
今のは偶然なのだろうか。それとも、わたしがてれすの夢に登場しているとか? だとしたら、どんな夢を見ているんだろう。
と。
もぞもぞと少しだけてれすが動いて、微笑を浮かべた。
「ふふっ、ありす……」
それはとっても優しい笑顔だった。
学校なんかでわたしも前で見せてくれるてれすの笑った顔も好きだけど、今の笑顔はなんどいうか、反則だ。
……写メ、撮っておけばよかった。
そう反省をするけど、いやいや、と首を振る。
寝顔じゃなくて、普通に起きているときにこういったてれすの素敵な笑顔をしてもらえるようにがんばればいいんだ。
よし。
心に決めて、わたしは寝ているてれすを観察することにした。
また何か言うかもしれないから、データには残さなくても、自分の心にはしっかり残しておきたい。
だけど。
「……あ」
パチッとてれすの瞳がゆっくり開かれた。
じっと目が合う。
わたしが眺めていたのはバレバレだった。
「おはよう、てれす」
「おはよう、ありす。……え?」
返事をして、てれすは固まった。
今の状況を理解しようとしているのだろう。
「そっか、お泊り会」
「そうそう」
「今、何時?」
「まだ7時にはなってないくらい、かな」
「……そう」
言って、てれすは身体を起こす。まだ目が半分くらい閉じていて、とても眠そうだ。
「ありすは、なにをしていたの?」
「なにって、いや~」
誤魔化そうとしたけれど、下手くそだったのか、てれすは顔に疑問の色を浮かべた。
「なに? 教えて?」
「えっと、てれすを見てた。見てました。ごめんなさい」
素直に話して謝ると、てれすはほっぺたを赤くして視線を俯かせた。
「そ、そう……。いえ、別にありすならいいのだけど、その、何か、変なこととか言ったりしてなかった?」
「うん、それは大丈夫。変なことは言ってない?」
「よかった」
てれすは安堵の息を零す。しかし、さすがはてれすというのか、何か引っかかりを覚えたらしい。
「待って? 変なことは、ということは、何か言ってはいたの?」
「それは、まぁ」
「何て、言ってたの?」
「え、言うの?」
「え、言えないようなことを言っていたの?」
「いや、それは大丈夫だけど……」
自分の名前を言っていた、と言うのはなんだか恥ずかしい。だけど、てれすの目が真剣だから、答えないわけにもいかない。
「えっと、ありすってつぶやいて笑ってた……」
「そ、そう……」
「うん」
むずがゆくなって、お互いに沈黙してしまう。
「あの、ありす」
「なぁに?」
「いえ、やっぱりなんでもないわ」
「そう? あ、もう起きちゃう? それとも寝る?」
「そうね、本当はもう一度寝たいけれど……」
てれすは言葉を切って、わたしのほうにちらちらと視線を送って来る。
「ありすは、寝ないのよね?」
「うん。わたしはもう完全に起きちゃったから」
「それなら、わたしも起きるわ」
「え、大丈夫? 寝てもいいんだよ?」
「だって、また寝顔を見られるもの」
「それは否定できないかな」
「ほら。恥ずかしいから、起きるわ」
そう言って、てれすは「うーん」と伸びをする。
どうやら、本当に起床するらしい。
「じゃあ、リビングに行こう。何か飲みながらテレビでも見よ?」
「ええ、わかったわ」
てれすと一緒に立ち上がる。
布団のお片付けは、今はいいや。
こうして、わたしとてれすはリビングに向かった。




