121話 期末テストの約束
パジャマやらタオルやらを抱えて、わたしはお風呂場に向かう。
階段を下りると、リビングからお母さんの声が聞こえた。
「ありす、そんなに急ぐと危ないわよ」
「あ、はーい」
素直に返事をして、ゆっくり廊下を歩く。
てれすの姿にドキッとして、慌てて下りてきたとお母さんに知られたら、どんなふうにからかわれてしまうか、わかったものじゃない。
脱衣所の扉を開けると、先に誰かが使っていた感じが残っていた。わたしは基本的に、いつも一番にお風呂に入っていたから、なんだか不思議な感じだ。先に入ったのがてれすというのも、さらに不思議な感覚を増させる。
服を脱いで、二番風呂に突入。
お湯はまだ温かくて、ポカポカしていた。
「あー」
と自然に声が零れてしまう。
湯船に浸かったことで気が抜けたのか、脳裏にふと、さっきのてれすの姿が浮かんだ。水も滴るってわけではないけど、いつも美人なてれすのことがさらに素敵に感じられた。
ぶくぶくぶく。
お湯に息を吐く。
が、
「――ッ!?」
わたしは思わず立ち上がった。
今、特に意識することなくお湯をぶくぶくしたけど、このお湯って……。
「バカバカ。わたしのバカ!」
変なことを考えてしまっている自分に気づいて、首をぶんぶんと横に振る。
心頭滅却。心頭滅却。
一度頭を冷やさなくては。
なんだか暑い。
それはお風呂のせいじゃない。夏の暑さのせいでもない。
結局、わたしはいつもよりも早くシャンプーやリンス、などなど必要なことを終わらせて、早めにお風呂から出ることにした。
パジャマに着替えて、自分の部屋に戻る。
わたしの部屋に一人でいるてれすは、何をしているのだろう。
さすがに寝てるってことはないと思うけど、携帯を触っているのは想像できないし、かといって勉強というわけでもないはず。もしかすると、何もしていないのかもしれない。
いろいろと思案を巡らせながら自分の部屋に戻る。
「てれす、ただいま」
「ありす、おかえり」
そう返してくれたてれすは、本を読んでいた。
わたしの本棚にある、少女漫画の単行本の一巻だ。
「てれす、それ」
「あ、ごめんなさい。勝手に」
「ううん。いいよ。でも、てれすがマンガを読むなんて意外かも」
本棚には、マンガ以外にもある。
どれを読まれても、別に困るようなものはないから問題はない。けど、てれすがマンガを選ぶのは意外だった。
「そうね。ちょっと、読んでみようかなって」
「どうだった? よかったら、貸すけど」
「いえ、それは大丈夫よ」
「あ、そんなにおもしろくなかった?」
「そういうわけでもないのだけれど、あまりマンガを読んだことがないから、よくわからなかった、というのが正直なところかしら」
「そっか」
「ええ」
「あ、でも、もし何かわたしので借りたくなったら、いつでも言ってね」
「ええ。ありがとう。でも、借りたくなったら、ありすのうちに来てもいいから」
「もちろん! 何もなくても来ていいよ!」
「それは、どうなのかしら……」
苦笑を浮かべるてれすを見つつ、ちらりと時計を見る。
夜はまだまだこれからだ。
「てれす、このあとどうしよっか」
今日はお泊り会になっているとはいえ、本来の目的は期末テストに向けての勉強会だ。だから、勉強をしてもいいけど、せっかくだから、お泊り会っぽいことをしたい気持ちもある。
「わたしは、なんでも」
「うーん。それじゃあ、あと少しだけ勉強する?」
「そうね」
「ああ、そうだ。そのことなんだけど」
わたしが言うと、てれすは首を可愛らしくかしげる。
「てれす、前回の中間テストで学年1番だったよね?」
「ええ」
「だから、期末テストでてれすとわたしが1番2番とかになれたら、何かお祝いみたいなことしたいなって」
「お祝い?」
「そう。さっき思いついたから、まだ何も決めてはないんだけど」
夏休みもてれすと会うにはどうすればいいのか。そのために思いついた作戦の一つであった。
「ダメかな」
「いえ、やりたい。いいと思うわ」
即答するてれす。
大きくうなずいてくれて、嬉しくなる。
「やった。がんばろうね」
「ええ。がんばるわ」




