120話 お泊り会お風呂
夕飯を食べ終えたわたしとてれすは、わたしの部屋に戻ってきた。
「てれす。お風呂、先に行っていいよ」
「え?」
「どうしたの?」
お風呂がすでにできていることは、さっきお母さんが言っていたので、まさか聞き返されるとは思わなかった。
一緒に入るかと聞かれて、わたしが全力で否定したので、てれすが聞き逃していたということはないはず。ということは、何かいけない理由があるのだろうか。
「もしかして、なにか忘れた?」
「いえ、大丈夫だと思う――あ」
そう言って、てれすは自身が持ってきた荷物を探る。そして、困ったような表情をしてわたしを見た。
「寝るとき、どうしようかしら」
「お布団だよ」
「いえ、そうではなくて。着るものを忘れてしまって……」
「それなら――」
わたしのパジャマを貸してあげるよ、と言うよりも早く、てれすが何やら思いついたようで、口にする。
「さすがに裸で寝るわけにもいかないわよね」
「当然だよ!」
「そうよね。わたしはいいけれど、さすがにありすのお家のお布団で寝るのに、裸は申し訳ないわ」
「そういう理由なの!?」
思わず、やや大きな声が出てしまった。
つまり、わたしの家でなく、てれすの家でなら、てれすは裸ということだろうか。同時に変な想像をしてしまって、首を振る。
わたしのためにも、ぜひとも服を着ていただきたい。
「最近暑いから、なんとかなるんじゃないかしら」
どうやら、てれすは本気で言っているようだった。
わたしに服を借りるという選択肢はないみたい。
「もしかして、てれす。お家ではいっつも裸で寝てるの?」
「いえ、違うわ。ちゃんとパジャマよ」
「よかった、のかな……。わかんないけど、今日はわたしのパジャマを着てよ」
「あ、ありすの?」
「うん、わたしの。嫌でも、それしか方法はないから……」
お父さんのってわけにはいかないし、お母さんのどうだろう。お母さんは喜びそうだけど、てれすが気を遣ってしまいそうだ。それなら、わたしのものが一番いいに決まっている。
「いいのかしら」
「いいのいいの」
わたしが言うと、てれすはこくりとうなずいた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう」
「ううん。気にしないで」
「ありすの……ありすの」
どうして二回言ったの……?
疑問が浮かんだけど、嫌じゃないならいいや。
それよりも、早くお風呂に行ってもらわなくては。もう準備ができているのなら、早く行ったほうがいいだろう。
「それで、お風呂だけど、先に行ってきてよ」
「その、ありす」
「なぁに?」
「二人で」
「いやいや! それはお母さんの冗談だから! 真に受けないで!」
「……そう」
なんだか、てれすがしょんぼりしてしまった。
でも、二人で入るわけにはいかない。恥ずかしいということもあるけど、なによりも狭い。温泉とか、てれすといくのはありかもしれない。
そんなことを考えつつ、タンスからパジャマを取り出す。
「はい、てれす。これ使って」
「ありがとう。行ってきます」
「はーい」
てれすが階段を下りていく音を聞きながら、わたしは自分のお風呂の準備をしてから、本でも読むことにした。
そして十数分後。思いのほか、早い時間でてれすは帰ってきた。
「ありす」
「あ、てれす。おかえり」
「ええ。次、入りなさいって、ありすのお母さんが」
「はーい」
さっき準備していたパジャマたちを持って、部屋を出ていこうとてれすの隣を通った時、ふわりと、いつも自分が使っているシャンプーの香りが漂ってきた。昔から使って慣れ親しんだ香りのはずなのに、てれすから同じ香りがしたことに、ドキリとしてしまう。
さらに、濡れた髪をタオルで乾かし、ほんのり頬を紅潮させたてれすの顔を見てしまって、なんだか見入ってしまった。
「ありす?」
「あ、ううん、なんでもないよ! それじゃあ、いってきます」
「え、ええ」
てれすは首をかしげていたけど、わたしは急いでお風呂に向かった。




