114話 お泊り会スタート
土曜日。いよいよ、てれすとお泊り会をする日がやって来た。
そういうこともあって、わたしは今朝、学校に行くときよりも早起きをしてしまい、起きてからずっとそわそわしていた。
落ち着こうと深呼吸をしても効果はほとんどない。てれすは何回かうちに遊びに来ているというのに、変な緊張感だ。きっとてれすも同じように、もしくはわたし以上に緊張していることだろう。
そして午後2時。
昨日の夜、てれすとMINEして決めた、約束の時間だ。
てれすのことだから、きっとほぼぴったりに来るに違いない……と思っているとインターホンの呼び出しが鳴った。
リビングを飛び出して確認すると、玄関先には私服姿のてれすが映っていた。
ものすごく不安そうに立っているので、すぐに扉を開ける。
「やっほー、てれす」
「あ、ありす」
「時間ピッタリだね。さすがてれす」
「そ、そうかしら」
「うんうん。いいことだと思うよ。さ、入って入って」
「お邪魔します」
てれすを招き入れると、それに気づいたお母さんがリビングから顔を出した。
「あら、てれすちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔します。今日はお世話になります」
「お昼は食べてきた?」
「はい」
お母さんと会話しつつ、てれすは靴を脱いできっちり整える。
そしてうちに上がると、体育祭の打ち上げで焼肉パーティーをした時と同じリュックから何やらを取り出した。
それをお母さんに差し出す。
「あの、これ。母からです」
「あらあら、別に気を遣わなくていいのに」
「いえ、母が必ず持って行けと」
「そう? それならありがたくもらっておこうかしら。お菓子?」
「はい。たぶん、チョコレートだったと思います」
「ありがとう。よかったわね、ありす」
お母さんの言葉に、わたしはうなずく。チョコレートはとても好きだから、すごく嬉しい。
それにしても、てれすのお母さんは本当にきっちりしてる性格をしているらしい。てれすがこんなにいい子に育つのも納得だ。
「てれすちゃんのお母さんにお礼を言いたいけど、お忙しいのよね?」
「はい。でも、わたしが伝えておきます」
「そう? よろしくね」
「はい」
てれすとお母さんのお話がひと段落したのを見計らって、てれすに話しかける。
「とりあえず、荷物を置きに行く?」
「ええ」
てれすを連れてわたしに部屋に行って、てれすの荷物を置く。
お泊り会ということで、荷物の重さが前回よりもかなり重いのだろう。リュックを下ろすとてれすは「ふぅ」という息を吐いた。
それからリビングに戻る。
リビングでは、お母さんがお出かけの用意をしていた。
そういえば、今日はお昼に友達とどこかお出かけすると言っていたような気がする。
「てれすちゃん、お部屋のことなんだけど。一応、使ってない部屋が二階に一つあるけど、どうする?」
てれすに投げかけられた質問だけど、わたしは思わず声を零してしまった。
だって、一緒の部屋で過ごすと思っていたから。
「え、一緒の部屋じゃないの!?」
「ずっと一緒っていうのもあれでしょ? だからてれすちゃんが選んで?」
お母さんに言われて、てれすは困った表情でわたしに視線を向ける。
「えっと」
「てれす、一緒がいい」
「ありすは本当にいいの?」
「もちろん。一緒じゃなきゃいや。そんなのお泊り会じゃない」
「そうね。ありすのお母さん。ありすと一緒の部屋にします」
「おっけー、わかったわ。ありす、布団がある場所わかるわよね?」
たぶん、使っていない部屋の押し入れにある、来客用の布団セットのことだろう。もしも違って見つからなかった場合は、わたしが床で寂しく寝るか、てれすと一緒の布団で寝ればいいや。
「うん」
「干しときなさいよ」
「わかった」
わたしの返事を聞いて、お母さんはうなずいた。そして時計を見ると、「もうこんな時間」とショルダーバッグを肩にかけた。
「お母さん、どこ行くんだっけ?」
「昨日言ったでしょ? 友達とお茶よ。夕飯までには帰るから、何かあったら連絡して」
「はーい」
「てれすちゃん、楽しんでね」
「はい」
少し慌ててお家を出ていったお母さんを見送って、わたしはてれすに言う。
「それじゃあ、部屋に行く? それとも、ここでする?」
「……ありすの部屋がいいわ」
「おっけー。荷物もあるし、そうだよね」
「ええ」
こうして、てれすとの勉強会を兼ねたお泊り会がスタートした。




