111話 もしも姉妹
漢字テストのあとは普通に教科書を使った授業が進んで、参観日は終了となった。
起立、気を付け礼をしてわたしたちは帰る準備を始める。
彩香ちゃん先生は教室の後ろにいる保護者の方々に声をかけた。
「保護者の皆様はこのあと保護者会を行いますので、このまま教室に残ってください。生徒のみんなはできるだけ早く帰る準備をしてね」
先生の言葉を聞いて、みんないつもよりも少し急ぎ目で帰る支度を行う。さすがに今日はおしゃべりをしてゆっくり過ごす時間はなさそうだ。
わたしもカバンに教科書やノートを詰め込んでいると、
「ありす、てれすちゃん」
「あ、お母さん」
「二人とも、よかったわよ」
「そうかな?」
「ええ。てれすちゃんもね」
「ありがとうございます……?」
同じように片づけをしていたてれすは困ったように可愛らしく首をかしげた。その反応にお母さんは笑いながら、わたしたちに尋ねる。
「さっき先生が言ってた通り、わたしはまだ学校にいるけど、二人は先に帰るわよね?」
先に帰る以外の選択肢は考えていなかったので、わたしは返事に一瞬だけ詰まった。
教室にいることは無理だけど、図書室なんかにいればお母さんと一緒に帰ることもできるのか。
とはいっても、どのくらい保護者会があるかわからないし、先に帰ることにしよう。
「ありす?」
「うん。そうするつもりだよ」
「そう。それじゃあ、気を付けて帰るのよ?」
「うん」
「はい」
お母さんにうなずいて、わたしとてれすは帰り支度を進めた。それが完了して席を立つ。周りを見ると、他の子たちも帰る準備を終わらせているか、教室を出ていっているところだった。
「てれす、帰ろ?」
「ええ」
こうしてわたしとてれすは教室を後にして帰路についた。てれすと別れる交差点までの道を並んで歩く。
「てれす、今日はお母さんがごめんね?」
「いえ、大丈夫よ」
「ならいいんだけど」
授業中にも一度謝ったけど、やっぱり改めて。てれすはあごに手を添えて思案するような仕草をする。
「その、なんて言えばいいのかしら……参観日にこうやって話しかけてもらうなんてあまりなかったことだけど、嫌ってことはなかったわ」
「そう?」
「ええ。なんだか、ありすと姉妹になったみたいで不思議な感じだったわ」
「姉妹かぁ」
たしかに、二人一緒に応援って言うか、話しかけられるとそんな感じもしたかもしれない。てれすと姉妹。たしかに不思議な感じだ。
「どっちがお姉ちゃんでどっちが妹だろうね」
わたしが尋ねると、てれすは迷うことなく即答する。
「それは、ありすが姉だと思うわ」
「そうかな? どうして?」
「そうね、何というかありすは姉っぽいわ」
「えー? どういうこと?」
「どう、と言われると困るわね……」
てれすは眉間にしわを寄せて頭を悩ませる。少しの間考えて、てれすが口を開く。
「面倒見がいいところ、とかかしら」
「そう?」
「ええ。だって、わたしなんかに話しかけてくれたのだから」
「それは別に面倒見とかそんなんじゃないよ。ただてれすとお話したかったっていうか、仲良くなりたかっただけだもん」
「そうかしら」
「そうだよ。あとさ、わたしなんか、なんて言わないで?」
「……そうね。ごめんなさい」
「ううん。あ、そうだ」
一緒に勉強会をしようって提案するのをすっかり忘れていた。
わたしが急に思い出して声をあげたものだがら、てれすは少し驚いたような表情になりながら首を捻った。
「どうしたの?」
「えっと、もうすぐ期末テストがあるじゃない?」
「ええ、たぶん」
「たぶんって……。てれすらしいけど、期末テストは確実にあるよ」
「そうね。それで、その期末テストがどうかしたの?」
「うん。一緒にまた勉強できないかなって」
「ええ、もちろん」
てれすはすぐさま快く首を縦に振ってくれた。
「やった。ありがと」
結城天です。こんにちは。
読んでくださった皆様。ありがとうございます。
ありすとてれす参観日編は今回でおしまいです。
次回からは一学期のラスト、夏休みの前となります。
これからもありすとてれすをよろしくお願いします!




