110話 二人だけの満点
「はい、そこまで。書くのやめて」
先生の合図で、周りからは「うわー」とか「もう少しだけ」とかいろいろな声が聞こえる。それを聞きながらわたしはシャーペンから赤ペンに持ち替えた。
「黒板に答えを書いていくから、自分で丸を付けていってね」
そう言って先生はチョークで答えを黒板に書いていった。
1問目、2問目と正解して、全問正解のまま、悩んで答えを書いた問6のアイサツになった。たぶん正解してると思うけど、どうかな……。
少し緊張しながら先生が答えを書いていくのを見つめる。リアルタイムで答えが1画ずつ書かれていくので、ドキドキだ。
挨拶
そう黒板に書かれたので、ほっとして胸をなでおろした。答案用紙に丸を付ける。
そして続く最後の7問目も正解で、なんとか全問正解となった。
「ふぅ、よかった……」
答えを書き終えた彩香ちゃん先生が手をパンパンとしながらわたしたちに尋ねる。
「全問正解の人いる?」
教室を見渡すと、手を挙げているのはわたしと隣で小さく恥ずかしそうに手を挙げているてれすだけだった。
「満点は最上さんと高千穂さんの二人だけなのね。さすがね」
「あはは、ありがとうございます」
パチパチを拍手が起こって、注目を浴びたので嬉しいけど恥ずかしい。参観日で他の子の保護者さんがいるのでなおさらだ。てれすもこういったことは得意ではないので、黙って俯いている。
「はい、それじゃあ教科書開いて」
場が収まると、授業が始まる。教科者とノートを準備しているとてれすに呼ばれた。
「ありす」
「ん、どうしたの?」
「いえ、その。ありすも全問正解」
「ありがと。でも1問ギリギリだったから、てれすはすごいよ」
「そうなの?」
「うん。ちょっと忘れちゃって」
たしかにわたしとてれすはどっちも全問正解だ。だけど、てれすは悩むことなく余裕で答えを書いたことを考えればやっぱりすごい。さすてれだ。
わたしはたぶんお母さんが邪魔をしてくれなかったら、思い出すことはできていなかったと思う。
「そう。でもありすとわたしの二人だけ……。嬉しいわ」
「あは、そうだね。もしも次もテストがあったら、また二人で満点とろうね」
「ええ」
てれすは笑顔でうなずく。落ち着いていて大人っぽいてれすだから、破顔って感じではないけど、ほんと最近のてれすは笑うことが増えた気がする。
……これはしっかり勉強して、次回も満点をとれるようにしなければならない。てれすは賢いから、きっと次も満点だ。
だったらまた、てれすと一緒に勉強会をすればいいのではないか、と思っていると、先生に声をかけられた。
「ちょっと、後ろの全問正解した二人?」
慌てて顔を黒板に向ける。
「もう授業始まってるのよ?」
「あ、ごめんなさい」
「もう。次はもっと難しい問題を考えてくるから、覚悟してよ」
「はい。お手柔らかに……」
わたしだけでなく、難しい問題を出されて困るのはクラスのみんなも同じこと。なのでブーイングが起こる。
「教科書何ページかわかる?」
「はい」
「高千穂さんは?」
「大丈夫です」
「それならいいけど。ちゃんと集中してね?」
わたしとてれすがうなずいて、授業が再開された。
てれすと勉強会、で思い出したけど、もうすぐ期末テストだ。それが終われば一学期もわずかなものになる。つまり、夏休みだ。
夏休みが来るのは嬉しいことだけど、学校がなくなればてれすと会うことも減ってしまうだろう。……これは何か考えておかないと。
とはいえ今は授業中。夏休みのことは家に帰ってからでも考えようと、わたしは授業に集中することにした。




