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ありすとてれす  作者: 春乃
108/259

108話 参観日

 そして迎えた金曜日。つまり参観日の当日。

 午前中はいつもと同じように時間が流れていっていたけど、お昼休みが終わりに差し掛かろうとしている教室の中はなんだか落ち着きがなく、そわそわとしているように見受けられた。

 かくいうわたしも、徐々に廊下や教室の中に保護者の方々が姿を見せ始めているので、いつも通りとは言い難い。


「ありすのお母さんは、まだ来ていないのね」


「あ、そうだね。なにしてるんだろ」


 あれだけはりきっていたお母さんのことだから、一番乗りでやって来るんじゃないかと思っていたけど、今のところ教室に姿はない。まだ授業が始まるまでは少し時間があるからいいけど、少し心配になってしまう。


 すると、五時間目の準備をしようと教科書を探っていたカバンの中で、スマホがピコンと音を立てた。見ると、お母さんからのMINEである。


『もうすぐ着くからね』


 その言葉通り、お母さんは数分もしないうちに教室にやって来た。メッセージを送って来た時には学校には来ていたのかもしれない。

 お母さんはわたしと目が合うと、真っすぐこちらに向かう。


「ごめんね、遅くなって」


「ううん。まだ始まってないから大丈夫だよ」


「よかったわ。あら、ありすとてれすちゃんは席が隣同士なのね」


「うん、そうなの。偶然ね」


「へぇ~、よかったじゃない」


「うん」


 続いてお母さんはてれすに話しかける。


「てれすちゃんのお母さんは?」


「母は仕事が忙しくて」


「あら、そうなの。お話してみたかったから、残念だわ」


「……すみません」


 俯いて謝罪を告げるてれすに、お母さんは少し驚いたような反応をして、すぐに首を横に振った。


「いいのよ、てれすちゃんが謝らなくて。あ、そうだ。わたしが代わりってわけにはいかないかもしれないけど、てれすちゃんのことも見てるからね」


「は、はい。その、がんばります」


「がんばってね」


 一通りの会話が終わって落ち着くと、お母さんはカバンからミニタオルを取り出して汗を拭った。普段運動をたぶんしていないのに、走って戸は行かなくてもけっこう急いできてくれたのかもしれない。


 お母さんはミニタオルをカバンに戻そうとして、ピクリと眉を動かした。


「あ、そうそう。こんなもの作って来たんだけど」


 そういって、何やらを取り出す。


「え? 何を持ってきたの?」


「これこれ。じゃーん!」


 お母さんが取り出したのはうちわだった。たしかに暑いから、これからの季節は大活躍だろう。しかし、お母さんの目的は涼むことではなかったようで、くるりとうちわを回転させた。

 そしてそこに描かれていたもの、文字にわたしは目を疑った。


『ありす、てれすちゃんウインクして!』


 アイドルのファンの人がイベントで持っている感じのやつだった。ピンクをベースとした明るい色のうちわに、周りをふちどるようにして金色と銀色のクリスマスツリーによく飾られているようなキラキラしたものが貼られている。

 はっきり言って超目立つ。そしてお母さんは何かと手先が器用だから無駄にクオリティーが高い。


「どうかしら?」


 なぜかお母さんは自慢げにわたしとてれすへ感想を求める。

 てれすは困ったようにわたしを見つめていた。当然の反応だろう。ここはわたしがはっきりと断らなければ。娘として、てれすに迷惑をかけさせるわけにはいかない。

 

「あ、アイドルじゃないんだから、やめてよ!」


「えぇ? せっかく昨日作ったのに」


 それで昨日の夜にこそこそ何かしていたのか……。

 お母さんは不服そうだったけど、もちろんそんなうちわを持っている保護者は他に一人もいないので、なんとかカバンに戻させた。


 そんなことをしているとチャイムが鳴って、お昼休みの終了と参観日開始を知らせた。



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