104話 てれすのいる学校
てれすと一緒におしゃべりをしながら通学路を進み、少しして学校に到着した。玄関に入って上履きに履き替えながら苦笑する。
「ここで、てれすがびしょびしょで来たんだよね」
お風呂上りかと思うくらいびしょ濡れだったてれすの姿を思い出してしまう。そのときのことを考えると、風邪をひいて当然って感じだ。一日で治したてれすの回復力に感心する。
てれすは恥ずかしそうに目を逸らしながらつぶやいた。
「ええ。その、あのときはありがとう。迷惑をかけたわ」
「ううん。こうして治ったんだし、ほんとよかったよ」
授業に遅れたことなんかをてれすは気にしているのだろう。でも、てれすのことが一番大事だったし、あれはしかたのないことだ。
そう思ってうなずいていると、『一番』という単語が何度も脳裏に浮かび上がってきて、変に意識してしまっていることに気づいてしまった。なんだか、ほっぺたも熱くなっている。
「……」
「ありす、どうかした?」
「う、ううん。なんでもないよ」
「そう?」
「うん。さ、教室に行こう?」
「ええ」
気にかけてくれたてれすを促して、わたしたちは教室へ向かった。
一度意識してしまったからか、教室までの道のりでお見舞いのときのことを思い出してしまう。「てれすが一番好き」なんて、今思えば、ものすごく恥ずかしいことを言った気がする。捉えようによっては告白みたいなものだし、あのときはわたしも熱があったのかもしれない。
教室の扉を開けて中に入ると、高井さんとお話をしていた赤川さんと目が合った。
「あ! 高千穂さんだ」
赤川さんの声で高井さんもわたしとてれすがやって来たことに気がついた。そして二人はこっちにやって来る。
「おはよ、最上さん、高千穂さん」
「おはよう。赤川さん、高井さん」
あいさつを交わすと、赤川さんはてれすに話しかける。
「高千穂さん、治ったんだね」
「え、ええ」
「よかった。心配したんだよ。ね、高井?」
「……まぁ、そうね。もう大丈夫なの?」
「ええ。その、ありがとう」
てれすにお礼を言われた高井さんと赤川さんは意外そうに顔を見合わせた。それからふふっと笑顔を見せる。
「お礼なんていいよ。でもでも高井はすっごい心配してたんだよ」
「ちょっと赤川。……別に普通だから」
二人の言葉に、てれすは少しだけ嬉しそうな表情をしていた。他の人が見てもわからないかもしれないけど、わたしにはそう映った。
それから少し話していると、チャイムが鳴って彩香ちゃん先生がショートホームルームのためにやって来た。高井さんと赤川さんと別れて、わたしとてれすは自分たちの席に座る。
「本当に、みんな心配してくれていたのね」
「うん。わたしもそうだったし」
「一番?」
「え?」
「ありすが一番心配してくれた?」
「うーん。さすがにてれすのお母さんと比べるとわからないけど、一番心配したかな。それに、てれすが学校に来てくれて、今一緒にお話しできてるからすごく嬉しいよ」
「そ、そう……」
わたしが言うと、てれすは耳をほんのり赤く染めて俯いた。横から見ているからほっぺたがどうなっているかはわからないけど、きっと同じように照れて赤くなっていることだろう。
それから、てれすは午前中の授業をいつも通り過ごしていた。先生に当てられてば、完璧に答えて見せる。そして気持ちよさそうに眠る。てれすがいなかったのは一日だけなのに、そんなてれすを見ていると、すごく安心できる。
そして四時間目終了のチャイムが鳴って、お昼休みになった。てれすと机をくっつけてランチタイムだ。
お弁当を用意していると、なんだか空が暗くなってきていることに気がついた。
「あれ?」
「ありす?」
「あ、ごめん。なんだか天気が怪しいなって」
窓の外を見て言うと、てれすは振り返って外を見た。
「そうね。降りそうね」
朝来るときは晴れていたから、大丈夫だと思っていたけど、もしかするとあれをつかうことになるかもしれない。
そんなことを思いながら、わたしはてれすと楽しくご飯を食べた。




