100話 学校は休みだったけど
てれすのために買ってきたもの(若干自分が食べたかったものもある)を披露すべく、わたしはビニール袋をごそごそと探す。
「てれす、ご飯って食べた?」
「いえ、ゼリーを少し食べたくらいかしら」
いまが放課後ということを考えると、今日はほとんど何も食べていないことになる。水分の補給はしていると思うけど、お腹の減り具合はどうなんだろう。風邪のときは、人によってはまったく食欲がない人もいるし、確認しておく。
「食欲ってある?」
「そうね。さすがに少しお腹が空いてきたわ」
「そっか、それならよかった」
てれすの回答に安心しつつ、わたしは袋から買ってきたものを取り出した。ガラス製のテーブルに置かれたそれを見て、てれすは眉をひそめる。
「えっと……ありす?」
「なぁに?」
「これは?」
「餃子だよ。駅前で売ってたの」
そう、わたしが買ってきたものは餃子だった。もちろん、わたしが食べたかったというのもあるけど、てれすのことも思って買ってきたものだ。
出来立てなので、まだ温かい。すごく美味しそうだ。だけど、てれすの表情は微妙なものだった。
「いや、あの……」
「美味しそうでしょ?」
「え、ええ。それはそうなのだけど、重たくないかしら……?」
「ううん、そんなに重たくなかったよ?」
「いえ、重量の問題ではなくて。風邪のときに食べるものではないと思うのだけど……」
「あ、たしかに…。ごめんね、てれす」
てれすの言う通り、あまり食欲のない人に餃子と言うのはがっつりしすぎていたかもしれない。
わたしは謝りながら、別の袋を探る。こっちの袋はコンビニで買ってきたものが入っているほうだ。中からプリンを取り出して、てれすに差し出す。
「てれすはこっち食べて?」
「あ、プリン。いいの?」
「うん、もちろん。あ、他にもこういうのもあるよ」
プリンを食べるのに必要なスプーンを探しながら、同時にちゅるちゅると飲めるビタミンがいっぱい入ったゼリーを取り出した。
それもてれすに渡しておく。
「こんなにもらって、いいのかしら」
「いいのいいの。さ、食べよう?」
「ええ」
両手を合わせていただきますをして、わたしは餃子を、てれすはプリンを食べ始める。
餃子の入った紙パックを開けると、ほかほかと湯気が上がる。それだけでものすごく食欲がそそられた。たれをかけて、一口。
「う~ん、おいしい!」
まだ温かいということもあって、絶品だった。中から肉汁が溢れ出してくる。お肉の甘さとたれのしょっぱさがいい感じだった。
すごく美味しいけど、これを1人で全部食べたら、晩ご飯が食べたれなくなるかもしれないなぁ、なんてことが脳裏によぎる。……まぁ、大丈夫だろう。お母さんのご飯はもっと美味しいから、食べられるの決まっている。
餃子を食べ進めていると、隣でプリンを食べていたてれすがちょんちょんとわたしの制服を引っ張った。
「あ、ありす」
「ほーひはの?」
「その……」
てれすの視線はわたしの手元、つまり餃子へと向いていた。
もぐもぐと咀嚼しながら考えて、1つの答えを導き出す。
「いる?」
「え、ええ。一口だけ」
「はい、あーん」
「あーん……」
プリンが甘いものだから、ちょっとしょっぱいものが食べたくなったのかもしれない。
そんなことを思いながら、割りばしで餃子を1つ掴んで、てれすの口へと運んでいく。この動作も、始めこそてれすが恥ずかしがっていたけど、もう慣れたものだった。当たり前に感じつつあるわたしもいる。
「どう?」
「おいしいわ」
「よかったぁ」
今日はてれすが学校を休んで寂しかったけど、結局一緒にこうやってご飯も食べられているし、一緒にいるし、いつもとあまり変わらなかったかもしれない。
むしろ、てれすのうちに来られたのに加えて二人きりだし、わたしにとってはよかったのかも。ちらりとプリンを食べているてれすの顔を見る。
制服や私服の時と違って、今のてれすは部屋着だからすごく軽装で無防備な感じがする。……って、わたしは何を考えてるんだ。
ほっぺたが熱くなったのを自分でも感じてしまう。
「ありす?」
「へ!? な、なにてれす!?」
「どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもないよ」
「そう? それならいいのだけど」
てれすは若干怪訝そうにわたしのことを見ていたけど、わたしは「大丈夫大丈夫」と念押しして、餃子を食べることに戻った。
結城天です。こんにちは。
読んでくださった皆様、ありがとうございます。
このお話で、ありすとてれすは100話目です!
本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。




