エピローグ
/1.0401E エピローグ
ルキアとルシオラを蘇生――正確には修復――してから二週間が経ったある日。
「その後、二人の調子はどうなの?」
昼過ぎの王都デュランダルの大通り。工業ギルド本部・テスフロスから居住区へ続く道を散歩がてらに歩きながら、ルルキエルはいつの間にか隣にやってきていたララカットにありのままの事実を告げた。
「感情面で言えば、戸惑っていたのは最初だけだったな。直ぐに二人とも事情を飲み込んだようだ」
目覚めて直ぐの二人は相応に混乱していたようだが、主にゼスの話でおおよそは事情を理解したようだった。ルルキエルではああはいかなかっただろう、というのは素直な感想である。親は偉大だ。
落ち着いた後は、自宅に帰って家族会議で話し合ったらしい。というのは、後ほどゼスから聞かされた話である。三人がわだかまりなく――と行けたかどうかは定かではないが、家族としてこれからも一緒にいたいと思えたなら、それが一番なのだろう。
「身体のことも順調だよ。身体を構成する回路構造をいくらか弄ったから二人ともまだ調整は必要だが、これについてはしばらくの間、俺のところに通ってもらう予定でいる。すでに承諾も取り付けた。週に一度、落ち着けばそれを月間隔にして、最終的にはそれも不要になる」
「どれくらいかかるの? その調整って」
「確約は出来んが、おそらく一年もかからないんじゃないか?」
「そう。なら良かった」
ほっと一息ついたララカットに、ルルキエルは聞かれなかった話題を振った
「後は言ってなかったが、遺体で発見したカトローナは秘密裏に処理しておいたよ。ベヒモスに踏み潰されて、無惨な死体だった」
「利用されたとはいえ、可哀想な最期だったね」
ララカットが小さく吐いた息は、先のそれとは違う色を含んでいた。
「因果応報だろう。ついでにシルメリアに殺されただろう人たちの遺体も一緒に処理しておいた」
シルメリアが憑依対象として用意した男、ビルデス・バーグマンの働いていた工場の地下に、無惨に切り刻まれた死体が数体放置されていたのを見つけたのはアルトだ。彼からの知らせを受けてルルキエルが向かった時には、もう腐敗して強烈な臭いでとても近寄れたものではなかった。騒ぎにならないのが不思議だったが、周辺には空き地しかなく、居住区からも離れている為に気づかれなかったのだろう。
必要でなければ誰も近づかない場所。スラムでもないのに王都にこんな空白地帯があるのは新鮮な驚きだったが、一番の驚嘆は、その工場に転がっていた死体の数だ。
「工場の職人が五人、その家族と思われる人間が十二人。一番上は恐らく七十代から、下は十に満たない子供もいた」
「それ、全部シルメリアがやったの?」
「それにしては不可解でな。確かに臓器などを念入りに解体して、各部位ごとに整理された遺体があった。これはシルメリアだろうと思う」
何が魔剣に利用出来るか。人の身体の根幹を知る為に、隈なく調査しただろうシルメリアの犯行だというのは、五年前、彼女がシュヴァリアーだった頃の人体実験の記録とも一致する。
だがあの工場には、そうでない遺体が大半だった。
「もう一人、別の殺人犯がいたのかしれない、というのが俺の予測だ。あそこで殺人が行われて放置されていたのを、体良くシルメリアが利用しただけなんじゃないか?」
ピタリと、ララカットが歩みを止めた。
「………それ、放置したの?」
「どうしろと?」
「警察に連絡するとか!」
「一応、匿名で通報はしておいた。捜査には乗り出しているだろうが、難航するだろうな。俺が色々と細工して、シルメリアの痕跡を消しておいたし」
「え?」
当然だろう、とルルキエルは呆れたようにララカットを見やる。
「シルメリアの一件は俺の――工業ギルドマスターとしての独断で処理している。これは他のギルドはもとより、国家主席議会に下手に口出しされたくないからだ」
「わたしが魔法士ギルドのマスターだってこと、忘れてる?」
「何か言ったか、姉ちゃん」
「都合のいい時だけ姉扱いか!」
まぁ、それは冗談であるが。
再び歩き出しながら、ルルキエルは話を続けた。
「魔剣のことを除いても、五年前に処刑したはずの犯罪者が今も生きていて、実は殺人をくりかえしてました、なんてことになってみろ。責任問題やら何やらで面倒なことになるのは目に見えている」
それは当時の討伐メンバーの一人であったララカットも例外ではない。
「だから巻き込んだんじゃないか。シルメリアの再討伐に前回の面子であるララァとゼスが参加した、というのは対外的にも格好がつくだろう? もちろんシルメリアの生存に関して放置はしない。流石に隠し通すのは無理があるからな。だが報告のタイミングは今じゃない」
「……どうして?」
「五年前にシルメリアの更迭と処刑を決定して、その実行メンバーを選んだのは国家主席議会で、その面子は今も変わっていない。報告したところで、どうせ連中は工業ギルド、つまり俺に責任をなすりつけようとして来るだろう。そう出来ないよう状況整理と根回しを済ませた上で、連中に責任を押し付ける準備が必要だ」
手伝えよ? と言外に告げると、ララカットは心底疲れたようにため息を付いた。
「何か、どっとテンション下がった。これからお昼ごはんなのに」
「知らん。諦めろ。元を正せばお前らが五年前にシルメリアをきちんと殺せなかったのが悪い」
「それはそうなんだけど……あ、着いた」
それなりに距離はあったはずだが、会話しているうちにいつの間にか目的地まで到着していたらしい。弾むような内容ではなかったが。
オープンテラスの賑わうおしゃれな喫茶店は、ララカットのお陰で事件前と変わりないように見えた。空間を断絶させた際にベヒモスによって壊された建物は、現実空間の方には影響しない。第一階位の結界魔法を張ったかいがあったという物である。
「相変わらず盛況なようね」
「来たことあるのか?」
「シエラちゃんがまだ健在だった頃にね」
喫茶サフラン。
ゼスとシエラが始めた二人の店。シエラが亡くなった今は、ゼスとその娘たちと営む彼らの居城だ。
その看板の前に立つと、店の奥で来店を察知した二人の女性の声がユニゾンした。
「「いらっしゃいませ~!」」
近所でも評判の姉妹の声に、何人かの男が頬を染めて立ち止まった。流石、ファンクラブまで設立されているだけある美人姉妹である。
「よかったぁ。元気そうね」
「そうでないと、俺が面倒を押して蘇生させたかいがない」
店内は相変わらず男性客が多かった。それを見越して店員を全て女性にしたゼスの商売の手腕を流石と褒めるべきだろうか。
ルキアとルシオラが、こちらを見て近寄って来る。妹は爽やかな笑顔なのに対して、姉の方は少し気まずげな表情だった。
「お任せランチセット二人分よろしく」
「承りました。あ、お父さんが、ルルキエルさんが来たら伝えてくれと言われたんですけど」
「ん?」
「ラックラグー肉のホワイトシチュー、用意しているそうですよ」
答えるのに一拍だけ間をおいたのは、懐かしさが胸を突いたからだった。
「……ああ、ならそれもお願い出来るか。済まんが、ララァの分も」
「ランチセット、サイズをミニに出来ますけど?」
「頼む」
「かしこまりました。それでは、お席でお待ちください」
厨房に戻って行くルシオラとは別に、ルキアはその場に残ったままだった。どうも視線が行ったり来たりと落ち着きのない様子である。
「……何か言いたいことでもあるのか?」
ルルキエル達が案内された席は、店の奥のボックス席だ。ララカットと二人で座るには広いが、他の席と離れている分、会話を聞かれないで済むのはありがたい。
「気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど……」
「ん?」
「……何で助けてくれたの?」
「不満か?」
「そんなはずないわ。もちろんありがたいと思ってる。ルルキエルが助けてくれなかったら、私たち今みたいに笑って過ごせてなかったんだし。でも、私たちの身体のこともそうだけど、なんかもらってばっかりだから……」
確かに結果からすればそう見えなくもない。実際、ルルキエルはミルトス家に対して何も要求をしていないからだ。
ほとんど縁のないはずのギルドマスターが、何故無償で助けてくれるのか。ルキアが気にしたのはその点らしい。
「ま、おいおいな。時期がくれば教えてやる。今は自分たちのことだけ考えてろ」
ほんの一週間前まで、ルルキエルが施した調整に伴う弊害で、姉妹は満足に歩くことすら出来なかったのだ。
馴染んでしまえばどうということもない、リハビリも必要なく平常に戻れる程度の弊害だ。だから今は普通に生活し、普通に仕事が出来ている。
だがルルキエルの当初予定していた改造は、実のところ全て終わっていない。一度に施行すると二人への負担が大きくなる為、段階を踏むことにしたのだ。
これからも少しずつ、調整という名の改造を施して行く。
それと並行して、ゼスに戦闘訓練を受けて、地力も増やしてもらわなくてはならない。
だから今は、自分の身体のことを考えていればいい――そう言ったルルキエルの言葉に、ルキアは頬を染めて頷いた。
「うん。わかった。待ってるね」
それで今は納得したらしい。笑顔で仕事に戻って行くルキアの背中を見送りながら、今度は何故か憮然とした表情のララカットがルルキエルの足を小突いて来た。
小声なのは、姉妹に聞かれない方がいいだろうと思ったのだろうか。
「……そう言えば、わたしも聞き忘れてたんだけど」
「何だ?」
「何であの姉妹を助けたの?」
数瞬、思考に沈む。ルキアにはまだ早い。だが付き合いが長いララカットなら。その考えが自然と間になった。
「わたしが知るルルは、見知らぬ他人どころか、見知った他人であっても見捨てるでしょ?」
「それだけだと、俺が人でなしのように聞こえるから不思議だな」
「不思議でもなんでもなく、事実でしょうが」
ララカットの声には特に抑揚もなく、ルルキエルの人物評において客観的事実を述べているにすぎない。特に感想を抱くこともないのは、彼女が、ルルキエルが冷徹なだけの人間で無いことを知っているからだ。そうでなければ、妹弟のように長く付き合えるはずもない。
だからこそ気になった。姉妹を助けたルルキエルの意図はどこにあったのだろうか。
「ねぇ、あの子たちは、ルルにとっての何?」
「……あの二人は魔剣を造る過程で生み出された魔剣用の素材だ」
「それが?」
「つまり、人間と同じ構造をもちろんながら、魔剣の能力を有することが出来る。シルメリアが欲したのは、まさにそれが最大の要因だな。彼女らを新たな魔剣にすることができる。人型の魔剣だ。その有用性と希少性は計り知れないだろう」
それが重要な事実であることはわかっているが、ララカットの質問の答えにはなっていない。ルルキエルもそのことに触れたいわけではなかった。
「だが別に、だからと言って、シエラの娘で無いわけじゃない」
「…………うん?」
よくわからない。言葉にしなくてもララカットの表情がそう語っていた。
「みんな勘違いしているようだが、あの二人は、ちゃんとシエラがお腹を痛めて産んだ子だぞ?」
だからこそシエラは最終的には姉を裏切ってまで娘を守ろうとしたのだと、ルルキエルは思う。魔剣への執着より、そのきっかけより、自分がおなかを痛めて生んで、自分を母として慕う子供に情を抱いた。もし母体となったのがシルメリアだったなら、あの姉妹の選んだ道は変わっていたかもしれない。たら、れば、を言ったところで易のないことではあるが。
残念ながら? ゼスとは血が繋がっていないのだが。
「では、あの二人はいったい誰の子だと思う?」
今度はララカットが硬直する番だった。
「え? はぇ? いや、ちょっと待って! どういうこと?」
と――
「お待たせしましたーっ! お任せランチセットに、こちらは当店裏メニューのラッグラグー肉のホワイトシチューです。チーズはお好みでどうぞ。熱いのでお気をつけてお召し上がりください!」
サンドイッチとサラダ、コーヒーのついた軽食セットが二つと一緒に、湯気立つシチューが運ばれて来る。
濃厚なミルクベースのソースに、具はキノコ類が数種、人参、アスパラガス、そしてメインのラッグラグービットという兎科の獣肉が、一口大にカットされて煮込まれたシチューだ。
子供の頃、ルルキエルが大好物だった品。十年振りにお目にかかる、サフランの裏メニューである。
「さ、少し遅くなったが昼食にしようか」
「あ、コラ! サラッと爆弾落としておいて無視するな! ちょっとどういうことかきちんと説明しなさい! ルル!」
ギャーギャー騒ぐ姉を無視して、シチューを軽く口に含む。濃厚なミルクに溶け込んだ、煮込まれた具材の出汁が身体を駆け巡り、思わずルルキエルはホッと息を吐いた。
「美味い」
久しぶりのご馳走に舌鼓を打ちながら、ルルキエルは、まだぶつくさ文句を言いながらも食事するララカットに知られないように苦笑した。
「後で絶対に説明してもらうんだからっ!」
さて、どう言い聞かせたものか。
ま、ゆっくり考えるとしよう。時間は十分にある。
***
工業ギルド本部、テスフロス。地下五十五階。三階分のフロアを誇る巨大な空間に陳列されているオリハルコン製の筺体は、全てシュヴァリアーの魔剣を保管する為のものだ。ここには魔剣しか存在しない、魔剣専用の保管庫である。
だがそれらとは一線を画すように、空間の中央に設置されている魔剣があった。
「――以上がことの顛末だ」
その魔剣に向かって、剣呑さが多分に含まれた声色で彼が語りかけているのは何時ものことなので、彼女もまた特に気にも止めずに何時ものように笑った。
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! ああ、流石だね、我らがシュヴァリアー。流石だよ、ルルキエル」
No.7『セプテバベル』。初代が造った魔剣。一桁のシリアルを持つ、シングルナンバーと呼ばれるかの魔剣は、歴史的観点からも、魔法学の視点でも、貴重かつ重要な存在である。
千年前に製造され、ルルキエルが現れるまで眠り続けてきた魔剣は、シュヴァリアーの魔剣として登録された全魔剣の情報を知ることの出来る唯一の存在だ。彼でさえ把握していないの情報を有している。
その有用性は疑うべくもないはずなのだが、ルルキエルのセプテバベルへの態度は変わらず冷淡なままだ。
「黙っていろ。お前の感想などは聞いていない。聞きたいと言うから話したんだろうが」
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ!」
今日、この保管庫へルルキエルが訪れたのは、
――No.213『ディットクレイ』
――No.277『ニグロス』
回収した二本の魔剣を、改めて管理下に置く為だ。
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! 苦労したかいがあったってもんさね」
「苦労も何も、お前は口しか出せないだろうが」
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ!
魔剣を収容したコンテナが所定の位置へと運ばれるのを、セプテバベルはただ見ていた。目もなければ口も鼻も耳もない。だが彼女は物を見て、言葉を話し、匂いを嗅ぎ取り、音を聞き取る。
それらを元に、思考する事が出来る。
「魔剣の反応があってからお前に情報を聞き取るのは面倒だな。これに関しては対策が必要か」
だからルルキエルが呟いた言葉の意味を、彼女は考える。導き出された答えは一つしかなかった。
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! 儂とリンクするのはそんなに嫌か?」
十の工程を経て制御された魔剣は、その所有者の一部となる。所有者と魔剣の間に魔力による接続が生まれる。例え魔剣本体がどこにあっても、呼びかけに答えて空間を飛び越え、所有者の元に出現する。
だがセプテバベルは、起動して半年経った今もまだルルキエルと接続していなかった。もとより初代シュヴァリアーを除き、誰の物にもなったことはない。だからこそ、千年近い長き時をずっと眠り続けていたわけだが。
ルルキエルが見つけ出して起こさなければ、永劫眠り続けたかもしれない。だがそのことに不満を覚えているわけではない。眠っていたかったという欲求は嘘ではないが、起こしてくれたことには感謝もしている。
「お前にかぎった話ではないがな。シングルナンバーの魔剣は、例外を除いて基本的に気に食わない」
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! けれど、他のシングルナンバーの反応は未だ見つかっていないんだろう?」
「知っての通り、真っ先に封印しなければならん連中が野放し状態だ。全く、気が滅入るよ。お前が剣型であったのは、まだ助かったというべきか」
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! お前さんが儂にお世辞を言うなんてね。槍でも降らなきゃいいがね」
案の定、ルルキエルは心底嫌そうな顔をした。それは仮面をしている状態でもわかった。
「安心しろ、もう二度と口には出さん……さて。これで完了だ」
遠隔操作でコンテナが所定の位置に固定されるのを見届けて、ルルキエルはセプテバベルに背を向けた。
「俺はもう行く」
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! 次はいつになるのか、楽しみだねぇ」
「さぁな。しばらくはまた落ち着くだろうが、一年――いや、半年後にはまた回収率が上がるだろう」
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ! そうかい。それじゃ、次の兄弟が見つかるまで、儂もしばらくは眠るとするよ。することもないからねぇ。また起こしておくれ」
「勝手にしろ。だが時が来れば、わかっているな?」
セプテバベルの反応を待たずにホールの厳重な扉の向こうにルルキエルの姿が消えると、自然とホールの灯りも落とされた。再び暗闇になった空間で、彼女はすでにいなくなった彼に向かって返答する。
「ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ!」
わかっているよ、ルルキエル。今代のシュヴァリアー。
働けと言うんだろう?
だがそれだけじゃない。
回収率が上がる? その通りだろうさ。
あんたは、シルメリアというかつてシュヴァリアーだった女を挑発して、嘲笑して、煽りに煽って、その闘争心に火を付けた。奴さん、憤怒と憎悪を滾らせて、死に物狂いで魔剣を探すだろうね。
あんたを見返す為に。
あんたを殺す為に。
世界の何処かに存在するだろう行方不明の魔剣を探しだし、復讐にやって来るに違いない。
その女がどれだけ優秀かは知らないよ? けどね、どれだけ優秀だろうと、どれだけ天才だろうと、魔剣はその手に出来ないのさ。
例え手にしても、それは全て無駄に終わる。
シルメリアが必死の思いで集め、必死の思いで制御した魔剣の支配権を、あんたは苦もなく笑いながら、片手間のように奪うんだろうね。
それが出来るから、彼女を見過ごしたんだろう?
まだ見つかっていない魔剣を探させる手駒にしたんだろう?
誰も気づいていないだろうね。シルメリアさえ思いもしないだろう。己が生かされているその理由が、魔剣を集める為だなんて考えないだろうさ。他人に憑依しただけの精神体を殺す技術を、ルルキエルがもっていないわけないだろうに。
儂はただのデータベースだ。口しか出せない。けどね、初代の造ったシングルナンバーだ。だからこそわかることだってあるんだよ。
シュヴァリアーの刻印が刻まれた魔剣の能力を自ずと把握できるよう、初代が儂を造ったように。
この世に生まれたシュヴァリアーの魔剣は全てあんたの支配下に置かれる。
そうだろう?
それが、初代に課せられたあんたの使命で、あんたの能力だからさ。
この世に生まれ落ちた世界で最初の魔剣、シリアルNo.1『ルルキエル』。
千年前に造られたあんたが。
儂よりも先に造られたはずのあんたが。
何故、長き時を経たこの時代に生きているのかは知らないし、知りようがない。儂ぁ、シングルナンバーで唯一の人型でない魔剣だからね。
ヒェヘヒェヘヒェヘ――ッッ!
待ち遠しいねぇ。いつになるんだろうね。シュヴァリアーの魔剣が全てが揃うのは。そう遠くないんだろうねぇ。
きっと遠くないうちに集まるだろう我らが兄弟に会える日を楽しみに、儂はしばし眠るとするよ。また必要になったら起こしておくれ。
―― 完 ――
今作は、いったんここでピリオドとなります。
いかがでしたでしょうか?
読んでいただいた方、改めてお礼を言わせてください。
お付き合いいただきありがとうございました。
続きを第二章(第二話?)として執筆するかは検討中です。
魔剣、残り三百本弱。その気になればたくさんネタ作れそうなので、
広げようと思えば広げられそうな気もするのですが。。。
あと、軽い小話をいくつかはさんで、本作は終了しようと思います。