プロローグ
友人は、茶でも勧めたいところだが、生憎用意が無い、などと皮肉な笑みを浮かべながら言う。
そんな事は百も承知である。
昨年の五月頃からのつきあいであるから、かれこれ一年半と言ったところか。 それだけあれば、この場に茶が出ない事など言われるまでもない。
しかし、彼は私がここを訪ねる度に同じ事を言うのだ。
初めてあった時もそうであったように、寸分と違わぬ形の笑みを浮かべながら、聞く。
そして私も毎回同じ様に手で制しながら、外で飲んで来たと言ってひりつく様な喉の渇きを誤魔化すのだ。
いつもであれば、そこでお開きになり、私は一寸出たところにある自販機で、微糖入りの缶コーヒーなんかをチビチビと啜りながら帰るのだが。 今日は違った。
もし、と。
彼は切り出す。
「もし、この続きが気になるのであれば、今日はもう少し話していかないか」
彼からのその誘いに、私は喉の渇きと好奇心との天秤に頭を悩ませる事になったが、体は反射的に、聞きたい、と口を動かしていた。
彼はそれ自体が何かの嫌がらせであるかの様に、また、それが成功したと言う風にしたり顔でニヤニヤと笑みを浮かべる。
私はこれ見よがしに嘆息するが、きっと今の私は滑稽なまでに彼の読み通りに動いているのだろう。
私が彼の事をよく知っている様に、彼もまた、私の事をよく知っているのだ。
ひょっとすると、私以上に。