10
「その格好で推理を外すと、本当に滑稽ですね。 金田一耕助が何も出来ずに帰ってくみたいです」
菊助はクスリと笑うと、機械的に歩くだけの加多利の袖を引っ張って事務所に案内する。
「菊君。 何で分かったんだい」
「ああ、それは簡単な事ですよ。 富野さん、ストーカーにしても色々知りすぎなんですよ。 まるで本人から直接話を聞いているかのように。 それなのに、兄の話だけ食い違っていた。 そこが引っ掛かったんですよ。 だから、昨日電話して、会いに行ったんです」
「そんな近場だったのかい?」
「いいえ、だから駅前の(・・・)肉屋に行ったんでしょう」
「ああ」
加多利はようやく納得がいったというように頷くと、そのまま糸の切れた操り人形のようにソファに崩れた。
「君は本当に優秀だね」
菊助は自慢気に、ニッと微笑む。
「そうじゃなきゃ、先生の隣に並んでられないでしょ」
倒れた加多利に菊助は手近な毛布をかけながら言った。
「先生は無能だから、優秀な僕が居ないとダメなんですよ」
加多利は苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら頷く。
「本当に、困ったものだよ」
夕日を反射し、溶けた黄金のように色を変える菊助の艶やかな髪を眺めがなら、加多利は呟いた。
そして、雪の様に白いその肌が、輪郭が溶けてしまわぬ様に、そっと瞼の裏に映し出し、眠るのだ。