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9話 ミツコちゃんも働いてよ

「洞窟の中にモンスターとかいないんだな」

 ミツコは明るい洞窟の中を歩きながらそう言った。

「私としては光が無いのに明るいのが気になります」

 マホはそう返した。

「ゲームだからじゃない?」

 サユがそう答える。

「リアリティの無いゲームだ」

「敵の前でお手玉する人が言うセリフじゃないねぇ」

「仕方ないだろ! 体が勝手に動くんだから!」



 洞窟の奥を進んでいくと、開けた場所に出た。

 船が何隻も入りそうな入り江があり、奥は船が出入りできる大きな穴が開いている。

 その穴から日射しが入り込み、洞窟の中の入り江を照らす。

 入り江の端には大きなイカの姿があった。

「いたな……」

「船の上じゃなくて地面から見上げるとかなりでかいね」

 サユはシルフスライサーを抜く。

「昨日の今日なのに火傷の後がありませんね……」

「ほら、逃げた敵が全回復するのはゲームでよくあるし」

「それってひどい仕様だな」

「ついでに言うとボスだからこっちは逃げられないんじゃない?」

「逃げるわけねーだろ! 行くぞ!」


 入り江のイカは目でサユ達を捉えると触手を振り下ろしてきた。

 サユ達は走って触手を避ける。

「行くよマホちゃん!」

「はい!」

「シルフスライサー」「ボウマタヒエノモル」

 火の刃がイカへと迫る。

「やった!」

 ミツコがそう叫んだとき、イカの一本の触手から水が飛び出した。

 その水は火の刃をかき消し、イカに届くことはなかった。

「はあぁ!? ざっけんな!」

「あ! あれを見てください!」

 マホは触手の先を指差す。

 そこには一本の青い短剣が張り付いていた。

「あれってもしかして水の魔法剣!」

「まさか火が効かないって言うのか!」

「ボウマタヒエノモル!」

 マホはすぐ近くに振り下ろされた触手に火を放つ。

 触手は瞬く間に燃えていく。

 イカはすぐさま水を出す。

 油にまみれた触手の火は水によって周りに飛び散り、サユ達を襲う。

「あちゃちゃ!」

 サユ達は叫びながら飛び散る火をかわす。

 触手の火は消え去り、触手には傷一つない。

「だめです! 火が効きません!」

「こうなったらシルフスライサーで地道に攻撃するしかないよ!」

「馬鹿! とりあえず作戦を立て直すぞ!」

 ミツコは逃げ出した。

 しかし、洞窟の出口はイカの触手で塞がれていた。

「逃げれねー!」

「ほらミツコちゃん、これボスだから……」

「……ひでぇ」

 イカは触手を再度、サユ達に振り下ろす。

「なんの! シルフスライサー!」

 サユは風の刃を振り下ろされる触手に放つ。

 触手は切られ、誰もいない海の方へと落ちる。

「ふっふっふ、船の上ならともかくここなら負けはしない!」

「おお! いいぞサユ!」

「ミツコちゃんとマホちゃんはそこで私の勇士を見ているといい! シルフ……!」


 イカは青い短剣を振りかざす。すると青い短剣から大量の水がとめどなくあふれ出し、洪水となってサユへと襲いかかる。

「スラあああ!?」

「サユ! おわああ!」

「きゃあああ!」

 洪水はサユだけでなくミツコとマホも飲み込む。

 三人を取り込んだ水は形を変え、空中で渦を巻いた。

「「ゴボゴボゴボ!」」

 三人は水の流れに抵抗することもできず、渦の中をぐるぐる回る。

 そして空中で渦を巻いていた水は洞窟の壁へとぶつかり、はじけた。

 サユ達は壁に打ち付けられ、そのまま地面に落ちる。

「……ゲホッ! みんな、生きてる?」

 サユはうつ伏せのままで声を掛ける。

「……大丈夫だ」

「なんとか……」

「私は正直、もう動けない」

「それな、分かるわ」

「次に触手がきたらまずいですね……」

「どうしようか?」

 イカは触手を床に這わせながら吹き飛ばしたサユ達の方へ徐々に近づいてくる。

「そんなん分かるか……」

「ともかく、全力で攻撃するしかないと思いますよ?」

「おまえら頑張ってくれ」

「ミツコちゃんも働いてよ……」

「そんな事言われても、投げナイフは効きそうにないし。新しいのは笛しか無いぞ?」

「……じゃあ吹いてみてはどうですか?」

「こんな状況で吹くとか、馬鹿じゃねえか」

「ほら、来るよ! ミツコちゃん!」

「だああ! やりゃいいんだろ!」

 迫り来るイカ。

 サユは風の刃を振るわせ、マホは火の玉を放ち、ミツコは笛を吹いた。

 火の玉と風の刃が重なり、火の刃となった時、不思議なことが起こった。

「「なんかめっちゃ増えたー!」」

 火の刃が分裂し、数多の火の刃となったのだ。

 イカは青い短剣から水を出し、火の刃へぶつける。だが、全てを消すには至らず、いくつもの火の刃がイカの体を切り刻む。

 イカの全身が瞬く間に燃える。

「なんだかよく分からないけど、やった!」

「笛の力なんですかね?」

 イカは自分の体についた火を消そうと水を出す。

「ともかく、倒れるまで何度もやるぞ!」

「うん、やろう!」

「シルフスライサー!」「ボウマタヒエノモル!」「ピポ~♪」



 三人の前には船のようにでかい棺桶の姿があった。

「はぁ、はぁ、やったな……」

「なんとか、ね……」

「笛のおかげですね」

「しかし、何で笛を吹いたら増えたんだ?」

「もしかしたら魔法剣の威力を上げてくれるのかもしれませんよ?」

「なるほどな。サユ、ちょっと試すぞ」

「うん分かった」

 サユ達は試したが、特に変化は無かった。

「違うのか?」

「そうしたら私の呪文の方でしょうか?」

「じゃあ、マホやるぞ?」

 マホの呪文をいくつか試す。その結果、マホの放つ火の玉が大きくなる事が分かった。

「どうやら、笛を吹くと火が強くなるみたいですね」

「みたいだな、それにしても強くなるのは火だけか……」

「もしかしたら他にも楽器があるかもね?」

「あり得ますね。もしそうなら楽器も集めた方がいいかもしれません」

「またあの変人に会わなきゃならんのか……」

「いいじゃない変人同士、気が合うでしょ?」

「誰が変人だこらぁ!」

 ミツコはサユの顎にアッパーを放った。

「ふえっ!」



「みなさーん、お疲れさまですー」

 洞窟の入り口から出てきたサユ達の前にプルエが降り立つ。

「あ! プルエさん、これを見てください!」

 サユは青い色の鞘に入った水の魔法剣をプルエに見せる。

「まー、どうしたんですかー? それー」

「あのイカから手に入れたんですよ! 水の魔法剣なんです」

「そうなんですかー、おめでとうございますー」

「それじゃあ亀のおじいさんの所へ戻りましょうか」

 マホは老人のいる海へ向けて一歩踏み出す。

「ああ、そうだな」

「ちょっと待っていただけますかー?」

「どうしたんですか? プルエさん」

「よろしければどちらかの剣を預かりますよー?」

「あー、どうしようか?」

 サユはミツコとマホに聞く。

「別に二つくらい持てるだろ?」

「いざという時の事を考えると両方持ってた方がいいでしょうね。幸い新しい剣は短いですし」

「確かにそうかもね。それじゃあプルエさん両方とも自分で持つので大丈夫ですよ」

「……そうですかー、分かりましたー」



 サユ達四人は海岸の老人の小屋へと戻った。

 小屋の前には老人とグランタートルの子供がいた。老人はサユ達の姿を確認すると近づいて話しかけた。

「お前たち、あのイカを倒したのか?」

「ああ、倒したぜ」

「そうか……、よくやってくれたな」

 老人の後から亀がやってくる。

「それじゃあ、もう行くわ」

「……ありがとう」

 老人は深くお辞儀をした。

「お前たちが無事であること祈って……、む!?」

「ん? どうしたんだ?」

 老人はサユの腰のあたりを見ていた。

「お前さんが持っているその青い短剣、まさか『ウンドストライク!』」

「おじいさん、これを知っているんですか?」

 サユは青い短剣を手にとって老人に見せる。

「よく知っている」

 そう言って老人は海の方へ視線を移す。

「少し、この老人の昔話に付き合ってもらえるか?」

「どうする? ミツコちゃん」

「何で私に聞くんだよ?」

「だって、いつも急いでるじゃん?」

「急いでたらイカ退治なんかやらねーよ」

「……そっか」

「それでは聞かせていただけますか?」


「……儂は昔、海賊の船長だった」

「海賊?」

「そう、あの洞窟に隠れ住みながら商船を襲っていた。儂はしがない海賊だった。だがある日、商船から手に入れたウンドストライクを手に入れてからは、たくさんの部下を従えて次第に大きくなっていった。時にはグランタートルを狩って、その甲羅でより大きな船を作った事もあった」

 老人はグランタートルの子供を少し見た後、空を見上げた。

「いつまでもそんな生活が続くと思っていたよ。だが、そうではなかった。……ある日、年老いた儂を部下たちが裏切ったのじゃ。命を助けたこともある部下にじゃ! ……何十人の部下が相手に儂一人ではとてもかなわない。自分の命がどうしようもないと悟ったあの時の儂は、裏切った部下に儂が築いた財産を渡したくない一心だった。だから儂は持っていたウンドストライクの力で全てを海の底に沈めてやったのじゃ。部下と自分の船と儂自身をな。だが、儂は助かった。儂はグランタートルに助けられたのじゃ。仲間の命を奪ったことのある儂をな。それ以来、儂は海賊であった事を忘れてグランタートルと共に暮らしてきた。その剣は儂が海賊だった頃、愛用していた剣。自分のわがままを振りまいてきた剣だったのじゃ……。儂の話は以上じゃ」


「話なっげぇよ! じじい!」

「なんじゃ! ちゃんと断りいれたじゃろが! 文句を言いおってからに!」

「まあ、二人とも落ち着いて。えっと、おじいさん、この剣なんですけど……」

「お前が持っとればええ、儂にはもう関係ないものじゃ」

「あ、はい。では遠慮なく」

 サユはウンドストライクを腰に納めた。


「ではな、お前たちの旅の無事を祈っておるよ」

「はい! おじいさんも元気で!」

「養生してください」

「じゃあ、行くぞ」

「ミツコちゃんも何か言いなよ?」

「……亀と一緒に元気でな」

 ミツコ達は海岸を離れ、森の中へと入っていく。


「本当にありがとう……」

 老人は森の方へ頭を下げる。

 グランタートルの子供の目にはうっすらと涙が流れていた。



「ウンドストライク!」

 サユが青い短剣を振るとサユの周囲に水が現れ、周りにいた多数のキノコ型のモンスターがその水に飲み込まれていく。

 そしてモンスターは水の中で棺桶になる。

「はっはっはー! 一荒れの水が絶望渦巻く私の心を希望へと導く!」

「相変わらず馬鹿やってるな、あいつは」

「いいじゃないですか、楽しそうで」

「……マホはどうなんだ?」

「楽しいですよ、ミツコちゃんは?」

「……まあ、悪くはないな。それよりこのまま海沿いでいいんだよな?」

「ええ、シーダイさん達は元々別の港街へ行く予定でしたし……」


「さあ、ゆかいな仲間たち! 私の後に続くのだー!」


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