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7話 すんごい燃えてるね

「私は戦えないので失礼しますー」

 プルエはバタンと扉を閉めて船内へと隠れる。


 ジーゴック号の外には船と同じくらい大きなぬるぬるとしたイカがいた。イカは全身を海上に出し、船へと触手を絡ませようとしていた。

 船員は甲板に巻き付いてくる人の背よりも太い触手へ手に持っている剣や斧を振るう。しかし、ぬるぬるする触手に滑り、傷一つつかない。


「皆、下がって!」サユが叫ぶ。

「シルフスライサー」くの字に曲がった緑の剣を振るう。剣から生じた風の刃は触手を切り落とす。

 それを見た船員たちから感嘆の声があがる。


「やった!」

 サユがそう叫んだと同時にさらに別の触手が巻き付く。

「シルフ……」

 その時、サユの頭からさらに別の触手が振り下ろされようとしていた。


「ゴウマキビュウタゼフカツクゴ」

 マホがそう唱えた瞬間、杖からすさまじい風が吹き出し、振り下ろされる触手の軌道を変える。

 触手はズズンという大きな音と共にサユから一歩離れたところで船体に絡む。


「ありがとう、マホちゃん」

「サユちゃん、このままでは船が持ちません! 本体を狙いましょう! 合わせてください!」

 マホはイカの胴体を指さす。

「分かった!」

 マホとサユはイカの胴体の方へ、それぞれ杖と剣を構える。


「ボウマタヒエノモル」「シルフスライサー」

 マホは火の球を撃ち出し、サユは風の刃を放つ。

 火の玉と風の刃は途中で交わると火の刃となってイカの胴体に当たった。

 船くらいの大きさを持つイカの全身がたちまち燃え広がる。


「……すんごい燃えてるね」

「何であんなに燃えてるのでしょうか?」

「ま、まさか!」シーダイはサユが切り落とした触手へと向かう。

 燃えさかる火は船に絡みつく触手にも広がり、燃える触手の周りはブスブスと黒い煙を上げていた。


「ちょっ!? このままじゃ船まで燃えちゃうよ!?」

「任せてください!『ドミガズシャオルゴリウトゴ』」マホの杖から水があふれ出してくる。

「駄目だ! 水を使うな!」シーダイが叫ぶ。


「え?」

 杖の水が燃えさかる触手に当たった瞬間、火が弾け飛び、周りに燃え移る。

「そんな!?」

「このイカの表面は油で覆われているんだ!」シーダイは切り落とされたイカの触手に触れながら言った。


 燃えさかる巨大なイカは触手の先まで火が回ると海の中へと沈んで行く。

 そして、イカはすぐに浮き上がる。イカの体に燃えていた火は消えたものの、全身には焦げた後が残っていた。イカは海の中へ沈むのと浮き上がるのを繰り返しながら船から離れていった。


 船の甲板にいた人達は全員、甲板で飛び散った燃える火の始末をしていた。切り落とした触手は海へ捨て、靴底や衣服で飛び散った火を消していく。触手から船へ直接燃え移ることはなく、船には黒い後が残っているだけだった。


「すみません、私のせいで……」マホとサユはシーダイに頭を下げる。

「……あのままではイカの餌食になっていただけだ」シーダイはそう言うとマホから背を向けた。

 マホは頭をあげてシーダイを見る。

「でも一歩間違えれば……」

「追い払ってくれて助かった!」シーダイは叫ぶ。

「……はい、ありがとうございます」


「……そう言えばミツコちゃんは大丈夫かな?」

「心配することはない。船室は船底の近く、グランタートルの甲羅に穴が開くことなど無い」

「そうですか、なら安心……」

「皆さん! 大変です!」バンッという音と共にドアが開き、プルエが出てきて叫ぶ。

「船底に穴が開いて海水が入ってきています!」

「「なんだって!!」」



「えーい、くそっ! 開かねぇ!」ミツコは船室のドアを押す。

 ドアの下からは海水が漏れだし、ミツコとモカネの足首のあたりまで来ていた。

「ミツコちゃん! いる?」ドンドンと扉を叩く音がなる。

「サユ! そっちにいるのか!」

 ドアの向こう側は通路になっており、サユの他にシーダイがいた。通路では水がサユの胸元にまで来ていた。


「モカネは! モカネはいるのか!」シーダイがドアに向かって叫ぶ。

「パパ! 中にいるよ!」

「モカネ! 今、開ける! 待っていろ!」

「ミツコちゃん! 扉から離れて!」サユはシルフスライサーを抜いて

「分かった!」ミツコは返事をするとモカネの手を引いて扉から離れる。


「離れたぞ!」

「よし、『シルフ……』」サユがシルフスライサーを振り下ろそうとしたその時。

 船体が大きく傾いた。通路内の水が大きな波となってサユ達を襲う。

「スラあああ!?」波はサユ達を押し流し、そのまま甲板へと戻された。


「サユ? サユ!」遠ざかるサユの声を聞いたミツコはドアへと近づき、ドアを叩く。ドアの向こうから返事が帰ってくることは無かった。

「くそ!」ミツコはドアを蹴る。海水は彼女の膝まで来ていた。

「ね、ねぇ」モカネがミツコの腕を掴む。モカネの脚は完全に海水に浸かっていた。

「なんだよ?」

「ボク、泳げない」

「……はぁ、嘘だろ?」ミツコはため息をつきながらドアにもたれ掛かった。



 甲板に戻されたシーダイは船内へ戻ろうとしているところを船員に止められていた。

「離せ! モカネはな、泳げないんだぞ!」

「もう無理です! 水がそこまで来てるんです!」

「離せ! 離すんだ! モカネー!」


「シーダイさん!」サユが叫んだ。

「お前からもこいつらに言ってやれ!」

「……ミツコちゃんを、ミツコちゃんを信じてください!」

「貴様! 自分の言ってることが分かってるのか!」

「お願いです! 絶対に大丈夫ですから!」サユは甲板に手をついて頭を下げる。


「ふざけるな!」

 シーダイの叫ぶ声が甲板に響く中、サユの隣にもう一人、マホが頭を下げる。

「サユちゃんを、そしてミツコちゃんを信じてください」

 マホの言葉が終わると同時に船員達が次々と頭を甲板につき始めた

「「お願いします、シーダイ様」」


「ぬ……う……、信じろというのか? あの小娘を?」

「ミツコちゃんなら大丈夫です」

 サユは頭を上げてシーダイの目を見る。

 シーダイはサユから目をそらす。そして頭を横に振るとサユの顔を見てこう言った。

「……分かった。信じよう」

 船員は顔を上げる。

「船を放棄する! 早くこの船から脱出するんだ!」


 船室では海水がミツコの肩まで来ていた。モカネはミツコの首に腕を回し、しがみついていた。

「いいか? 私の首を絞めたり、暴れたりするなよ?」

「うん」

「……なあ」

「なに?」

「お前らも死んだら棺桶になるのか?」

「……棺桶って何?」

 ミツコはため息をつく。

「やっぱ生きてここから出るしかないか」

 海水は船室をどんどん満たし、ミツコの足は船室の床から離れた。


「おい、よく聞け」ミツコがモカネに言った。

「う、うん」

「この船室が海水で満たされたらドアが開くはず。そうなったら船内の中を泳いでいくからな?」

「え、でも……」

「このままだけでも死ぬだけだ! 死にたいのか!」

 モカネはビクッと体を震わす。

「……いいか、お前は目と口を閉じてしがみついてればいいんだ。分かったな?」

「……うん」



 船室の中が水で満たされていく。ミツコたちは部屋の隅に残ったわずかな空気の中に顔を出していた。

「いいか? そろそろ行くからな」

「分かったよ」

「よし、0って合図したら行くから、今のうちに深呼吸しろ。落ち着けば大丈夫だ」

「うん」

 モカネはミツコに言われた通り深呼吸をし始める。


「……お前は私の心臓の音を聞いてろ。こんなの全然へっちゃらだってのを教えてやる」

 モカネは深呼吸をつづけ、ミツコは鼻で笑った。

「行くぞ、3、2」

 ミツコはモカネの深呼吸に合わせてカウントする。

「1、0!」

 ミツコは思いっきり息を吸って潜っていった。


 ミツコは船室のドアに触れる。ミツコが体重を掛けて押すとドアが開いた。

(よし、いける)

 ミツコは通路に出ると出口へと向かう。

 来た時の道を思い出しながら逆にたどり、出口から船を脱出した。

(あとは海面まで出れば……!?)


 魚人A、Bが現れた。


「ひゃっはー! 久しぶりの人間だ!」

(くそ、こんな時に出てくんじゃねえ)

 ミツコは海面を見上げる。海面まではかなりの距離がある。

 ミツコの背中で目をつぶってじっとしていたモカネが体を震わせる。

 ミツコはそれに気づき、モンスターから逃げ出す。


 しかし、敵に回り込まれてしまった。

「おっと、逃がさねぇぜ!」

(邪魔すんじゃねえよ!)

 ミツコが魚人を前に考え込んでいると、モカネは口から空気を吐き出してしまった。

 モカネの腕の力が抜けていき、底へ向かうようにミツコから離れる。

 ミツコはモカネの腕を掴む。そして魚人に向かい合った。

(いちかばちか、頼む!)

 ミツコは攻撃を放った。



 船が沈んだ海上の辺りでは小型の船が一つ存在した。そこでサユ達は海上でミツコとモカネの名前を叫んでいた。

 だがサユやマホ、シーダイがいくら叫んでも返事が返ってくることは無かった。

「モカネ……」シーダイは船に腰を下ろして俯く。

「ミツコちゃーん! モカネー!」

「サユちゃん、少し休んだ方が……」

 マホの言葉を聞かず、サユは叫び続けた。


「……ミツコさんが死ぬ事は無いので安心してくださいねー」

「でもモカネは違うんでしょ!」サユはプルエに振り向きながら叫ぶ。

「……ええ、まあ」

 サユはまた、海に向かって叫び始めた。


 その時、海から黄色や赤の丸い物達が飛び出してきた。それはたくさんの風船だ。

「ミツコちゃん!」サユは風船に向かって叫ぶ。

「ぶはぁ!」ミツコは海から顔を出す。そして気絶しているモカネを引っ張り上げた。

「モカネ!」シーダイはモカネの姿を見て心配そうに叫ぶ。

「早く、船を近づけて!」


 サユ達はミツコ達を船へと引っ張り上げた。

「あー! 遊び人で良かったー!」ミツコは船の上で横になりながら叫ぶ。

 モカネはサユから心臓マッサージを受けると、水を吐き出して意識を取り戻した。

「ゲホッ、ゲホッ、あれ? 助かったの?」

「モカネ!」

「パパ!」

「……こいつは! 勝手に船室にいるんじゃない! 私に断りを入れてからにしろ!」

「ご、ごめんパパ」


「シーダイさんはさっきまでずっとモカネの事心配してたよ」

 サユはモカネに言う。

「そうなの? ミツコ?」

「うるせえ、疲れてんだよ」

「……そっか」モカネは微笑んだ。

 モカネの笑顔を見てサユはミツコに尋ねる。

「ミツコちゃん、モカネとなんかあった?」

「……別になんもねえよ」


「俺たちを忘れるんじゃねぇ!」

 魚人A、Bが現れた。

「シルフスライサー」「シビデリミナリカバルデン」

「あー!」「ビビビー!」

 魚人A、Bは棺桶になった。


 太陽が海面まで沈み、海が赤くなる。

 サユ達を乗せた小型の船はとある海岸へとたどりつく。

 サユ達は船から下りて辺りを見渡す。海岸の先は森になっており、海岸にはぽつんと一つの小屋が立っていた。


「ここはどの辺りなんでしょうか?」

 マホは聞いた。

「ここは山を越えた先にある森の近くだろう」シーダイはそう答えた。

「もうすぐ夜だ。今日はここで休もう。あいつは使えんようだしな」シーダイはそう言うとミツコを指差した。

 ミツコは口に手を当てて砂浜にしゃがみ込み、モカネに背中をさすってもらっていた。


「おい、あれをみろ!」

 船員の一人が海を指差す。

 その方向には沈む太陽を背にしながら、小型の船と同じくらいある大きさの亀に乗った白髪の老人の姿があった。

 眉間に皺を寄せた老人は銛を肩に掛け、こちらをじっと見ていた。


 大きな亀が海岸までたどり着き、老人が亀から降りる。そしてサユ達を見やると口を開いた。

「貴様等、海賊か!」

「「違います」」


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