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6話 そんな事を考えたこと一度も無いよー

「どうにか金貨2000枚でなりませんかねー?」

 プルエは桟橋の上で船員と話をしていた。

「いや無理だから、金貨5000枚。一枚たりとも値下げしないよ」

「……まあ、そうですよねー」

 プルエはかかとを返して船から離れていく。


「おーい、プルエさーん!」

 プルエの前からサユが笑顔で走りながらやってくる。

「サユさん? どうしたんですかー?」

「あのね、船一緒に乗せてもらえるかもしれないって!」

「え!? そうなんですか!?」

「うん、あの盗賊から助けた子供、モカネのお父さんが商人で商用の船を持ってるんだって」

「ひょっとしてその船に?」

「そう、聞いてみてくれるって。とにかく行こう?」

 サユはプルエの手を掴み、走っていった。


「……だから乗せてやってほしいんだけど」

「金にならん奴は乗せん、金の無駄だ」

 サユはプルエを連れて、ミツコたちの元へたどりつく。そしてモカネとシーダイの様子を見てマホに尋ねた。

「どうしたの?」

「ええ、ちょっとモカネのお父さんがなかなか了承してくれないみたいでして……」


「そもそもお前らもお前らだ」

 シーダイはサユ達に喋り始めた。

「子供に頼るなど何を考えている。恥ずかしくないのか?」

「待ってよ、パパ。ボクが……」

「お前は黙ってなさい。私はこいつらに聞いているんだ」

「まあ、そうなんですけど……」サユが答える。

「だったらモカネに頼むんじゃない。さしずめモカネの父である私目当てなのだろうが、私の目はごまかれされんぞ」


「……あぁ?」ミツコはシーダイをにらむ。

「そうなのだろう? 私はこの町、いやこの世界で一番の金持ちだ。私の息子に取り入って、私にたかる魂胆だろう」

「やめてよパパ!」

「お前は黙ってなさい!」

「何が悪いってんだよ?」


「ミツコちゃん? 落ち着いて」サユはミツコの方を掴む。

「お前は黙ってろ! ……私たちはな! 急いでるんだよ! 猫の手も借りたいんだ! 子供の手だって借りたいに決まってるだろ!」

「な、何だね! その言い草は! 貴様のような奴がモカネのそばにいるなど考えられん! 船には乗せん! 絶対にだ!」

「うるせぇ! 乗せろ!」

「ありえん! ただでさえ何の価値も無いのに、その態度。絶対にありえん!」


「あの、ちょっと待ってください」マホは手を挙げながら言った。

「な、何だね?」

「マホ! これは私の……」

「私たちの問題ですよ。……私たちに価値が無いって言いましたよね?」

「……だったらどうした?」

「本当にそうなのでしょうか?」

「……どういう意味だ?」

「そのままの意味です。私たちを乗せる価値はあります」


「……ほう、では何が出来るというのだ?」

「サユちゃんは剣ができますし、私は魔法が使えます」

「はっ、ははははは」シーダイはひとしきり笑うとマホに言った。

「魔法はともかく、剣が出来る奴ならすでにいる。その程度では価値など見いだす事はできんな」


「では、ミツコちゃんはどうでしょう?」

「うん?」

「わ、私か?!」

「彼女は遊び人です」

「……船に遊び人などいらん」

「でもこれを聞けば考えが変わると思いますよ。ミツコちゃん……」


「な、なんだよ?」

「笛を吹いてください。ちゃんとしたものを」

「え? だけどなぁ……」ミツコはシーダイの方をちらりと見る。

「お願いします」マホは頭を下げる。

「……ああ! 分かったよ!」

 ミツコは笛を取り出して吹き始めた。


 笛の音は風になって彼らの耳に入る。風は大海原を駆け、どこまでも遠く走る。やがて嵐に出会う。荒れる空気、降り注ぐ雨、つんざく雷の音。日が照らされない暗雲の下、風は見えない出口を探す。探し求めた先にあるのは穏やかな大海原。風は走る、輝く太陽の下へと。


 ミツコは笛を吹くのをやめた。

「……なるほど、確かに船に遊び人が居て良いかもしれぬ」

「では……」

「だが、そいつの性格は好かん!」

「んだとてめえ!」

「ミツコちゃん、落ち着いて」サユがミツコを止める。


「……ねえ、パパ」

「お前は黙っていなさいといっただろう」

「ボク、思うんだけど商人なら感情よりも優先するものがあるんじゃないの?」

「何?」

「好き、嫌いじゃなくて必要なら乗せるべきだと思うんだけど……」

「……そんなにこいつらを乗せたいのか?」

 シーダイの問いにモカネは軽くうなづいた。

「ふん、勝手にしろ!」シーダイはサユ達に背を向け、自分の船へと歩き始めた。


「ありがとうね、モカネちゃん」サユはお礼をいった。

「ちゃんはやめろ」

「じゃあ、モカネくん?」

「……呼び捨てでいい」

「なんにしても船に乗ろうぜ? 置いていかれる前にさ」ミツコはシーダイの船を指差す。

「そうですねー。皆さん行きましょうー」プルエは一足先に船へと向かった。

「あいつ、もう落ち込んでないのか……」

「ずっと暗いよりいいじゃん」



「うえぇ……、気持ちわる」

 海へと出た船の甲板の上でミツコは口を手で押さえ、しゃがみ込んでいた。

「ミツコちゃん、船酔い? 部屋で休んでたら?」

「ふん、役に立つと思って連れてきた遊び人が船酔いとはな、騙された気分だ」シーダイがミツコ達に悪態を吐く。


「大丈夫です! 私とマホちゃんが役に立ちますから!」

「ふん、おまえたちがこの船で役に立つとは思えんがな。おい、お前!」シーダイは近くにいた船員に叫ぶ。

「はい、何でしょうか?」

「お前、こいつを船室に連れて行け」

「はい、わかりました」船員はミツコを連れて船内へと入っていった。


「あの、聞いてもいいですか?」マホはシーダイに尋ねる。

「なんだ?」

「私たちがどうしてこの船では役に立たないんですか? モンスターとかいるのでは?」

「それはこの船の船底がグランタートルの甲羅で出来ているからだ」

「グランタートル?」

「甲羅だけで100メートルを優に超す亀たちの事だ。奴らの甲羅は堅く、モンスターたちは手をださん。それを船底にしているのだ」


「……でもそれって船底だけですよね? 甲板とかはどうなるんですか?」

「確かに甲板は木製だ、だがそこまで上がってくるモンスターはごく一部。私の兵で充分。貴様等は高見の見物をしていればいい」

「その時は私たちも戦います。ね、マホちゃん」

「ええ、そうしましょう」

「……好きにしろ」


 その頃、ミツコは船員に連れられ、船室へたどり着いていた。

「すげえ場所……」

 船室の明かりは天井に吊されたランプだけ。その薄暗い船室は何十もの布団が無造作に敷かれていた。

 そのうちのいくつかは船員たちが使っており、船員の荒々しいいびきが船室の中で響く。


「では自分はこれで……」ミツコを連れてきた船員はミツコを一人残して船室を出る。

「うっぷ」

 ミツコは自分の口を手で押さえる。

「……適当な所で寝るか」

 ミツコは船室の奥へと足を踏み入れる。


 すると布団の一つがモゾモゾと動きだし、中からモカネが出てきた。

「なんだお前か……」

 ミツコは無言のまま、適当な布団で仰向けになり右腕で顔を隠す。

「おい、返事しろよ」

「……うるさい」


「ふぅん、ひょっとして船酔いか?」

 モカネは布団から這い出てミツコに近づく。

「分かったんなら黙れ」

 モカネはミツコの左側に来ると彼女の左腕を取って、手首の下辺りを押し始めた。

「こうするとさ、気分が良くなるんだって。……死んだママが前に教えてくれた」

 モカネは天井を見上げる。


「パパが教えてくれたことは金はいくらでもあるから遊んでなさいって事だけ。……ずっと仕事に付きっきりでさ、こっちに構ってくれないんだよ」

 モカネは下を向く。

「パパは金持ちだから仕事が忙しいのは分かるし、お金でボクが遊べるのは分かる。でももし仕事が忙しくなかったらボクと遊んでくれるのかな? もし、金持ちじゃなかったら遊んでくれたかな?」

「知らねえよ、そんなの」

 ミツコはモカネの手を振り払うと、体を横にしてモカネから背を向ける。右腕を枕のようにして、左手をお腹に添える。

「……だよね」


「ただな、金持ちだろうがなんだろうが、親が両方とも働いてて子供になんか構ってられない奴なんていくらでもいるんだよ。自分が特別なんて思うなよ、金があるだけお前はマシだ」

「……うん」

 モカネは立ち上がると船室から出て行く。

「……気持ちわる」

 ミツコはそう呟いた。


 サユとマホ、プルエは甲板で潮風に吹かれていた。

「平和だね」サユは手すりに腕を置き、海を見ながら言った。

「そうですねー」

「海に出てからは何も起こりませんね」


「いやぁ、良いことだ!」サユは手すりから離れ、背伸びをする。

「……ねぇ、サユちゃん」

「ん? 何?」

 サユはマホへと顔を向ける。

「サユちゃんはこのゲーム楽しんでますか?」

「うん、もちろん!」

「私も楽しんでます」


「……そうなの? 稽古の事とか気にしてなかった?」

「そんなの冗談ですよ。むしろ逆、『お稽古サボれて良かった』みたいな、そんな感じです」

「ははは、そしたらお母さんに怒られちゃうよ」

「ふふ、たまにはいいですよ。そういうのも」

「ええー! マホちゃんてば怒られるのが好きなのー!?」

「違いますよ! そういう意味じゃありません!」

 マホはため息をつくと手すりに手を置いて海を眺める。


「別にお母さんから怒られるのは初めてじゃありませんから……」

「……私は心配させる必要がないならさせない方がいいと思うけど」

「ええ、だからいつかはこのゲームを終わらせなくてはいけません。でも……」

「でも?」

「別にこのゲームから出られないのはサユちゃんのせいじゃないですからね?」

 マホは笑顔でサユを見る。

「……はは、そんな事を考えたこと一度も無いよー、やだなぁ」

「じゃあ、一緒にこのゲームを楽しみましょうか? ミツコちゃんも含めて……」

「うん、ミツコちゃんも楽しんでくれるといいんだけどね……」

 サユとマホ、二人の会話をプルエは後ろからただただ聞いていた。


 船室へモカネがコップを持って、戻ってくる。するとミツコの方へ向かい、声を掛けた。

「なあ、起きてる?」

 ミツコは背を向いたままで返事は返ってこない。

「水、持ってきたんだけど飲む?」


 その時、船内が大きく揺れた。

「あ!」モカネが持っていたコップから水が飛び出す。

「冷たああ!」コップの水はミツコの首筋と背中にぶちまけられる。

 船室で寝ていた船員は皆、起きあがった。

「何すんだてめえ!」ミツコはモカネに向かって叫ぶ。

「わざとじゃねえよ! 船が大きく揺れたから!」

「あぁ?」ミツコはモカネを睨む。

「その、えと……」モカネがたじろぐ。

「謝れよ?」

「……ごめん」

 また、船内が大きく揺れた。


 二度目の揺れに起きあがった船員たちは慌ただしくなる。船員の一人がモカネに告げる。

「モカネ様、ここにいてください」

「え?」モカネは不思議そうな顔で船員を見る。

「こんな短い感覚で船が大きく揺れるなんておかしい。ちょっと見てきます」

 そう言って船員たちは船室から出て行った。


「……私も行くか」

 ミツコは立ち上がる。ドアの方へ向かおうとした所でモカネが手を引いた。

「待って! ここにいてよ」

 ミツコはモカネを睨む。モカネは不安そうな表情でミツコを見上げていた。

「……ああ! くそ!」ミツコは頭を掻く。

「分かったよ! いてやるよ!」

 そう言ってミツコはしゃがみ込んで天井を見つめた。


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