4話 オマエモアジワエー
「最後の扉! いわゆるラストビラだね!」扉を前にしてサユが叫ぶ。
「……そうだな、ここが最後の部屋だな」盗賊のアジトの中を探索していた三人は扉の前で話し合う。
「結局、建物の周囲も含めて全部回りましたね」右手で杖を持ちながらマホは左手で帽子の位置を直す。
「まぁ、ちゃんと装備戻ってきたからいいじゃん」サユは左手で自分の胸のあたりを叩きながら右手に剣を握っていた。
「……やっぱ、もう子供は逃げたんじゃねぇの?」
「まぁこれで最後ですし、行きましょうよ」
「いや、まあ行くけどさ……」
「あ、ひょっとして怖いのー? かーわいいー」
「んな訳あるか! とっとと行くぞ!」
ミツコは部屋の扉を開けた。
広い部屋の奥、そこには二人の盗賊とカシラがいた。彼の足下には胴体を縛られた子供がいる。子供の口にはさるぐつわがされていた。
「てめえら! 俺の作り上げた盗賊団をぶち壊しやがって、泣いて謝っても許さねぇ!」
カシラが現れた。盗賊AA、ABが現れた。
「ボウマタヒエノモル」マホの杖から火の玉が放たれる。
「ふん!『シルフスライサー!』」
マホの放った火球に対しカシラは風の刃をぶつける。
風の刃が火球を飲み込み、炎の刃としてマホに迫る。
「マホちゃん!」サユはマホに飛びかかる。間一髪の所で炎の刃をかわした。
「お頭に続くぜぇ!」盗賊AA、ABがサユ達の元へ駆ける。
「させるか!」ミツコはナイフを三本取り出し、それをお手玉するように投げ始めた。
「な、なんだ!?」盗賊AA、ABの動きが止まる。
「食らえ!」ミツコは三本のナイフを盗賊達へ投げる。
「あえ!」「あば!」二本のナイフは盗賊AA、ABに当たり、彼らは棺桶になる。
「くっ!」カシラへ投げられたナイフをカシタは曲がった剣で防ぐ。
「次だ!」ミツコは落とし穴を作る。
「そんな罠に引っかかるかよ! 伊達で盗賊の頭をやってるわけじゃねえぜ?」カシラは曲がった剣を構え直す。
「やっぱボスは雑魚とは違うってわけか……」
「でも三対一なら私たちが勝ちます」炎の刃を避けたマホとサユは立ち上がる。
「大人しく降参して!」サユは叫ぶ。
「へっ、そうすれば命だけは助けるってか? お優しいことで」
「そうだよ。だから降参して……」
「ふっ、ふっ、ふははは、……ここまでコケにされてそんな事ができるかよ!」カシラは足下にいた子供を持ち上げると、子供の首に曲がった剣を近づける。
「んん!」子供がうめく。自分の首に向けられた剣を見た後、サユ達の方へ目を向ける。
「動いたらこのガキの首を落とすぜ! こいつが目的なんだろ? 武器を捨てろ!」
「……そんな子供の事なんて知るかよ!」ミツコは一歩前に出る。
「ミツコちゃん待って!」
「サユ! あいつの言いなりになっても全員やられるだけだ!」
「ミツコちゃん、私を信じてよ」
「保証も無いのにそんな事できるか!」
「待ってください! きっと何か考えがあるんですよ!」
「そんなもんこいつにあるわけないだろ!」
「てめえら! さっさと武器を捨てるんだよ!」
「分かった!」サユは剣を地面に捨てる。
「おい! 本気か!?」
叫ぶミツコをよそにマホは上を地面に捨てる。
「よし! そしたら遊び人の……ミツコとか言ったな、てめえは後ろを向いて頭の後ろに手を乗せろ!」
「……くそっ! どうなっても知らないからな!」ミツコはカシラに言われたとおりにする。
「武器をこちらに蹴飛ばせ!」剣と杖は蹴られて、カシラとサユ達の真ん中あたりに移動する。
子供はその様子をじっと見ていた。
サユは子供に笑顔で親指を立てた拳を突き出す。
「大丈夫だからね!」
「は! この状況でどうにかしようってのか? 無理だな!『シルフスライサー!』」カシラはサユに向けて風の刃を放った。
「るふぅ!」風の刃がサユの胸に当たり、彼女は膝をつく。
「サユちゃん!?」
「大丈夫かよ!?」
しかし彼女はすぐに立ち上がる。「絶対、大丈夫!」
「て、てめえ、どうしてそこまで……このガキが何だっていうんだ!」
「私は勇者だから! 絶対に子供を助ける!」
「ふざけるんじゃねぇ!『シルフスライサー!!』」カシラが風の刃を放つ。
「あふん!」サユは風の刃を喰らい倒れた。
「…………」サユはうつ伏せのままピクリとも動かない。
「サユちゃん?!」
「おいサユ、返事しろ!」
倒れたまま動かないサユはミツコとマホの呼びかけに応えなかった。
「くそ! やっぱり何も考えて無いのかよ!」ミツコは振り返り、カシラに迫る。
「遅ぇ!『シルフスライサー!』」
「おわっ!」ミツコは倒れるようにしてかわす。
「んんー!!」その時、カシラの腕の中で縛られていた子供が暴れ出した。
「うおっ! 暴れるんじゃねぇ!」カシラは暴れる子供を投げるように放す。
「んぐっ!」子供は地面にぶつかりうめき声を上げる。
「ボウマタヒエノモル」カシラが子供を放した瞬間、マホは呪文を唱えた。
「無駄だ!『シルフスライサー!』」マホの放った火の玉を風の刃が飲み込み、炎の刃と化す。
マホは炎の刃をかわす。
「私の友達に手を出してただで済むと思うな!」ミツコがカシラに近づき、拳を一発放つ。
「げい!」カシラが吹っ飛ぶ。
「てめええ!『シルフスライサー!』」カシラは体勢を立て直すと右手を振るう。しかし、風の刃は出なかった。
「バカな! どうなってやがる!」カシラは自分の右手を見る。その手にはくの字に曲がったバナナが握られていた。
「バナナぁぁ!?」
「遊び人はな! 手品ができるんだよ!」シルフスライサーはミツコの右手にあった。
「てめえ、返しやがれ!」カシラはミツコへ手を伸ばし駆ける。
「サユの苦しみ、おまえも味わえ!『シルフスライサー』」ミツコは右手の剣を振るう。
しかし、風の刃が現れることは無かった。
「何でだ?!」
「遊び人がな! 剣を扱えるわけがねぇ!」カシラはミツコの右手へと手を伸ばした。
カシラとミツコで剣を取り合う。
「おらぁ!」ミツコの体が宙に浮く。
「くそっ! マホ、魔法だ!」
「ダメです! ミツコちゃんに当たってしまいます!」
「いいから撃て!」
「ダメです!」
「俺の勝ちだな!」カシラは左手で拳を作るとミツコへと放つ。
「くそ!」ミツコは目をつぶった。
カシラの拳はミツコの顔をすれ違う。
「いて!」宙に浮いていたミツコは地面に落ちる。
「う、ぐ、あ!」
カシラの呻き声。
ミツコはおそるおそる目を開く。するとカシラのわき腹に剣が刺さっていた。
「これでどうだ!」
剣を刺した人物、それはサユだった。
「……てめえ生きていやがったのか」カシラは地面に伏す。
「俺のシルフスライサーを二回も受けて、何故?」カシラは仰向けになってサユを見る。
「これが守ってくれたんだよ」サユは胸から鞘ごと折れた盗賊のナイフを取り出す。
「へ、まさかそんなもんがてめえを守るとは、な……」カシラは棺桶になった。
「ミツコちゃん、大丈夫?」サユはミツコに手を伸ばす。
「サ、サユ生きていたのか……?」
ミツコはサユの手を掴みながら尋ねる。
「この世界、死んだら棺桶になりますから」
そう口を開いたのはマホだった。
「……マホは気がついていたのか?」
「ええ」
「ミツコちゃん、すっかり騙されてるんだもん。笑えるよねぇ」
「うぐっ!」
「サユノクルシミ、オマエモアジワエー、迫真だったよ!」
「ええい、やめろ! ぶっ飛ばすぞ!」
「いやぁ、私嬉しいんだよ? ……あんなに笑える事してくれて、ぷっ!」
「『ぶっ飛ばす』って言っただろ!」
ボガッ!「あふん!」
「んー! んー!」地面に伏していた子供がうめく。
「あ! 今外すからね。ミツコ先生! お願いします!」
「おう! ……って私が外すのか」ミツコは子供の縄とさるぐつわを外す。
「プハッ! おい、おまえ」子供がサユを指差す。
「私?」
「おまえ、何が『大丈夫』だよ、全然大丈夫じゃないじゃん。たまたまじゃん」
「まあまあ、結果良ければすべて良しっていうじゃない?」
「全然良くないよ、もうちょっとで皆死んじゃうところだったじゃん」
「このガキ! せっかく助けてやったのにその言い草はなんだよ」
「見捨てる気満々だったおまえにそんな事言われたくねーよ」
「うぐっ!」
「では私から……」マホが挙手しながら言った。
「助けてなんて頼んでねーよ」
「いやぁ、口が回る子供ですね」
「……うん、そうだね。助けて欲しいなんて言われなかった」サユが返答した。
「だったらわざわざ助けようとするなよ」
「それはできないよ。助けたかったし、何より勇者だからね!」サユは親指を立てる。
「はあ? 何だよそれ?」子供は首を傾げる。
「こういう人なんですよ、サユちゃんは」
「おい、もうこのガキの事はいいだろ? さっさと次に行こうぜ?」ミツコは部屋の出口へと向かう。
「あ、ちょっと待って」サユはミツコにそう言うと子供の方を向く。
「よかったら一緒に来る?」
「一人でいい」
「外にはモンスターとかいるよ?」
「そんなの子供でも知ってるよ、大丈夫だからとっとと行けよ」
「サユちゃん、行きましょう?」
「……うん、それじゃ気をつけてね」サユは手を振りながら子供に背を向ける。
「ああ、……ねえ!」
「ん? なに?」
「ボクはモカネ。おまえの名前は?」
「私はサユだよ」
「……それじゃあね、サユ」モカネは小さく手を振るう。
「じゃあねー」
盗賊のアジトを出て北を進む三人は深い森の中を歩いていた。木々の間から太陽の光が漏れていた。
「シルフスライサー」サユは風の刃を狼のような魔物に放つ。
風の刃を受けて魔物は金貨となって消える。
「はっはっはー! 一陣の風と共に我が世の春が吹き荒れる!」
「楽しそうですね、サユちゃん」
「うん! だってこれで私もまともに戦えるんだもん」
「それにしてもその剣、なぜか鞘に入りますね。どうやって入れてるんですか?」
「私もよく分かんないや」
サユは剣を背中に置くと、いつの間にか鞘に納まっていた。
「……なあ?」ミツコが二人に尋ねる。
「どうしたのミツコちゃん?」
「さっきからあのガキ後ろからついてきてるんだが」
先ほどの子供、モカネが二十歩ほど離れたところからミツコ達の後を追うようについてきていた。
「別にいいじゃん」
「気にしても仕方ないと思いますよ?」
「……なんかムカつくんだよな」
ミツコは振り返り、モカネに叫ぶ。
「おいガキ! ついてくんなよな!」
「おまえらこそ! ボクの前を歩くなよ!」
「……あのガキ、一回しめてきてやる」モカネの方へ向かおうとするミツコの肩にサユは手を置く。
「ミツコちゃん、そんなことで怒るなんてまるで……」
「あん? まるで何だよ?」
「『バカ』みたいだよー!」
「おぅらぁ!」
バカッ!
「まだ言うか!」
「え? ちょっとま……」
ドコッ!「ったあ!」
「皆さーん!」
「ん?」
女性の声が聞こえ、三人は空をみる。
「あ、プルエさん」
プルエは三人の元へと降りる。
「いやー、探しましたよー。ミツコさんが突然走っていってしまうんですからー? おや?」
プルエはサユの背中の剣を見る。
「その特徴的な形、シルフスライサーじゃないですかー、手に入れたんですねー」
「プルエさん、知ってるんですか?」
「……ええ、少しだけー。似たような剣があと三本あるんですよ」
「へぇそうなんだ」
「あと三本ですか、全部持つのは大変そうですね」
「そうだな、金貨もだいぶ集まってきたし……」ミツコは金貨がどっさりと100枚は詰まった袋を見せる。
「大丈夫ですよー、私が責任をもってお預かりする事ができますから」
「え? いいのか?」
「はいー、99個のアイテムと9999枚の金貨をお預かりすることができますー」
「じゃあ、頼むわ」ミツコは金貨袋をプルエに渡す。
「はい、お預かりしました」プルエの手の中にあった金貨袋は一瞬にして姿を消す。
「必要な時は言ってくださいねー。あ! 私が居ないときと戦闘中は無理ですから注意してくださいねー」
「まあ、そりゃあそうだろうな」
「ところで皆さん、これからどちらへー?」
「ここから北に港街があるらしいからそこだな」
「なるほどー」
「なんにせよプルエさんも戻ってきたし改めて、サユとゆかいな仲間達、北へ出発だー!」