表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

3話 曲がってるね

「ハッ、ここは!?」ステンドグラスの光に照らされながら、大きな十字架の下でサユは目を覚ました。続けてミツコ、マホの二人も目を覚ます。


「あれ? 私たち、クマに負けてからどうなったんだ?」

「皆、棺桶になったのは覚えているんですけど……」


「ここはスタト街の教会です」

「プルエさん!」


「皆さんが全滅したので最寄りの教会で復活ですー」

「全滅してもゲームオーバーじゃないんだな」

「全滅したら死んじゃうのかと思いましたよ」

「ゲームで死ぬ訳ないじゃないですかー」


「……全滅したけど何か変わったか?」ミツコは自分の体に手を置く。

「全滅しても特にありませんよ。何度でも死ねる安心仕様です」


「なるほど! それじゃガンガン行こうか!」サユは右腕を大きく振り上げ、教会の出口へと向かう。


「待て、サユ」

「ん? どうしたの?」


「もう何時間もゲームしてるし、一旦休憩しよう」

「えー、私ずっと棺桶だったんだけど……」

「でもこの数時間の間、私たちが何をしていたか聞きたくありませんか? 色々と分かったこともありますし」


「……じゃあ一旦休憩にしようか」

「ああ」

「ええ」

「ではお疲れさまですー」


 …………。


「おい」

「何、ミツコちゃん?」

「ゲーム終わらないんだが……」


「あー、……どうするんだろうね?」

「どうするんだろうね? って! おまえが知らないのかよ!」


「いやぁ、いつもなら宙にコマンドが浮かび上がるんだけど……」

「そんなものありませんよ?」

「うーん、バグったのかな? 戻れないや、ハハハ」


「ハハハ、じゃねーよ! 私たちどうなるんだよ!」

「ずっとゲームの中かもしれませんねー」


「……嘘だろ?」

「ああ!」

「どうした、マホ!」


「もしこのまま帰れなかったら、私、私。……『稽古をサボった』ってお母さんに叱られてしまいます!」

「そんな事どうでもいいわ! 現実にある私たちの体とかを心配しろ!」


「大丈夫ですよ。ゲームと現実では時間の流れが違いますからー。それにここにはおいしいものもいっぱいありますよー」

「そっか! じゃあ大丈夫!」


「全然大丈夫じゃないだろ! 私たちが戻れなかったら、どんな事も無駄なんだよ!」

「だから大丈夫! このゲームを終わらせればいいんだよ」


「は?」

「だからゲームクリアすればいいんだよ! そうすればゲームが終了するから戻れるよ!」


「そ、そうなのか?」

「うん! 間違いないよ!」


「そうですねー、その可能性は十分にあると思いますよー?」

「それに時間の流れが違うならあっという間にクリアできるよ!」


「それならお母さんに叱られなくて済むかもしれないんですね?」

「おっし! じゃあとっととクリアすんぞ! 行くぞ!」ミツコはサユとマホの手を掴むと走り始めた。

「え、ちょっと? どこに行くのー!」


 始まりの街のお城。

「王様ー! 勇者だ! 通行証をくれ」

「オウ、……オッケー!」

「しゃあ、次だ!」


 北の関所。

「門番! 通行証だ!」

「どうぞお通りください。 盗賊には……」

「うるせぇ!」


 盗賊のアジト。

「もう、ミツコちゃんてばそんなに慌てなくてもいいのに……」

「……うるさい」


「だからあんな罠にひっかかちゃうんだよ」

「黙れ」

「すがすがしいまでに網で掬われたよね」


「盗賊も『この一ヶ月、獣ですらあの罠にかからなかったってのに……』って言ってましたね」

「しょうがないだろ! 急いでたんだから!」


「てめーらうるせぇぞ!」

 サユ達は縄で後ろ手に縛られ、部屋の隅に座らされていた。部屋の中央では盗賊が二人、テーブルに座ってトランプで遊んでいる。彼女たちの帽子やマントなどの装備は盗賊に取られていた。


 彼女たちは顔を近づけてひそひそと話し始めた。

「まぁ急がば回れって言いますし、落ち着いて行きましょうよ、ね?」


「……ああ、十分身に染みたよ。だからこれからどうするか考えないか?」


「一回全滅しちゃう?」

「いや、いくらペナルティ無いからってそれはどうかと思うぞ? まぁ、戦うのはありだが」


「でも戦うとしても縛られてるし武器取られっちゃったよ?」

「一応、武器は盗賊さん達の向こうにありますね」

「不用心だけど簡単には取れない位置だな……」


「やっぱり全滅かな?」

「おまえなぁ、逃げるとか色々あるだろ?」


「そういえばプルエさんは何処にいるのでしょうか?」

「どうせ安全な場所で高見の見物だろ?」

「ミツコちゃん、走ってたし置いてきたかもよ?」


「……まぁ、どうせ役に立たないんだしいいんじゃないか?」

「えー! それは酷いよ!」


「そんなことないだろ。ゲームのキャラクターに過ぎないんだから」

「そんなことないよ、ゲームのキャラクターだってゲームの中で生きてるんだから」

「生きてるわけないだろ、それにどうせゲームクリアしたらお別れなんだし、別にいいだろ」

「その考え方は違うよ。いつか別れるからって大事にしないのは違うよ」


「あの、まずはこの状況をどうにかしません?」マホは言った。

「あ、ああ、そうだな……」ガチャッ、扉の開く音。

 扉から一人の男が出てくる。盗賊達は立ち上がり、男の方を向いた。


「お頭!」

「こいつらか、俺たちの縄張りでうろちょろしていた奴ってのは」盗賊のお頭、カシラは三人の元へと行くと顔をじっくり見る。


「ふん、あのガキと同じでどいつも貧相な顔してやがるぜ」

「え? マホちゃんの家、お金持ちだよ?」

「いや、そういう意味じゃないだろ」


「ふん、余裕ぶっていられるのも今のうちだけだぜ。てめえらは全員奴隷商人に売っ払うんだからな!」

「奴隷?」


「そうさ、そして俺は金と新しい力を得るのさ。こいつを見な!」カシラはどこからともなく刀身が緑色の剣を取り出す。

 その剣は真ん中で折れたかのようにくの字に曲がっていた。


「曲がってるね」

「おもちゃか?」

「どうやって鞘にいれるんでしょうか?」

「お頭、曲がってますぜ」

「その剣、壊れてますぜ、お頭」


「てめえら、うるせえぞ! こういう剣なんだよ!」そう叫ぶとカシラは誰もいない方向へ剣を振る。

「シルフスライサー!」

 振られたことにより生じた緑の剣の軌跡が剣から離れ、壁へと向かう。そして、それは壁に斬られた跡を残した。


「どうだ! この風の剣の力、『シルフスライサー』はよう!」

「私も欲しい!」

「……まあ、曲がってるのは目をつぶれるレベルかもな」


「魔法の剣はこいつだけじゃねぇ。さらに金を貯めて新しい剣を買うってわけさ。そしたら盗賊もやりやすくなる。さらに金が貯まるってもんだぜ!」

「そこまで考えてるなんてさすがお頭!」


「という事だ。この剣の餌食になりたくなかったらおとなしく俺たちの金になるんだな。……ガキと一緒の檻にぶち込んでおけ!」

「へい!」

 サユ達は盗賊に連れてかれ部屋の外へと出て行った。


「ところでお頭、この壁の修理はどうします?」

「……あのガキどもの金でなんとかなるだろ」



 ミツコ達は石と木の格子でできた檻に連れてこられる。檻の中は顔ほどの大きさの窓から月明かりで照らされていた。そこで盗賊は檻の中を見ると驚き叫んだ。


「ガキがいねぇ!」

「あいたぁ!」盗賊は三人を檻の中へ突き飛ばす。そして慌てて走り去っていった。


「いてて、あの盗賊投げ飛ばしやがって……」

「なんか子供が居なくなったみたいだね」

「……だから何だよ?」


「この檻をうまく抜け出したって事ですよね」

「大した子供だな」


「それって私たちも抜け出せるよね」

「ああ確かにな! その檻に入れるなんてバカな盗賊だな!」


「そこに気づかないミツコちゃんも大概だけどね」

「あぁん!?」


「ともかく! この檻を調べましょうよ!」

「うーん、でも縄で縛られてたら調べられないよ」サユは後ろ手に縛られた手首を見せる。


「ふっ、そこに気づかないとはサユも大したことはないな。見ろ! これが遊び人の力だ!」

 ミツコは縄抜けした。


「おお!」

「じゃあ今から縄を解くから、動くなよマホ……」ミツコはマホの縄を解く。

「ありがとうございます」縄の解かれたマホは檻の中を調べ始めた。


「ミツコちゃん、ミツコちゃん」

「何だ?」


「私のも解いて?」

「おまえの? どうしよっかなぁ~?」


「ミツコ大先生、お願いします!」

「まぁ、いいか。じゃあ動くなよ」サユの縄を解く。


「へっ! ちょっとおだてるだけでホイホイ引っかかるようじゃまだまだだね」

「解いて言うことがそれかよてめえ!」

 ボカッ!「なわ!」


「二人とも! この穴を見てください!」

 マホの指差す先、光の当たらない窓側の地面には穴があった。穴の奥からは光が見える。


「ここから抜け出したんでしょうね」

「私たちも入れそうな大きさだな」

「私は頭のたんこぶがひっかかるかも」

 三人は穴の中へと入っていった。


 サユ達は窓の向こう側へと出る。彼女たちの目の前には森が広がっていた。

「よし、後はこのまま逃げるだけだな」


「ちょっと待って!」

「ん? どうした?」


「先に逃げた子供が気になるよ」

「おまえなぁ……、こんな機転が利くんだからうまく逃げてるだろ」


「それに私たち武器取り上げられちゃってますからね。下手に探すと私たちが危険ですよ?」


「大丈夫大丈夫、全滅しても問題ないんだから」

「まぁ、それはそうなんですけど……」


「だからうまく逃げてるって」

「でももし逃げれてなかったら?」


「……あのなぁ、はっきり言うけどそんなゲームのキャラの事なんて関係ないだろ。私たちがちゃんと元の世界に帰れるかどうかだけだ」


「帰る、帰るってもうちょっと楽しもうよ。それこそゲームなんだし」

「帰れる保証があるわけでもないのに楽しめる訳ないだろ! 死活問題なんだぞ!」


「大丈夫だよ、絶対帰れるから……」

「どっからそんな自信が出るんだよ!」


「あの、ちょっといいですか?」

「どうした?」


「私も探した方がいいと思いますよ」

「マホもかよ……」

「はい、だってこれはゲームですから。きっと何かのフラグになってますよ? やらないとクリアできないかもしれません」


「……まぁ、マホがそう言うなら」


「マホちゃん、ミツコちゃん、ありがとう」

「クリアの為に必要かもしれないからな。ほら、とっとと行くぞ」ミツコは壁に沿って歩き始めた。


 ミツコ達が壁の終わりに差し掛かった時。

「ん?」

「あ」

 ミツコは曲がり角の所で盗賊と目があった。


「脱走者だああ!」

 盗賊Aが現れた。

「ボウマタヒエノモル」呪文を唱えたマホの右手から火の玉が出る。


「ぎゃああっち!」火の玉が盗賊に当たると盗賊の全身が燃える。

 盗賊Aはこんがりと棺桶になった。


「マホちゃん!? 杖無くても呪文使えるの!?」

「ええ、杖あった方が威力があるそうですが……」


「どうした!?」マホ達の元へ四人の盗賊が駆けつける。

「……てめえら生きて帰れると思うなよ!」

 盗賊B、C、D、Eが現れた。


「ボウマタヒエノモル」

「あっちゃああ!?」盗賊Bが棺桶になる。


「B!! くそっ、三人同時に行くぞ!」盗賊C、D、Eが同時に襲いかかる。

「まずいよ!」


「私に任せな!」

 ミツコは落とし穴を作った。


「うおあぁ! 落ちなくちゃいけない気がする!」盗賊三人は吸い込まれるように落とし穴に落ちた。

「なんでええ!?」サユは叫ぶ。


「攻撃してきた雑魚敵は必ず引っかかるんだってよ」

「ドミガズシャオルゴリウトゴ」マホの呪文によって落とし穴の中が水で満たされる。

 穴の中の盗賊たちは棺桶になった。


「……二人とも強いね」

「まぁ、おまえが死んでいる間に戦い方を学んだからな」ミツコはマホが倒した盗賊が落とした金を拾う。


「例えばですけど遊び人の攻撃はランダムなんですよ」

「そっかー、二人でこのゲーム楽しんでたんだぁ……」サユは二人から背を向けて地面をイジイジと指でなぞり始めた。


「しょうがないだろ、おまえだけ死んでるんだから。ほらサユ、良い物やるから機嫌なおせ」

「え? なになに!」サユはミツコの方を振り向く。

 ミツコの手には鞘に納められたナイフがあった。


「……何これ?」

「さっき盗賊が落としたナイフだ。これで戦えるだろ?」

「まぁ、戦えるけど……」サユはナイフを受け取る。


「いいか、サユ。私たちじゃ盗賊の攻撃を受けきれない。そんな時はサユ、勇者のおまえの出番なんだ」

「……そうか! 私がいないとミツコちゃんはダメなんだね!」

「そうだ、おまえだけが頼りだ!」


「分かった! 私がんばるよ! ダメなミツコちゃんのために!」サユはナイフを振り上げる。

「……おう、よろしく頼むわ」


「任せてよ、ダメ! なミツコちゃん!」

「さっきからダメダメ連呼してんじゃねー!」

 バコン!「かべやく!」



「よーし! じゃあ改めて子供の捜索をしよう!」サユはナイフを振り上げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ