11-15話 中略
「私、サユ。今、トイノーモクから東に進んだ所にあるホーヘ火山へ来ている所。ミツコちゃんとマホちゃんとプルエさん、それに天才呪文学者のリヌールさんと共にホーヘ火山の火口で三つ目の魔法剣を手に入れる所なんだ」
「おい、サユ! 独り言言ってないでそろそろ始めるぞ!」
「あ、分かったよ。ミツコちゃん」
どろどろとした溶岩の海の前に立つサユ、ミツコ、マホの三人、とプルエ。彼女達に眼鏡をかけた中年の男リヌールが叫ぶ。
「さあマホよ! 私の開発した究極の強化呪文を見せてくれ!」
マホは呪文を唱え始める。
「ヒソアキオエモ ミシクスヨ ヤナオマセロ ムケカサツ フイコホヌワタ ネウノヘメ ハラニウテチリ エイトレルン」
マホの呪文にあわせてミツコは弦楽器のバイオリンを取り出し、奏で始める。
「ドミガズシャゴリウトゴ」
マホが呪文を唱え終えると、彼女の前に竜巻のような水柱が現れ、溶岩の海へと進んでいく。水柱が通った後が岩の道となっていく。
サユはその岩の道を進んでいく。その先には地面に突き刺さった赤い剣があった。
サユは赤い剣を引き抜き、元来た道を走って戻る。岩の道は溶岩に飲み込まれていく。サユがミツコ達の元へ戻ったときには岩の道は既に消えていた。
サユは赤い剣を振りかざす。
「イフリートドラグ! 手に入ったよ!」
「よし、じゃあ次は南にある妖精の森だな」
「そう、次は妖精の森、『地水火風の刃が交わる時、聖が闇を切る』つまり魔王ムーンを倒すためには四つの魔法剣が必要になるんだって。そして最後の魔法剣、土の魔法剣タイタネアリは妖精の森にあるんだ」
サユはそう独り言を呟いた。
「リヌールさん、色々と教えてくれてありがとうございます」
マホがお礼を言う。
「私の人生をかけた究極呪文がついに実現したのだ。礼を言うのはこちらだ。ありがとう。……さて、私はまた新たな呪文の研究に取りかかるとしよう」
そう言ってリヌールは山を下りていった。
「サユさーん、剣をお預かりしますー」
プルエが両手をサユに突きだした。
「それじゃあシルフスライサーとウンドストライク、お願いします」
「はいー」
サユ達はホーヘ山を下りて、妖精の森へと向かう。そして森にたどり着くと奥深くへと進んでいった。
森の奥には妖精の集落があった。手に乗るほどの小さな人が蝶のような羽を羽ばたかせながらサユ達へと近づく。
「あれ? 勇者様、忘れ物ですか?」
「……えっと、私、今初めて来たばかり何だけど?」
「何言ってるんですか? さっき長老からタイタネアリをもらったばかりじゃないですか」
「はああ!? どういう事だ、おい!」
ミツコは妖精の体を掴んで振り回す。
「いやあぁぁ!! 乱暴しないでくださいぃぃ!!」
サユ達は妖精達の長老の元へと来ていた。
「我々は勇者様が魔王の作り出した魔物であるイカを倒した事を知り、タイタネアリを渡す事を心待ちにし、先ほど渡したのだが……」
「だから貰ってねーよ!」
「あの、思ったんですけど……」
マホが会話に割り込む。
「サユちゃんそっくりの偽物がいると考えるのが妥当じゃないですか?」
「うむ、『仲間を森の外で待たしている、早く戻るために渡してほしい』と言っていたが、おそらく偽物だったのであろう」
「くそっ! さっき渡したんだよな? だったらまだ近くにいるはずだ。探すぞ!」
そう言ってミツコは飛び出していった。
「ちょっと! 待ってよミツコちゃん!」
ミツコの後をサユとマホが追いかける。プルエは長老の元でくつろいでいた。
「くそっ! どこにいるんだ! おいサユ! 見つかったか!」
ミツコは視界の端にいたサユに声をかけた。
「え!? あ、どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ! 偽物はいたか!」
「あー、まだ見つかってないや」
「くそ! 見つけたらただじゃおかねー!」
「ミツコちゃん、いきなり飛び出さないでよ」
サユが茂みの中から飛び出す。
「「ん?」」
サユとサユの目が合った。
「サユがふたりーー!!」
ミツコは絶叫した。
「この偽物め!」
サユが山吹色の大剣を引き抜く。
「え!? いや、私が本物だよ?」
もう片方のサユが恐る恐る赤い剣を引き抜いた。
「くそう! どっちが偽物なんだ!」
ミツコは頭を抱える。そして何かを思いついた様子で顔をあげた。
「そうだサユ! おまえ、この前食べたカレーがなんなのか、覚えてるだろ?」
「アオサカレーだったよ」
赤い剣を手にしたサユはそう言った。
「いや、マーボーカレーだから」
大剣を手にしたサユはそう答えた。
「……あれ? ホヤカレーじゃなかったか?」
ミツコは頭を傾げた。
「「それはない」」
「はあ……、やっと見つけました」
ミツコの元へマホが駆けつける。
「マホ! 偽物を見つけたんだが、どっちが本物か分からないんだ!」
「……いや、あの、ミツコちゃん? 持っている剣が全く違うんですけど?」
「……ふっふっふ、まあバカを騙すのも飽きていたところだ」
山吹色の大剣、タイタネアリを手にしていたサユが笑みを浮かべる。
「誰がバカだ!」
「ふっ、自分でよく分かってるじゃないか」
「……ともかくおまえが偽物だな!」
「そう、私は魔王ムーン様の右腕、『ニセサユ』だ!」
「それじゃあとっととタイタネアリを返せ!」
「はっ! 返すわけ無いだろう? バカが!」
ニセサユはタイタネアリを左手で軽々と持ち、どこからともなく現れたどす黒い剣を右手で持った。
「闇の剣、ブレイクダークネス。その片鱗をとくと味わうがいい!」
ニセサユはサユへと迫り、右手の剣を振るう。サユは剣でそれを受け止める。
ミツコは笛を取り出し、マホが呪文を唱えようとする。
「ふん!」
ニセサユはタイタネアリを地面に突き刺す。すると地面から土の棘が飛び出し、マホを襲う。
「きゃあ!」
マホは岩の棘をかわすものの、呪文を唱えることができない。
サユはマホに注目しているニセサユから数歩離れる。そしてミツコが笛を吹き始めた。
「イフリートドラグ!」
赤い剣を振りかざす。すると人を丸飲みできるほど巨大な炎がおぼろげな龍の形をし、螺旋をえがいてニセサユへ大口を開けて襲いかかろうとする。
「ブレイクダークネス!」
闇の剣から黒い波動が放たれ、炎の龍をかき消し、サユの体を吹き飛ばす。
「サユ! 大丈夫か!」
「うん、大丈夫」
ミツコに声をかけられたサユは頷きながら立ち上がる。
「それよりもどうしよう? 楽器の力とあわせた魔法剣がきかないよ!」
「ふっふっふ、ブレイクダークネスの味は最高だろう? 究極の呪文は詠唱を防げばいいだけ。残念だが貴様等に勝ち目は無い!」
「くそっ! どうすればいいんだ!」
「はっはっは! 勝てるとしたら四源大合奏のみだが、貴様等にはできはしまい!」
「四源大合奏……?」
マホはニセサユの言葉を聞いて考え始めた。
「さあ、そろそろ終わりにしてやろう!」
ニセサユは二つの剣を大きく空へと振り上げる。すると二つの剣の間から黒い球が浮かび上がり、次第に大きさを増す黒い球から風が吹き荒れた。
その時、ガタンという音と共にミツコの前にドラムがやってきた。やってきた方向には謎の少女が無言でミツコにサムズアップしていた。
「ドラム? ってか、誰だよあいつ」
ミツコはドラムを手に取る。
「ミツコちゃん、楽器を四つ同時に奏でてください!」
「はあ!? どうやってやるんだよ!」
ミツコは指示したマホに問いかける。
「分かりません! でもきっとできるはずです」
「もうすぐだ! もうすぐこのダークタイタンボールが完成する。貴様等全員の命を絶ってやろう!」
「くそう! 偽物になめられっぱなしでたまるかよ!」
ミツコは自分の懐に手を忍ばせると、四つ全ての楽器を投げ出す、と同時に七人の小さなミツコが現れた。
小さなミツコ達は笛に二人、アコーディオンに三人、バイオリンに二人つく。そしてミツコがドラムを叩くと小さなミツコ達が各々楽器を演奏する。四つの楽器が音色を奏で、一つの曲となった。
「四源大合奏!? だが勝つのは私だー!」
ニセサユは頭上にあった大きな黒い球をミツコへ投げるように両手の剣を振り下ろした。
ミツコへ迫る黒い球、その前にサユが立ちはだかった。
「イフリートドラグ!」
サユが赤い剣を振り下ろす。そこから現れた炎の龍が黒い球に噛みつく。先ほどよりも巨大で鮮明な形をした龍が鋭い牙を黒い球へと突き刺し、かみ砕く。
そしてニセサユを飲み込んだ。
「ぬうああああ!!」
ニセサユの体が紅蓮の炎の中で焼かれる。苦痛に悶え苦しみながらもニセサユは黒い剣を大きく掲げた。
黒い光を伴って、龍の頭が爆発した。
爆発の中心には体が焦がれ、息絶え絶えなニセサユの姿があった。
「貴様等! これで勝ったと思うなよ!」
そう言ってニセサユは尋常じゃない速さで逃げていった。タイタネアリを残していって。
サユはタイタネアリを拾う。
「これで魔法剣が四つ、全部揃ったね!」
「あとは聖剣に変えるだけだな」
「ここから南東、魔王城の南にある聖なる神殿ですね」
三人が南東へ向かおうとした時、プルエに呼び止められた。
「皆さーん、置いていかないでくださいよー」
「あ、すみませんプルエさん。そうだ、私、タイタネアリ持つのでイフリートドラグを預かっていただけますか?」
サユは山吹色の大剣を背中に携えながら、赤い剣をプルエに差し出した。
「はいー、お預かりしますー」
妖精の森を旅立ったサユ達一行は聖なる神殿へとたどり着いた。
神殿の中、祭壇の前で神子がサユ達のことを待っていた。
「よく来ました勇者様。さあ、祭壇に四つの魔法剣を納めください」
「それじゃあプルエさん、預けていた魔法剣を出してください」
サユはプルエに頼む。
「すみません皆さん、魔法剣は捨てちゃいましたー」
「はあああ!?? どういうことだてめえー!」
ミツコは怒りを露わにして叫ぶ。
「……プルエさん。魔法剣が必要なのはあなたも知っているはずです」
マホが尋ねる。
「どうして、ですか?」
サユがプルエに言った。
「だってー、ここで聖剣が完成してしまったら皆さんクリアしてしまうじゃないですかー」
「まさかお前、魔王の手先だったのか!」
「ぶぶー、違いますー」
「じゃあ、どうしてクリアさせたくないんですか」
サユが聞いた。
「そんな事、どうでもいいじゃないですかー」
「どうでも良くねーよ! クリアできなかったらずっとゲームの中じゃねえか!」
ミツコの言葉に続けてマホが答えた。
「なので、私たちをゲームの中から出したくないって事ですよね? プルエさん」
「はいー、そうですー」
ミツコはわなわなと拳を振るわせる。
「ああ! もう! わけわかんねえ! とりあえず殴らせろ! んで捨てた魔法剣を探す!」
「残念ですけどー、捨てた物は消えて無くなってしまいますよー。だから探しても見つかりませんー。もうあなたたちはクリアできないんですー」
「な……、嘘、だろ?」
「本当ですー」
プルエの言葉にミツコは膝を落とす。
「もう戻れない……?」
マホは俯く。
「皆さんー、ごめんなさいー。でもー、ここにいれば歳は取りませんしー、おいしいものがいっぱいありますしー、いいことずくめですよー」
「確かにここはいいところかもしれません。でも、ずっとここにいるわけにはいかないんです!」
サユがプルエに叫んだ。
「もう戻ることはないんですー、皆さんはずっとここの中ですー」
「……それでも私達は戻らなくちゃいけないんです!」
「グオォ……」
アクマデクマが唸った。
「……って、何でクマがいんだよ!」
ミツコは思わず立ち上がって体を引かせる。
「お嬢さん、お待ちなさい。あ、クマなんで、自分」
「クマさん? どういうことですか?」
サユがクマに聞く。
「それは神子さんに話を聞いてください」
「えっと……、神子さん?」
「勇者様は魔法剣をお持ちでない、という事でしょうか?」
神殿の神子がサユに尋ねる。
「え、ええ、まあ」
「ではこの近くにいるアクマを倒してください。そうすれば魔法剣が手に入りますので」
「はい、イベントフラグが立ちましたので自分を倒せば魔法剣が手に入ります」
「は?」
「はい?」
「え?」
「ええーーー!!??」
クマの言葉にサユ達三人は思わず聞き返し、プルエは絶叫した。
「どういう事なんですかー!?」




