第9話 PKK
第9話 PKK
僕は気づけば、元の仮想世界に戻っていた。
その横ではアリスが眠っていた。
「え・・・・・・あれ?・・・・・・あぁ、そうか僕は戻ってきて」
すると、僕の手にはペンダントが輝いていた。
「ハンナさん・・・・・・。約束します。クロードさんを
いつか必ず見つけて、これをお渡しします」
と、僕は決意を再び固めるのだった。
そして、僕はアリスを起こす事にした。
「アリス、アリス、起きてよ。ねぇ」
すると、アリスは上半身を起こした。
しかし、とても眠そうに薄目を開きながら、首を左右に
振り子のように揺らしていた。
「アリス、起きて、起きてってば」
「・・・・・・カイン?あれ?あぁ、そっか、もう終わっちゃったの
か」
「うん。機械人形のハンナさんは、姉妹達の所へ帰って
行ったよ」
との僕の言葉に、アリスは-うつむいた。
「それと、アリスに《ありがとう》って」
「そう・・・・・・」
しばらく、アリスは-そのまま無言だった。
僕が心配になって声を掛けようと思った-その時、
アリスは突然、立ち上がった。
「ア、アリス?」
「ん?どうしたの?さ、ハンナも無事に成仏できたんだし、
私達が-くよくよしても仕方ないでしょ」
「う、うん。かもね」
そして、僕も立ち上がった。
でも、僕には分かった。
アリスの瞳には涙が浮かんでいるのを。
アリスがハンナの事を強く思っている事を。
だから、僕は何も言わずに、微笑むのだった。
「何ニコニコしてるのよ、気持ち悪い」
「えぇ?」
と、僕は困ってしまった。
「あ、そうだ。これをハンナさん-から預ったんだよ」
そのペンダントを見て、アリスは顔をしかめた。
「それって・・・・・・男からハンナが-貰ったやつ
でしょ?」
「うん。そうなんだけど、その人に返して欲しいって、
託されたんだ」
「そっか・・・・・・ハンナ、まだ想ってたんだ」
と、アリスは切なげに呟いた。
そして、アリスは僕の方を向いた。
「カイン、それは-あなたに任せるわ。私は-その男を
許せないから。どんな理由が-あろうとも」
「うん・・・・・・分かった。僕が一人で届けるよ」
と、僕は答えた。
「・・・・・・じゃあ、帰ろっか」
「うん」
そして、僕とアリスはダンジョンの外を目指し、
歩き出すのだった。
その時だった。
急に二人の男が出てきた。
そいつらは大剣を手にしており、明らかに悪党に見える
風貌だった。そして、それは正しかった。
「ゲッヘッへ。兄貴ー。見て下さいよ。あのガキ、
女の子を連れてますぜ」
と、男の一人が言った。
「ああ、けしからん、誠もってけしからん。いや、むしろ
うらやましいッ!あんな少年ですら彼女が。くぅッ」
そして、兄貴と呼ばれた男は泣き出した。
「あ、兄貴、しっかりしてくだせぇ。ちくしょう。
てめぇら、許さねぇぞッ!この30年間、キス
どころか、女の子と手すら繋いだことの無い兄貴を
愚弄しやがって!この残念イケメンな兄貴をッ!」
すると、兄貴は男を思い切り蹴った。
「お前はッ、人のプライバシーをッ!この、このッ!」
と、兄貴は男を蹴り続けるのだった。
「すみましぇん、兄貴ッ!許してッ!」
「フッ・・・・・・許す。お前も《実年齢=彼女居ない歴》
だからな。それにイケメンなのは事実だしな」
そう言って、兄貴は足を止めて、髪をかきあげた。
すると、急に男は立ち上がった。
「てめーら。絶対、許さねぇぞッ!ぶっ殺すッ!」
「馬鹿、少女に罪は無い。フフッ、そこの-お嬢さん。
良ければ僕たちとパーティを組みませんか?
手取り足取り、教えて-さしあげますよ」
と、兄貴は息を荒くしながら言うのだった。
「キモイ。まじ、無理」
と、アリスは一刀両断した。
その言葉を聞き、兄貴は口をポカンと開け、幽鬼のように
ユラユラと辺りを徘徊しだした。
「あ、兄貴、しっかりして下さいッ!クッソッ。
てめぇら、よくも兄貴のピュア・ハートを
ブレイクしてくれ-やがったな!許さねぇ、
許さねぇぞッ!」
そして、男は剣を構えた。
「クゥ、可愛さ余って憎さ1億万倍ッ!
許さんッ!フゥオオオオオッ!」
そして、兄貴と男は剣をムチャクチャに振り回して
襲いかかった。
僕とアリスは-その攻撃を避けていった。
「ちょ、この人達、PKとか?」
と、僕はアリスに問いかけた。
プレイヤー・キラーとは、同じプレイヤーを狩る事を趣味と
する人達の事だ。《アルカナ・ドラグーン》はプレイヤーに攻撃
できるので、プレイヤーを殺人する事が出来る。
「違うわ。こいつらは-ただの馬鹿よッ!」
とのアリスの言葉に、兄貴達は-さらに発狂して、
攻撃してきた。
(でも、マズイかも。僕もアリスも疲れてて避けるのが
精一杯だ。何とか隙を見て、逃げないと)
と思った矢先、兄貴の首にナイフが突き刺さった。
それは不可視の速さで、投擲されたモノだった。
力なく倒れ、データ片と化した兄貴を見て、
男は目を見開いた。
「あ、兄貴ッ、畜生、誰だ?出てこいッ!
兄貴の仇は俺が・・・・・・?」
すると、男は言葉を最後まで紡ぐこと無く、ガタガタと
震えだした。
いつの間にか、黒ローブを着た者達が、男の退路を阻む
ように現れていた。
「ちょ、ちょっと!やっぱ出てこなくて良いからッ!
っていうか、テメーら-は何なんだよッ!」
と、男はわめき出した。
すると、一人の黒ローブの者が進み出た。
「僕か?僕の名はファントム。ギルド・デスゲイズの
ボスをしている者だ。僕のギルド・メンバーが世話
になってるようだな」
と言い、ファントムはアリスの方を見た。
その言葉を聞き、男は口を魚のように-ぱくつかせた。
「え?嘘・・・・・・あのPKKギルドの?」
と男は震えながら言うのだった。
「PKKって?」
と、僕はアリスに小声で尋ねた。
「プレイヤーをキルするのが、PKなら、
PKKはPKをキルする者よ。
それはプレイヤー・キラーにとっては天敵
のような存在。それが私達、デスゲイズよ」
と、アリスは誇らしげに言うのだった。
「さて、じゃあ、キルされる前に、何か言い残す
事は?PK君」
と、ファントムは死刑囚に対するように尋ねるのだった。
「えっと、僕、PKじゃなくて・・・・・・その少し、じゃれつ
いてた-だけでして」
「余計キモイわッ!」
とのアリスの突っ込みが入った。
「ちょっ、ごめんなさい。つい、出来心で。マジで
許してください。もう、しませんから」
すると、ファントムは-ため息を吐いた。
「アリス・・・・・・。どうする?僕としては、もはや
キルするのも馬鹿らしくなって来たんだが」
「うーん。じゃあ、カインに任せるわ」
と、アリスは僕を見て言った。
「え?ぼ、僕・・・・・・」
と、急に話を振られ、僕は戸惑うのだった。
「さぁ、坊主、決めろ。こいつの生殺与奪は
今、お前に委ねられた。さぁ」
とのファントムの言葉に僕は即答した。
「じゃあ、許してあげて下さい。多分、根は悪くない人
だと思いますし」
すると、ファントムはフッと笑った。
「そういうワケだ。運が良いな。ただ、これに
こりたら、無闇にプレイヤーには襲いかから
ない事だ。殺す者は殺される覚悟をしろ。
僕たちは皆、その覚悟を持っている」
「はい、はいぃッ!すいませんっしたーッ!」
と言い、男は地面に頭をすりつけ、そして、急ぎ立ち上がり、
駆け去って行った。
「やれやれ・・・・・・慌ただしいこった」
そう言って、ファントムは僕の方を見た。
「お前・・・・・・アリスの彼氏なのか?」
「へ?い、いや、違います」
と、僕は答えた。
「うん、全然、違うよ。私は-もっとマッチョが
好きなの」
とアリスは素っ気なく言うのだった。
それに対し、ファントムは苦笑を浮かべた。
「そうか。それでアリス、終わったのか?」
「うん。カインが済ませてくれた」
「そうか・・・・・・」
すると、ファントムは僕の前に歩み寄ってきた。
ファントムは身長が高く、僕を見下ろした。
「カインと言うのか?感謝しよう。よく機械人形の
ハンナの苦しみを断ってくれた。
よく、アリスの願いを叶えてくれた。
礼を言う。本当に-ありがとう。
困った事が-あれば言え。
今回の恩を僕たちは決して忘れは-しない」
そう言い残し、ファントムは僕に背を向けた。
さらに、他の黒ローブの者達も僕に頭を下げ、ファントムの後を追い、
去って行った。
それを僕は見つめている事しか出来なかった。
残されたのはアリスと僕の二人だった。
「じゃあ、帰ろっか、カイ」
「うん」
そして、僕とアリスは歩いて行くのだった。
一瞬、後ろを振り向くと、機械人形のハンナさんの姿が
見えた気がした。
それは幻なんだろうけど、現実なんだと-僕には
思えたんだ。
・・・・・・・・・・