表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第7話  機械人形の夢

 第7話  機械人形の夢


強いノイズが走った。

 それは誰かの記憶だった。

 それを僕は第三者の視点から見ていた。

 でも、僕は-それを見たくなかった。聞きたくなかった。

 見聞(みき)きしまったら、今までの自分では居られない気がした。

 すると、機械人形の女性が立っていた。

 その体は白濁(はくだく)(えき)(けが)されていた。

『・・・・・・あなたぐらいの年齢(ねんれい)なら-もう分かるでしょう?何が

起きているかくらい』

 との機械人形の声が切なげに響いた。

「それは・・・・・・」

 と、僕は口ごもった。

『あの腐った人間どもは、文字通(もじどお)り、私達-機械人形を

(せい)玩具(がんぐ)にしました。しかも、私達が自我を持つよう

に、量子-人工知能を組み込んで』

 すると、風景が変わった。

 そこは非現実的に美しく(あお)い湖だった。

 気づけば機械人形は白いワンピースを着ていた。

 それは風に吹かれ、幻想的に-なびいていた。

『プログラムを組まれていた私達は人間に逆らう事も

出来ず、ただ-されるがまま』

「あ、あの・・・・・・そんな高度な人工知能が存在するんですか?

人間と違和感なく会話できる程の人工知能なんて」

 と、僕は機械人形に(たず)ねた。

『・・・・・・仮想空間においてなら。私達の-このボディも

仮想空間にしか存在しません。原理は私達にも分かりませんが、

量子コンピュータが-それを可能にした』

「量子コンピュータ・・・・・・」

『その技術と特許は全て、合衆国が押さえており、

私達には-とてもアクセスできません。しかし、

その一部が流出し、(うら)稼業(かぎょう)の人間に利用されて

いました』

 と、機械人形の女性は説明した。

童話(どうわ)では、機械が心を求めて旅をするようですが、

私は心など得たくはなかった。感情の無い機械で

ありたかった。そうすれば、これ程の苦しみを

味わわずに()んだのに』

 そう言って、機械人形は-寂しげにうつむいた。

『でも、一つだけ、一つだけ、心を得て良かったと

思う事が-ありました。

それは(こい)でした』

 すると、光景が変化していった。

 そこでは一人の男性の姿が-あった。

 その横ではドレスを着た機械人形が手を(つな)いでいた。

『彼は私を愛してくれた。私は彼を愛していた。

たとえ、それが幻想だったのかも知れなくても、

当時の私には、それは-とても大切な事だったの

です。でも・・・・・・』

 そこには暗闇で(ひざ)(かか)える機械人形の姿が-あった。

『あの人は私を(むか)えに来ると言ってくれた。

その時、私を解放してくれると。

ただ、今は出来ないと。

・・・・・・私は-その言葉を信じました。

無邪気な少女のように。

でも、裏切られた。

どれ程の時を待とうと、彼は会いにすら来て

くれなかった。

ここの時は長いんです。

彼を待つ時間は-あまりに遠く、切なく、

私は心を壊していきました』

 すると、強いノイズが走った。

『そして、満足に客を喜ばせられなくなった私は

廃棄(はいき)される事となりました。

そう告げられても、私は何とも思いませんでした。

むしろ、《ああ、ようやく終わるんだ》と(かす)かに

感じるだけでした。

いえ、もしかしたら、私は-それを望んでいたのかも

知れません。このまま永遠に彼を待ち続けるよりも

私が消滅してしまった方が、彼に裏切られた現実を

見なくて済むから。

彼は-きっと少し遅れているだけだ、と思って

消えていける。

そう、私は思いました』

 すると、機械人形の目からオイルの(しずく)が-こぼれた。

『でも、運命は私に死を許さなかった』

 その機械人ギュウオの言葉と共に映像が流れた。

 

 黒ローブをまとった者達が、次々と客の男達を斬り刻んでいった。

「やれやれ、(みにく)い、(みにく)いな・・・・・・。

これなら豚の屠殺(とさつ)の方が-まだマシだな』

 と、黒ローブの者は-うんざりと言うのだった。

 すると、(はだか)の男が震えながら怒鳴(どな)った。

「てめぇッ!ここが誰の管轄(かんかつ)か分かってんのかッ!」

「さぁ?僕は裏の組織には-うとくてね。」

「クソがッ!」

 と、男は叫んだ。

 しかし、次の瞬間、黒ローブの短剣が男に突き刺さった。

 それと共に、男は絶叫をあげた。

「グッ、あ・・・・・・馬鹿な。何で、痛みが・・・・・・。

それに、そもそも-なんで攻撃が出来てるんだッ!

そういう風に、設定されてないハズなのに」

 すると、黒ローブ達は笑った。

「さぁ?システムを超越しているからじゃ

ないのかな?まぁ、少し、楽しんでいく

と良い」

 と言い、黒ローブの者は嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべた。

「ヒッ・・・・・・ログ・アウト、ログ・アウトッ!

なんで出来ないんだッ!や、やめろ、やめて

くれッッッ!」

 そして、後には男の絶叫が響いた。


 機械人形の前には黒ローブの者が立っていた。

「お前、意識は-あるか?」

 と、黒ローブの者は機械人形に(たず)ねた。

「・・・・・・は、い」

 そう機械人形は-たどたどしく答えた。

「・・・・・・クエルト、そっちは-どうだ?」

 と、黒ローブの者は、部下のクエルトに(たず)ねた。

「駄目ですね。一見、まともに見えますが、

自我を失っています。恐らく、心が耐え

られなかったんでしょう」

 と、数十体の機械人形を()て、クエルトは言うのだった。

「という事は、残ってるのは、この壊れかけた子

だけか。おい、お前、僕の言葉が分かるか?」

 と、黒ローブの者は機械人形に(たず)ねた。

「・・・・・・は、い」

「僕の名はファントム。お前の名は?」

 と、黒ローブの者・ファントムは声を()けた。

「わ、た、しは・・・・・・ハンナ」

 と、機械人形は答えた。

「そうか、ハンナ。どうする?

お前には選択肢が二つある。

ここで仲間の機械人形と一緒に()ちるか、

僕達と共に来るか。

さぁ、選ぶと良い」

「わ、たしは・・・・・・まだ、いきて・・・・・・」

 とのハンナの言葉に、ファントムはニヤリと笑みを浮かべた。

「ならば、お前は僕達の同胞(どうほう)だ。

付いて来ると良い。

さぁ、脱出だ。

アリス、全てを闇に帰してやれ」

 そうファントムはアリスに(めい)じた。

「うん、ボス」

 と、アリスは答えた。

 そして、脱出するファントム達を見届け、

アリスは黒い波動で-その場を崩壊させるの

だった。


 

気づけば僕は機械人形のハンナの前に立っていた。

「・・・・・・それでアリスと知り合ったんですか?」

 と、僕はハンナに(たず)ねた。

『ええ。でも、私の心は壊れていて、暴走を繰り返して

しまいました。プログラムから外れた私を止めるのは、

アリス達ですら難儀(なんぎ)した・・・・・・。

だから、私は《揺りかご(クレイドル)》という領域で眠りに

つかされました。ですが、その封印は何者かに破られ、

眠りから()め-暴走した私は狭間(はざま)回廊(かいろう)

通り、この場所に辿(たど)り着きました。

それは()しくも、私が作られ-男達の相手をさせられた

場所。そして、姉妹の機械人形達がアリスの波動に

よって(ほうむ)られた場でした』

 そこはガラクタの積まれた空間だった。

『アリスは-あなたを私に引き合わせたかったようですね。

あなたなら私を正気に引き戻せると思ったのかも

知れません。

それは-ある意味、正しかった。

現に私は-こうして最期(さいご)の瞬間を、まともな意識で

(むか)える事が出来る。ありがとう-ございます』

 そう言い、ハンナは微笑(ほほえ)んだ。

 それに対し、僕は涙をこらえるので精一杯(せいいっぱい)だった。

 彼女の痛みを僕は、その一厘(いちりん)すら理解できていないワケで、

僕には泣く資格なんて無いから。

「あのッ・・・・・・何か僕に出来る事は-ありませんか?」

 と、僕は涙声で(しぼ)るように言った。

 すると、ハンナは柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべて、ペンダントを

僕に渡した。

『もし、あなたが-あの人に会う事が出来たら、これを

渡してください。あの人から(もら)ったモノです。

もう、私には必要の無いモノですから』

 僕は-そのペンダントを確かに受け取った。

『そして、伝えてください、《あなたと会えて幸せでした》と。

それだけです』

「必ず、伝えます。いつか、その人を見つけて、必ず」

『ありがとう。あの人は、偽名(ぎめい)でしょうが-クロードと

名乗っていました』

「クロードさん-ですね」

 と、僕は確認した。

『ええ。あなたは何処(どこ)か、あの人に雰囲気(ふんいき)

似てますね。もしかしたら、あなたなら本当に-あの人に会える事が

出来るかも知れません』

 そう言い、ハンナは僕の頭を()でた。

『あなたの名は?』

「虹村 カイです」

 と、僕は答えた。

『そう、カイ・・・・・・。良い名前ですね。

じゃあ、私は-そろそろ行きます。

アリスには()わりに(あやま)っておいて下さい。

それと《ありがとう》と》

「はい、必ず伝えます」

 そう僕は彼女に約束した。

『・・・・・・時間ですね。

さようなら、心優しき、少年騎士さん。

あなたに祝福が-あらん事を・・・・・・』

 そう言い残し、ハンナは僕に背を向け、去って行った。

 その先には、機械人形の姉妹達が待っていた。

『姉さん』『ハンナ』と、彼女達はハンナを優しく(むか)え入れた。

 そんな彼女達に対し、ハンナは-ひまわりのような笑顔を浮かべ、

一歩、進み寄るのだった。

 そして、ハンナは光の中に消えていったのだった。


 ・・・・・・・・・・



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ