第6話 加速領域
第6話 加速領域
アリスと機械人形の戦いは-さらなる段階へと移行した。
互いに魔力を解放し、魔法を発動しだした。
「魔法?なんで・・・・・・アルカナの世界では使えない
はずなのに・・・・・・。いや、でも、この領域では
問題なく、使えるのか?」
と、僕は呟いた。
すると、僕の周囲に結界が形成された。
それはアリスの魔力によるモノだった。
「アリス?」
その僕の呟きにはアリスは答えず、一瞬、こちらに目を
向けただけで再び戦いに身を投じた。
それからアリスは-さらに大量の魔弾を放った。
それに対し、機械人形は-腕の部分を変形させ、銃を形成した。
もはや、何でも-ありだった。
そして、機関銃から銃弾が乱射され、アリスの魔弾と衝突し
爆発していった。
アリスは黒い魔力で鎌を形成し、機械人形に襲いかかった。
一方で、機械人形は-機械の銃剣を作り出し、
それを防いだ。
アリスはトリッキーな動きで、次々と鎌を振るも、機械人形は-
それを冷静に弾いていった。
すると、機械人形はアリスの脳天に銃剣を向けた。
アリスは-とっさに首を傾けると、次の瞬間には、銃弾が
その耳元を通り過ぎていった。
「ッ!」
そして、アリスは思いきり、鎌を振るった。
機械人形は-それを銃剣で防ぐも、衝撃までは殺せず、
そのまま吹き飛ばされていった。
しかし、機械人形は姿勢制御を行って、綺麗に着地をした。
機械人形の重みからか、地面には陥没した足跡が
残った。
そして、気づけば、アリスと機械人形は高速で移動しながら、
魔弾と銃弾を撃ち合っていた。
「このッ!正気に戻りなさいよッ!この馬鹿ッ!」
と、叫び、アリスは追尾型の魔弾を放った。
機械人形は追ってくる魔弾を次々とかわし、さらに
銃剣で撃ち抜いた。
さらに、そのままアリスに向かい、機械人形は銃弾を
放ってきた。
それをアリスは鎌で弾いていった。
(なんて、反応速度だ。どうして、あんな事が出来るんだ?
僕なんか目ですら追えないのに・・・・・・)
と、僕は遠くから体を震わせながら思うのだった。
すると、機械人形は銃剣をもう一つ形成し、二丁で
アリスを狙い撃った。
アリスも流石にたまらず、ガラクタの陰を利用して、
機械人形の死角へと逃げ込んだ。
すると、機械人形は空中に機械の瞳を召喚した。
その瞳は-どんどんと増えていき、そして、羽虫のように
ガラクタの陰へと飛んでいった。
隠れていたアリスを視認した瞳達は、レーザーを
アリスに向かって放った。
アリスは-それを次々と躱すも、レーザーの線の攻撃を
避けるのは非常に難度が高かった。
今、瞳を起点に空中には、レーザーの立体交差が出来上がり、
アリスを斬り裂こうと迫っていた。
それをアリスは器用に避けて行くも、限界は近づいていた。
『カインッ!絶対に-その結界から出ないでッ!それとッ、
これからの私の姿を見ても、嫌いにならないで』
とのアリスの声が、僕の脳に直接-響いた。
次の瞬間、アリスは天に向かい口を開いた。
そして、アリスの両目から黒い涙が-あふれ零れだした。
『ヒッ、ヒィヤァァァィアァァアッッッ!』
とのアリスの絶叫と共に、黒い波動がアリスから吹き荒れた。
そして、その波動に触れるや、空中を飛んでいた瞳達は、
消滅していった。
結界の中に居る僕は、何とも無かったが、一歩でも外に出れば
大変な事になるのを肌で感じていた。
これはもはや遊びでは無かった。
真に心と魂が懸かっているのだった。
そう、僕は悟るのだった。
一方で、機械人形は前方に魔力の壁を展開するも、
黒い波動を防ぎきれず、その体は波動に蝕まれて-
いった。
機械人形の表面が次々とボロボロと崩れて、塵と化した。
もはや勝敗は時間の問題に見えた。
その時だった。
機械人形は顎が外れる程に口を開いた。
それと共に、共鳴音が響いた。
さらに、機械人形の頭上には天使の輪が出現し、
光が機械人形の口に凝縮していった。
僕は悪寒を感じた。
「アリスッ!避けてッ!」
僕は思わず、そう叫んだ。
その言葉に、アリスは一瞬-ハッとした表情を見せた気が
したが遅かった。
次の瞬間には、機械人形の口から、巨大なレーザーが放たれ、
アリスを飲み込んだ。
そして、大規模な爆発が起きた。
周囲には静寂が満ちた。
気づけば僕の周囲に張られていた結界は砕け散っていた。
しかし、その効力か、あれ程の爆発が起きたにも関わらず、
僕は一瞬、意識を失っただけで済んだ。
辺りには煙が充満していた。
「コホッ、コホッ・・・・・・、アリス?どこ?返事をして」
と、僕は咳き込みながら、アリスを探した。
すると、煙に人影が映った。
「アリスッ!」
しかし、煙を抜けた先には、機械人形が体を軋ませながら
立っていた。
すると、僕に気づいたのか、機械人形は首を120度近くも
回転させ僕を見据えた。
「ギ・・・・・・ガ・・・・・・」
と、機械人形は何かを呟いたが、僕には理解できなかった。
その時、僕は怒りが-ふつふつと湧いてきた。
恐怖を怒りが勝った。
「お前ッ!よくも、よくもアリスをッ!
絶対に許さないぞッ!」
そして、僕は抜剣し、剣に思念を通した。
段々と僕は-この世界の事を理解してきた。
(全てを斬り裂くイメージを。鉄さえも刃こぼれ一つ
する事なく、鮮やかに一刀両断する鋭さを)
そう僕は思念した。
すると、僕の剣は青白く輝きだした。
それを見て、機械人形は-うなり声をあげた。
そして、機械人形は僕に襲いかかってきた。
激しい攻撃が僕に放たれた。
しかし、それを僕は剣で一つ一つ、弾いていった。
(ほら、ほら、ほら・・・・・・世界が見通せる。
世界は凍れるかに遅れていく。見える。
見える。見渡せる。
僕の脳は加速していく。
アルファからベータへ、ベータからガンマへ。
その加速領域を移行していく・・・・・・)
僕は自分とも思えぬ思考を経ていた。
そして、段々と攻守が逆転していった。
機械人形が傷つき動きが鈍っていたのもあるが、
僕の剣は動きが最適化されており、鋭さと素早さが
格段に増していたのだ。
僕は-自身の動きが、光のように最短経路を自動で、
無限の量子世界群から選択されるのを-
感じていた。
(散れ・・・・・・)
僕は-そう思念をこめ、三連の突きを機械人形の胴体に
放った。
次の瞬間、機械人形は成すすべも無く、吹き飛んで行った。
それと共に、周囲の空間が砕けていった。
「え・・・・・・?」
わずかに正気に戻った僕は、床が崩落していくのに巻き込まれ、
抗いようも無く-闇へと落ちていった。
・・・・・・・・・・