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第3話  狩り

 第3話  狩り


 僕は仮想空間のメイン・サーバーへと降り立った。

「よし、《アルカナ・ドラグーン》のゲーム・サーバーに

行こう」

 そう(つぶや)き、僕は気持ちを(ふる)()たせ-

歩き出した。

 電光-掲示板に書かれてある立体地図を見るも、複雑すぎて

良く分からなかった。

 しかし、何となく歩いて行くうちに人の流れを見つけた。

 僕は《もしや》と思い、その流れに沿って進んで行った。

 すると、一際(ひときわ)-大きな転移水晶を見つけた。

 さらに、《アルカナ・ドラグーン》の文字の描かれた看板

もあった。

「ここだ。でも、すごい混んでる・・・・・・」

 そこには遊園地-()みの長蛇(ちょうだ)の列が展開されていた。

 僕は(なら)んでいるプレイヤーに聞いてみた。

「あの。これって、《アルカナ・ドラグーン》にアクセス

する転移水晶の順番待ちですか?」

「ん?ああ、そうや。なんか、不具合みたいやで。

普通なら手で触れて《転移》と念じたらOKなん

やけど、あの転移水晶は念じても、全然-駄目なん

や。ワイも何度か-やってみたけど、無理やった」

 と、プレイヤーの人は親切にも答えてくれた。

「そうなんですか」

「そうや。まぁ、でも中には《思念転移》も

出来てる奴もおるみたいやし、坊主も一度

試してみると良い。あぁ、《思念転移》って

のは、念じて転移するやり方の事や。

それに対し、操作盤を手動で入力して転移を

するやり方は《手動転移》って言うんや。

覚えとき」

「あ、はい。ありがとう-ございます」

 そう言って、僕は頭を下げた。

「まぁ、初心者にアルカナは難しいと思うんけど、

気張(きば)っていきや」

「はい。あれ?僕・・・・・・初心者に見えます、やっぱり?」

 すると、その細身のプレイヤーは声をあげて笑った。

「すまん、すまん。でも、服が初期設定やったから」

「あ」

 見てみれば、僕の着ている服は病院で着させられるような服

だった。たしか、(びょう)()って、言ったような。

 それは他の人達の服と比べたら、あんまし洗練されている

とは言いがたかった。

「はい。初心者です」

「はは、まぁ、そうめげる事ないで。

とはいえ、服装は変えておいて方が

ええやろうな。《アルカナ・ドラグーン》

のゲームは中世末期が舞台やからな。

周りの奴らの服も参考にするとええと

思うで」

「はい。色々とありがとう-ございます」

「いやいや。待ってるだけで-こちとら

(ひま)やから」

 そして、僕は-そのプレイヤーさんと別れて、

服装を騎士風に変えた。

 それから、転移水晶へと進んだ。

 その転移水晶は間近(まぢか)で見ると、さらに大きく感じた。

 前にプレイした《ランドシン伝記》の-転移水晶の数十倍くらいは

ある気がした。

 そして、僕は転移水晶に-おずおずと手を触れた。

(うぅ・・・・・・周りの人の視線を感じる。

僕みたいな初心者が《思念転移》出来る

気はしないけど。それでも)

 と、僕は思うのだった。

 そして、僕は《転移》と、強く念じた。

 すると、僕の体は光に包まれた。

 それを見て、並んでいた人達は-どよめきをあげた

ように聞こえた。

 しかし、それを確認する間もなく、僕は-

《アルカナ・ドラグーン》の世界へと、転移

されていった。

 

 ・・・・・・・・・・

 そこは煉瓦(れんが)で出来た大きな街だった

 あちこちで人々が-せわしなく動き回っていた。

 すると、「ねぇ、あなた」と女の子の声が()けられた。

 そこには黒ローブをまとった金髪の少女が立っていた。

 その子は-まるで人形のように整った顔立ちをしており、

ツイン・テールが-とても似合っていた。

「僕?」

「そうよ、あなた。すごいね。初めてで、あの水晶

で《思念転移》出来るなんて」

 と、少女は目を輝かせて言うのだった。

「偶然だよ。接続の問題じゃないの?」

「違うよ。あれは《思念力》を計っているんだよ」

「思念力?」

 と、僕は少女に(たず)ねた。

「そう。(おも)いの力。その力なしではアルカナの大地で、

上級プレイヤーとなるのは不可能なの」

「えぇと・・・・・・。想いの力っていうパラメーターが

あるの?」

 すると、少女はニヤリとした。

「そうだよ。それは測定する事は出来ないけど、

確かに私達の中に存在するんだよ」

「うーん・・・・・・良く分からないや」

 少女の言葉は、僕には-いかんせん難しかった。

「いずれ実感するよ。この世界には、他のゲームと

違って、決まったパラメータは存在しないから」

「え、それって、本当?なら、パラメータが固定化

されてるって事?体力とか魔力とか、そういうのが」

「違うよ。この仮想世界は現実に-すごく似ている。

でもね、一つだけ大きな違いが-あるの。

それが(おも)いの力。この世界では、想いが大きな意味を-

持つ。ただプレイ時間を重ねれば強くなれるワケじゃ

ないんだよ。強い想いを胸に秘めて戦うモノこそが、

上に立つように出来てるんだよ」

「強い想い・・・・・・」

 と、僕は少女の言葉を噛みしめた。

(それは、姉さんを見つけたい、っていう僕の想いも

入るんだろうか?それとも・・・・・・)

 と、僕は考え込んだ。

 すると、少女が僕の顔を(のぞ)()んだ。

 いや、正確には僕の瞳をだ。

「ど、どうかした?」

「あなた、良い目をしてる。きっと、強くなるよ。

私の勘は当たるから」

「あ、ありがとう」

 と、僕は照れながら答えた。

「あなた名前は?」

「えっと、虹村 カイ」

「そうじゃなくて、ユーザー・ネームは?

何か考えて無いの?」

 との少女の指摘に僕は慌てた。

 あまりに急ぎでプレイを開始したから、そういった事を

忘れていたのだった。

「えっと・・・・・・そうだ、じゃあ、《カイン》で。

《ランドシン伝記》でも使ってた名前だし」

「ふーん、そう。私のここでの名前は《アリス》よ。

よろしくね」

 そう言ってアリスは-()(とお)るかの手を差し出してきた。

「あ、うん。よろしく」

 そう答え、僕は少しドギマギしながら、アリスの手を

握るのだった。

 すると、アリスはブンブンと手を振り、大きな握手をした。

「よーし。じゃあ、行こう。カイ」

「えっと・・・・・・どこに?」

「決まってるよ。狩りにだよ」

 そう答え、アリスは(くちびる)(はし)を上げるのだった。


 ・・・・・・・・・・

 それから僕とアリスは、初心者用のステージで、ひたすら

モンスターを倒していった。

 しかし、経験値がたまった感じもなく、アイテムや貨幣(かへい)

手に入らなかった。

「あ、あのさ・・・・・・これって実はレベル・アップしてる

とか、そういう系?」

「だから、レベルとか無いのよ」

 と、アリスは-うんざりと答えた。

「じゃあ、僕とアリスもパラメータ的には同じ強さ

って事?つまり、格闘ゲームみたいに」

 すると、アリスはフッとした。

 そして、アリスは素手で大きな岩を殴りつけた。

 次の瞬間、岩はヒビ割れ、音を立てて砕けていった。

「ある意味、同じかもね」

 と言うアリスを、僕は『絶対に違う』と思いながら

見つめるのだった。


 それから、さらに数時間、僕たちは-ひたすらモンスターを

倒し続けた。

 この頃になると、僕は段々(だんだん)とコツを(つか)んできた。

 操作性も《ランドシン伝記》と大して変わらず、

簡単に応用が()いた。


「うんうん。中々、カインは見所(みどころ)があるわね。

()めてあげる」

「あ、ありがとう」

 すると、アリスが両手を天に伸ばし、アクビをした。

「じゃあ、もう(ひと)()りしよっか」

「うん」

 

 初期装備の剣が妙に、僕の手に馴染(なじ)み、一体(いったい)()す。

全身を剣のように感じる。

 今の僕は、モンスターを斬る剣そのもの。

 敵の気配を感じる。

 もはや、見る必要は無い。

 このレベルの敵なら、条件反射で倒す事が出来る。

 手首を締める。

 踏み込みを強く。

 重心移動を完璧に。

 そして、一刀両断にする。


 気づけば、周囲にモンスターは居なくなっていた。

 風が熱を持った僕の体を()ましてくれる。

 今なら全てを斬れるような気さえした。

 それが思い上がりだという事は承知していたが、

あの雲でさえ斬れそうな気分にひたれた。

 すると、拍手がした。

 そこには岩に腰掛(こしか)けるアリスの姿があった。

「・・・・・・アリス」

 と、僕は(つぶや)いた。

「怖いなぁ。そんな、私さえ斬ってしまいそうな目を

しないでよ」

 との言葉に、僕はハッと我に返った。

「ご、ごめん。そんなつもりじゃ」

「いいんだよ。()めてるんだもん。ここまで(すご)

剣バカ、初めてかも」

「そ、そうかな?」

 と、僕は首をかしげた。

「そうだよ。もう、合わせて9時間以上、ぶっ通しで

やってるよ。しかも、思念を通した剣撃を放ち続けてる。

これって、なかなか出来る事じゃないんだよ」

「良く分からないけど、そうなんだ」

「そうそう。やっぱ、才能あるなぁ。うちのギルドに

スカウトしたいくらい」

「ギルドって?」

 と、僕はアリスに(たず)ねた。

「プレイヤーの集まりの事だよ。ただ、うちのギルドは

カインみたいな良い子には、(つと)まらないかも」

「そっか」

 僕は少し、寂しい気になったけど、アリスがそう言うなら

そうなのだろう。

「さて、そろそろ、時間だね。じゃあ、私は今日は

ここで()めるから」

「あ、うん」

「それでフレンド登録しようよ」

 との言葉に-僕は(うなず)いた。

 フレンド登録すると、相手が現在ゲームにログインしてるか

とかも分かり、色々と便利だった。

 そして、僕とアリスはフレンド登録を済ませ、

フレンド・リストに相手の名がある事を確認し

た。

「明日の夜の9時、()いてる?」

「うん」

 と、僕は答えた。

「じゃあ、その時間に《アルカナ・ドラグーン》の

世界で待ってるから」

 そう言い残し、アリスはゲームをログアウトして消えていった。

「僕も今日は帰ろう」

 そして、僕も今日はゲームを()める事にした。


 現実世界に戻ると、まだ、1時間くらいしか()っていなかった。

「明日か・・・・・・。少し楽しみだな。着実(ちゃくじつ)に強くなってるのを

感じるし。はぁ・・・・・・でも、姉さんの手がかりはゼロ

かぁ。そりゃそうだよな」

 と、僕は(つぶや)くのだった。

しかし、この出会いが後に、大きな意味をもたらす事を

この時の僕は知らなかった。


 ・・・・・・・・・・



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