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第2話  装着

 第2話  装着(そうちゃく)


 街中で、発売延期をしてた《アルカナ・ドラグーン》が販売されていた。

 しかし、それは僕には関係なかった。

 姉さんが居なくなった。

 授業も友達の話も、何もかもが通り過ぎていった。

「カイ殿?大丈夫でござるか?ここ数日、少し変で

ござるよ?」

「そうだぜ。何か(おも)()めてるっていうか?

何かあったのか?」

 と、スグルとモトハルは心配そうにしてくれた。

「ううん・・・・・・何でもないよ」

「ならいいが。もし、何かあるなら言えよ。

お前の方が《アルカナ・ドラグーン》

なんかより大事だからな」

「おお、モトハル殿、中々に格好(かっこう)()台詞(せりふ)

ござるな」

「茶化すなよ。というか、もしかして、カイも

《アルカナ・ドラグーン》をやりたくなった

とかか?」

 と、モトハルは(たず)ねた。

「え?いや、そうじゃないんだ。ちょっと、家庭の事情で」

「そうでござるか・・・・・・。あまり、聞かない方が

よいでござるか?」

「うん・・・・・・」

 としかスグルに答えられなかった。

「まぁ、なんだ。俺達はいつでも相談に乗るからな」

「うん、ありがとう」

 と、僕はモトハルに対し、無理に笑顔を作って答えた。

 二人の気持ちは-すごく嬉しかったけど、

事情は話せなかった。

 もし、姉さんの事を話せば、叔母(おば)さん一家と

上手く行ってない事も含めて話さないといけない気がした。

 

ともかく、僕は意を決して、叔母(おば)さんの家に電話する事にした。

電話のコール音が-すごく長く感じる。

「はい、(にじ)(むら)で-ございます」

 との叔母さんの声が響いた。

「あの・・・・・・カイです」

 すると、叔母のため息が聞こえた。

「カイなの?どうしたの?お金なら()()んであるでしょう?」

 との不機嫌そうな声がし、僕の心は押しつぶされそうになっ

た。育ての親に-こうまで嫌われるのは、やはり悲しかった。

「あの・・・・・・実は・・・・・・」

 そして、僕は事情を全て話した。

 すると、叔母の雰囲気(ふんいき)が変わったのが、

電話(でんわ)()しでも分かった。

「というワケで、どうしたらいいか、分からなくて」

「・・・・・・カイ。事情は分かったから、もし、あと一週間

して、サユリが帰って来なかったら、こっちに戻って

来なさい。いいわね」

「え・・・・・・?」

 僕は一瞬、頭が真っ白になるのを感じた。

「元々、あの子に-あんたを(あず)けるのは嫌だったのよ。

あんたは、サユリと違って、そんなに悪い子じゃ

ないしね。馬鹿みたいに-シスコンな所を(のぞ)けば」

 との叔母の容赦(ようしゃ)ない言葉が、僕の心に突き刺さった。

「そ、そんな・・・・・・。あ、そ、そうだ。叔母さん、

姉さんの仕事場を知らない?」

「あぁ・・・・・・それね。それは-こっちが聞きたい

くらいよ。何度、聞いても教えてくれなくて。

馬鹿の一つ覚えで《守秘義務がある》と答えて

来たわよ。大方(おおかた)、水商売でも-やってたんじゃ

ないの?」

「・・・・・・姉さんは-そんな事をしないよ」

「カイ。あんたも現実を見なさい。サユリもそんなに

良い子じゃ無い事くらい、あんたでも分かるでしょ?

あの子が-まともに社会人なんて出来ると思っているの?

今回の件だって、どうせ男でも作って逃げたんじゃない

の?」

「・・・・・・ごめん、叔母さん、もう切るね。

僕は僕で姉さんの行方(ゆくえ)(さが)すから」

「ちょっと、カイ、待ちなさ」

 その言葉を最後まで聞かずに、僕は受話器を置いた。

 それから、何度か電話が鳴るも、僕は出なかった。

「・・・・・・警察に行こう」

 と、僕は決心するのだった。


 ・・・・・・・・・・

 僕は-なるべく大きな警察署に行く事にした。

 それで《神宿署(シンジュクしょ)》に向かった。

 しかし、どれだけ事情を話しても、警察の人は

捜索をしてくれなかった。

 僕は裏切られた気分となり、ぼうぜんとしながら

家に戻るのだった。


 ・・・・・・・・・・

警察署に行った後、僕は部屋で泣き続けた。

 姉さんは確かに居なくなってしまったのに、誰も

助けてくれなかった。

 そして、気づけば。僕は-そのまま寝てしまった。

 

「うう・・・・・・」

 ひどく頭が痛んだ。

 良く考えたら、昨日は夕飯を食べずに寝てしまった。

 時計は-正午をさしていた。

「寝過ぎちゃった・・・・・・。学校、行かないと」

 そして、ぼんやりと起き上がった。

 それから、僕は先生に『体調が悪くて遅れてしまいました』

半分嘘(うそ)の弁解をした。

 先生は困った(ふう)に、『今度からは、遅れる時は朝に

連絡するように』と言ってきた。

 僕は『はい・・・・・・』と、答えて頭を下げて、教室に行くの

だった。

 しかし、その日は5限がすぐに終わった上に、

6限が自習で早く帰れた。

 なので、僕は-ほとんど学校に居る事無く、家に戻るのだった。

 すると、家の鍵が開いていた。

《姉さん?》

 と、思い、僕はソッと扉を開いた。

 声をあげる気はしなかった。

 音を立てれば、姉さんが居たとしても、居なくなってしまう

ような気がしたからだった。

 その時、僕は奇妙な事に気づいた。

 女性用の革靴が置いてあったのだった。

《姉さんの靴じゃない?》

 その靴を僕は見た事が無かったが、もしかしたら僕が

知らないだけなのかも知れなかった。

 そして、こっそりと廊下を渡り、人が居ないか確認した。

 すると、姉さんの部屋から物音がした。

「姉さんッ!」

 僕は()えきれずに、そう叫んで、姉さんの部屋に入った。

 しかし、そこに居たのは姉さんじゃなかった。

 代わりに居たのは、スーツを着た-端正(たんせい)な女の人だった。

「え?だ、誰ですか?」

 すると、その女の人は僕を無機質な目で見てきた。

「・・・・・・お前は虹村 カイだな」

 と、女の人は冷たい目で断定的に問いかけた。

「え?あ、はい・・・・・・」

 と、僕は素直に答えた。

「そうか・・・・・・。私は《遺品整理協会》という組織に

属する人間だ」

「遺品整理・・・・・・?」

 その嫌な響きに、僕の心臓は早鐘(はやがね)のように鳴り響いた。

 女の人の足下には、姉さんの荷物が整理されようとして

いた。

「そうだ、お前の姉は死んだ。正確に言えば、この世界

から消え去った。なので、彼女の痕跡(こんせき)、そして、情報

を生前の契約にのっとり、消去する」

「ま、待ってくださいッ!死んだ?冗談でも

言って良い事と悪い事が-あるんじゃ!」

 と、僕は叫んだ。

「死んだと言うのは語弊(ごへい)がある言い方だった。

虹村 ミユキは、この世界から居なくなった。

それが正しい表現だ」

「意味が分からないですッ!大体、どうして、人の家に

勝手に上がり込んでるんですかッ?」

「警察なら動かないよ。試して見ると良い。もっとも、

その前に、君の記憶を消すが」

 すると、その女の人の手から、何かが浮かびあがった。

 それは数字の羅列、さらに数式のように見えた。

「数字・・・・・・?」

 との僕の(つぶや)きに、女の人は-(かす)かに無表情を

崩したように見えた。

「お前・・・・・・コードが見えるのか?サユリの弟だけは-ある

のか?」

 と、(つぶや)くのだった。

「あのッ!姉さんの事を教えてください。お願いします」

 と、僕は逃げ出したい気持ちを必死に抑えながら、

言うのだった。

 すると、女の人は少し、考え込む素振(そぶ)りを見せた。

「・・・・・・特別だ。君の記憶は消さない。ただし、虹村 サユリ

の存在を忘れたモノとして振る舞え。いいな」

「そんな事、出来るわけ」

 すると、女の人は、僕に顔を近づけた。

「これは命令だ。分かるか?」

 との言葉と共に、女の人の吐息(といき)が僕の(ひたい)

かかった。

「・・・・・・」

 僕は何も答えられなかった。

「まぁいい。はぁ・・・・・・お前をいじめると、いつかサユリに

殺されそうだからな」

「姉さんを知ってるんですか?」

「質問は禁止だ。ただ、一つだけ教えてやる。

姉を探したくば、《アルカナ・ドラグーン》

のゲームをする事だ。その奥に隠された秘密

()()かせば、あるいは・・・・・・」

「え?《アルカナ・ドラグーン》それって?」

「知ってるなら話が早い。ではな」

 そう言って、女の人は手を軽く振って、去って行った。

 玄関の扉が開き閉まる音がして、僕は緊張の糸が解けて、

床に-へたり込んだ。

「今の人は一体・・・・・・。何とか協会って言ってたけど。

あれ?思い出せない・・・・・・。というか、あの人の外見

も・・・・・・会ったばっかなのに」

 急に僕は(おそ)ろしくなって、叔母(おば)さんに電話した。

「叔母さん。姉さんの事なんだけど」

「姉さん?何を言ってるの?あんたは一人っ子でしょ?」

 その叔母さんの言葉に、僕は背筋(せすじ)が凍る思いだった。

「じょ、冗談でしょ?サユリ姉さんだよ?

叔母さんとよくケンカしてた」

「さゆり・・・・・・?聞いた事がある気がするけど」

「やめてよ。姉さんが嫌いだからって、そういう嘘は

()かないでよ」

 僕は頭が混乱して、泣き出しそうになった。

「嘘って・・・・・・。カイ、あんた-どうしたのよ?

少し変よ」

「叔母さん、じゃあ、僕って、一人で-このアパートに

住んでるって事になるよね?でも、それって変じゃ

ない?」

 すると、叔母さんは黙り込んだ。

「・・・・・・言われてみると、そうね。あれ、どうして?」

 そして、叔母さんはブツブツと(つぶや)きだした。

 その言葉は-まるで機械音のようで、意味が取れなかった。

 すると、ノイズが走り、電話は切れた。

 僕は怖くなって、姉さんの部屋に逃げ込んだ。

「嫌だ・・・・・・何だよ、これ。おかしいよ」

 と、姉さんの部屋の(すみ)で丸まって、僕は震えた。

 しかし、僕は考えを変えた。

「・・・・・・ッ、逆に考えろ、カイ。姉さんはワケの分からない

事件に巻き込まれたんだ。警察や叔母さんが頼れない

以上、僕が-やるしか無いんだ。ともかく、手がかりを」

 すると、床に姉さんの荷物がまとめられているのに気づいた。

「そうだ、あの女の人は、姉さんの荷物をいじろうとして

居た。何か手がかりが-あるかも」

 そして、僕は姉さんの持ち物を(あさ)ってみた。

 しかし、特に意味のありそうなのは無かった。

 すると、一つのアルバムらしきモノを見つけた。

 それをめくると、僕の写真が-ずらっと並んでいた。

「何これ・・・・・・」

 そして、ページをめくっていくと、後ろに行く程、

僕の露出(ろしゅつ)は高くなっていた。

 自分の水着姿が並ぶのを見て、僕は悲しくなってきた。

「・・・・・・見なかった事にしよう」

 そうして、僕は最後まで見る事なく、アルバムを閉じた。

 さらに、引き出しの奥を見ると、僕の下着が隠されていて、

ソッと戻しておいた。

「駄目だ・・・・・・見てはいけないモノが多すぎる。

姉さんの荷物から手がかりを探すのは-よそう。

となると・・・・・・」

 僕の脳裏には、女の人の言葉が(よみがえ)った。

《アルカナ・ドラグーン》

 その言葉が。

「やるしか無い」

 そう僕は(おも)(いた)り、立ち上がった。

 それから、僕はタンスの奥に閉まってあった緊急時の

封筒(ふうとう)を取りだした。

 その封筒には10万円が入っていた。

「姉さん、使わせてもらうね。今が緊急時だから」

 そして、僕は-そのお金を大事に財布(さいふ)にしまって、

急ぎ大手のゲーム屋に向かい駆けだした。

 

 ・・・・・・・・・・

 神宿(シンジュク)のゲーム屋に僕は来ていた。

 そして、店員さんに(たず)ねた。

「あの、《アルカナ・ドラグーン》のゲームが欲しいん

   ですけど」

「あ、はい。こちらに-なります」

 そう言って、店員はパッケージを渡して来た。

「お客様、対応したVRマシンは-お持ちでしょうか?

《アルカナ・ドラグーン》はVRMMOとしても、

最新作であり、バージョン5.11以降のVRマシンが

無いとプレイする事が出来ません」

「えぇと・・・・・・そのバージョンが新しい程、最新式の

VRマシンって事ですか?」

「はい。お(すす)めですと、このバージョン6.10などは、

動作性も優れており()いかと」

 すると、後ろから声が()けられた。

「おいおい、あんた、適当な事を言ってるんじゃねーぜ」

 振り返れば、マンガの中に出て来るような古いタイプの

学生服をはだけさせて着ている男の人が居た。

 その男の人の言葉に、店員は動揺を隠せないようだった。

「て、適当と申されますと?」

「確かに、6.10は優れた機体だけどよぉ、脳波の読み取りが

ピーキー過ぎて、初心者には操作しづらい。その上、高い。

むしろ、こっちの5.21の方が初心者には使いやすいし、

  値段もお手頃(てごろ)だ」

 との男の人の説明に、店員は言葉を詰まらせた。

 確かに、6.10は6万円で、5.21は2万5千円で、値段が全然

違った。

坊主(ぼうず)、悪い事を言わないから、こっちにしときな」

 そう言って、男はバージョン5.21のVRマシンを僕の腕に

押し込んだ。

「あ、はい。でも、上級者は-こっちを使うんですよね?」

 とバージョン6.10を()す僕の言葉に、男の人は顔をしかめた。

「そうだが、《アルカナ》のアの字すら知らなそうな奴が-

そいつを使いこなせるとは到底(とうてい)-思えないぜ」

「でも。もしかしたら、僕は上級プレイヤーに-ならないと

いけないかもしれないんです。だから、両方、買おうと

思います」

 すると、男の人は急に笑い出した。

「ハハハッ、こりゃ傑作(けっさく)だ。しかも、上級プレイヤーに

《なりたい》、じゃなくて、《ならないといけない》、か。

お前みたいな奴は初めてだ。もしかしたら、来るかもな。

こっちの世界に。天上の世界に」

 そう言って、男の人は猛禽類(もうきんるい)のような笑みを見せた。

坊主(ぼうず)?お前、名は?」

「カイです」

「そうか。俺は向こうでは《グリフォン》と呼ばれてる。

(めぐ)()わせがあれば、また会うことだろう。フフハッ。

じゃあな」

 そう言って、下駄(げた)を鳴らして、男は去って行くのだった。

 そして、僕は二つのVRマシンと、《アルカナ・ドラグーン》の

ゲームを買うのだった。

 結局、9万5千円-近くかかり、いっぱいポイントをもらえた。

 ちなみに、店員さんは嬉しそうにしていた。


 ・・・・・・・・・・

 僕は-はやる心を抑え、慎重にVRマシンを手にかかえながら、

電車を降りた。

 そして、絶対に転ばないように注意しながら、改札を出て、

家に向かった。

 外は完全に日が沈み、薄暗くなっていた。

 僕は習性で『ただいま』と言って、家に入った。

 それから、軽く食事を摂り、僕は説明書に目を通した。

 しかし、やり方は-スグル達とやったのと変わらないよう

だった。

 その次に、僕は《アルカナ・ドラグーン》の説明書に

目を通した。しかし、そこには-ほとんど情報が載って

なかった。

 僕はネットで色々と調べて見るも、複雑すぎて、

良く分からなかった。

 なので、ともかく習うより慣れろ、という事にして、

実際にゲームをプレイする事にした。

 僕は梱包(こんぽう)を外し、初心者用のバージョン5.21の機体を

手に持った。

 そして、電池を入れ、深呼吸をして、頭に装着(そうちゃく)した。

 それから、寝転がってからスイッチを入れ、僕は仮想世界へと

旅立つのだった。


 ・・・・・・・・・・



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