第11話 ゲーム研究会
第11話 ゲーム研究会
それから僕は急ぎ学校の支度をし、パンを片手に
出かけた。
やはり、自分のための食事となると、質素なモノに
なってしまう。家族のために作るとなると、喜んで
もらう姿が見たくて、必要以上に頑張ってしまう。
でも、姉さんが居ない今、どうしても、食事を
真面目に作る元気が無かった。
僕は昨日、仮想世界からログ・アウトしたまま眠って
しまったので、きちんと寝れてないせいか-とても眠かった。
そんな中、朝日が眩しく照りつけ、僕は強制的にではある
が、徐々に覚醒しつつあった。
それでも眠気は波のように周期的に襲ってきて、
僕は-うつらうつらしながら、歩き続けるのだった。
「ピエロット」
と、僕は呟いた。
絶対にクエストをクリアしなければならない。
でも、学校を休むわけにもいかない。
姉さんが悲しむだろうし、それにある考えが僕には
あったからだ。
・・・・・・・・・・
学校に着き、僕はスグルとモトハルの所へと向かった。
そんな僕にモトハルは気づいたようだった。
「よう、カイ」
と、モトハルが挨拶してきた。
「カイ殿。あはようでござる」
と、スグルも大げさに手を振ってきた。
「うん、おはよう、二人とも」
と、僕は挨拶を返した。
僕は仮想世界でピエロットに言われた言葉を
思い出していた。
《松葉杖の少女》その人を僕は探さねば-ならない。
しかし、ピエロットは僕をずっと見てきたと言っている。
なら、その少女は僕の知りうる範囲に居るのでは無いだろうか?
そうでなくては、そもそもゲームとならない。
となると、その人が居るであろう場所は限られてくる。
たとえば、学校とか。
なので、僕は聞いて見る事にした。
「そう言えばさ、この学校に松葉杖の人って居る?」
との僕の言葉に、二人は顔を見合わせた。
突拍子もない僕の質問に、二人は答えてくれた。
「いやぁ、せっしゃは知らないでござる。モトハル殿は
どうでござる?」
「うーん・・・・・・あ、そう言えば」
と言って、モトハルは手を叩いた。
「なんか、上級生の女子が自宅から飛び降りたって話だぜ。
何か恋愛沙汰で色々あったみたいでさ。病院に入って
たみたいだけど、退院してるなら松葉杖をついてるんじゃないのか?」
その話を僕は知らなかった。
もし、本当なら大変な事故だ。
しかし、そのモトハルの言葉に、僕は妙な予感を覚えた。
「その人の名前って分かる?」
と、僕はモトハルに尋ねた。
「え?いやぁ、ちょっとなぁ。あ、でも確かゲーム研究会の
人じゃ無かったか?なんか、今、ゲーム研究会って-ごたつい
てるみたいだぞ」
「ゲーム研究会だね、ありがとう、モトハル」
と、僕はモトハルに礼を言った。
モトハルは学校の色んな情報を知っていて、
こういう時、すごく頼りになる。
「おう、しかし、カイ。なんで急にそんな事を
聞くんだ?」
「えっと・・・・・・ごめん。少し、噂を聞いて。松葉杖の
人が困ってるって」
すると、スグルとモトハルは首をかしげた。
僕としても友達に隠し事はしたくなかったが、
ピエロットや姉さんの事を正直に言う事は出来
なかった。
「まぁ、何でもいいが、あんまし-やばい事には首を突っ込むなよ、カイ」
とのモトハルの忠告に僕は頷いた。
モトハルが心配してくれるのが、嬉しかった。
「そういえばカイ殿。今度の日曜日でも遊ばないで-ござるか?
ルミが自分のVRマシンを買ったんで、これでカイ殿も一緒に
《アルカナ・ドラグーン》で遊べるで-ござるよ」
とのスグルの提案に僕は少し悩んだ。
わずかな時間も姉さんを探すのに割きたかった。
でも、友達をむげには出来ないし、そもそも、
スグル達とプレイする事で何か見えてくるモノも
あるかも知れない。
そう、僕は思い至った。
「・・・・・・うん。じゃあ、そうしようかな。あ、でも、僕も
VRマシンは買ってあるんだ」
「なんと。流石はカイ殿。ならなら、是非」
と、スグルは身を乗り出し言うのだった。
「うん、ありがとう」
と、僕は微笑むのだった。
スグル達と遊ぶのは純粋に楽しく、僕は日曜日が
待ち遠しくなっていた。
とはいえ、ピエロットとのクエストも忘れては
ならない。ゲーム研究会に行かねば。
・・・・・・・・・・
放課後、僕はゲーム研究会へと向かった。
しかし、そこには張り紙が貼ってあり、《活動休止中》
と書かれていた。
これは予想外の展開だった。
「困ったなぁ」
と、僕は呟くのだった。
しばらく、僕は部室の前で考え込んでいた。
このままでは、事情も何も聞くことが出来ない。
とはいえ、そもそも部外者が話を伺うのが可能かは
怪しかったが。
すると、背後から声が掛けられた。
「あの、もしかして、入部希望者の方ですか?」
振り返れば、そこには一人の学生が居た。
もしかして、ゲーム研究会の人なのだろうか。
僕は聞いて見る事にした。
「あ、はい。虹村 カイと言います。今、活動休止中なんですか?」
との僕の問いに、その学生は寂しげな表情を浮かべた。
それを見て、僕も切ない気分となった。
特に放課後-独特の寂れた空気の中では。
「そうなんです」
と、その学生は答えた。
すると、その学生は目をパチクリさせて、僕を見た。
「あれ・・・・・・虹村 カイって、あの?」
「え?そ、そうですけど」
と、僕は答えた。《あの》と言われても良く分からない
けど、僕は確かに虹村 カイだから。
「うわ、本物だ。あ、俺、立飛 光って言います。
中学二年生です」
と、コウは興奮気味に言った。
「あ、じゃあ、僕と同い年なんだ」
僕は少し嬉しくなった。
何となくだけど、コウと友達になれる予感がした
からだ。
「はい。ですが、カイさんの事は尊敬しています。
ゲーセンで、高校生の不良相手に20連勝したとか」
とのコウの言葉に、僕は冷や汗をかいた。
そんな事も-あった気がするけど、あれは思い返して見ると
相当に無謀だった。
スグルとモトハルと一緒にゲーセンに行って、
僕たちは-のんびりと遊んでいた。
その時、スグルは格闘・対戦ゲームをしていた。
しかし、スグルはボロ負けしてしまった。
それだけなら、良かったのだが、その対戦相手が
僕たちの所に来て、『へったくそなプレイだな。もう、
このゲーセンに来るんじゃねぇよ』と、小馬鹿にしな
がら言ってきたのだった。
それを受け、スグルは-しょんぼりとうつむいて
しまった。
僕は友達を馬鹿にされ許せなかった。
確かに、その時のスグルのプレイは、お世辞にも上手
とは言えなかったが、それを馬鹿にするのは、ゲーマー
として許されざる事だった。
それで僕は、その対戦相手にゲームの対決を挑んだの
だった。
結果、僕はその人に連勝してしまった。
「ありえねぇ・・・・・・」
と、その人は呆然と呟き、仲間を呼んできた。
そして、僕はその人達と、ひたすら対戦ゲームを
する事となった。それは断れる雰囲気では無かった。
でも、結果、僕は全勝してしまった。
その人達は、プライドを砕かれ、唖然としている
ように見えた。
しかし、その時、僕はその人達が不良のような格好を
している事に気づき、冷や汗をかいた。
「チクショウッ!なら、リアル・ファイトで勝負して
やろうじゃねぇかッ!」
などと叫び、その不良達は襲いかかってきた。
それに対し、僕は仕方なしに反撃したのだった。
「しかも、その後、襲い来る不良達を次々となぎ倒して
いったって話ですよね」
と、コウは目を輝かせ言うのだった。
「えっと・・・・・・僕が倒したのは最初の三人くらいで、
後は姉さんが乱入してきて・・・・・・」
あれは本当に悲惨だった。
乱闘の中、突然、姉さんが現れたのだった。
姉さんは容赦なく不良達を殴りつけていき、
瞬く間に不良達をボコボコに倒していった。
最後には不良達は泣きながら《覚えてろよーッ》と
言い残して、去って行ったのだった。
なんで姉さんが都合よく居たかは、未だに良く
分からない。
たまたま、買い物の途中だったとの事だが・・・・・・。
ちなみに、姉さんは時々、意図せぬ場所で現れる事が
あった。
その後、僕は姉さんと一緒に家に帰った。
すると、僕の手から血がにじんでいた。
乱闘の際、切ってしまったのだろう。
とはいえ、その傷は大した事は無く、あれだけの
騒ぎとしてはラッキーなレベルだった。
しかし、その傷を見て、さゆり姉さんはパニックを
起こし、僕の手を包帯でグルグル巻きにした。
さながら、僕の手はギプスのようになっていた。
それで、その日は姉さんが料理をする事となった。
姉さんは手の込んだ料理が好きで、時間はかかるが
とてもおいしかった。ちなみに終わった後の皿洗いは
いつも僕の係だ。
「クゥ、あいつら、よくも私の可愛い弟に。
許せないわ・・・・・・」
と、姉さんは料理用の包丁を片手に呟いており、
その姿は少し怖かったけど綺麗だった。
それから、僕は姉さんの手料理を堪能した。
その日に限り、皿洗いは姉さんが済ませてくれて
助かった。
それで、僕はすごく疲れていたので、早めに眠る事に
した。
しかし、その時、姉さんが隣に来た。
「今日は私も一緒に寝るわ。心配ですもの」
と言う姉さんは、妙な気迫に満ちており、僕には
断る事は出来なかった。
ちなみに、小学生まで僕は姉さんと一緒に
寝ていたが、流石に中学生でそれはマズイと
思い、中学に入ってから僕は別々に寝る事に
していたのだ。
その夜は冷えこみ、僕と姉さんは身を寄せ合って寝る
形となった。
「あぁ、カイは湯たんぽみたいで暖かいわぁ」
と、姉さんは-ぬくぬくとしながら言うのだった。
僕も姉さんの温もりを感じていた。
とはいえ、やはり中学に入って姉さんと一緒に寝るのも
どうかと思い、気恥ずかしかった。
しかし、あまりに疲れていたため、すぐに僕は
眠ってしまった。
深夜、僕は喉が渇いて目を覚ました。
しかし、僕は身動きが取れない事に気づいた。
ぐっすりと眠る姉さんが僕を強く抱きしめ、
離してくれないのだった。
僕は段々(だんだん)とトイレにも行きたくなって、何とか
抜け出そうとするも、無理だった。
結局、姉さんがタイミング良く起きてくれたので
助かったが、かなり危機的な状況であったのだ。
以来、姉さんと一緒に寝ることは無いが、
万が一そういう状況となったら、寝る前に
きちんとトイレを済ませようと思っていた。
と、ぼんやり長々と回想する僕にコウは声を
かけてきた。
「あ、あの?」
「え?あ、そ、それで、姉さんが不良達を倒してくれた
んだよ」
と、僕は我に返り、慌てて答えた。
「あ、そうなんですか?それでも凄いですよ。ともかく、
カイさんは俺にとって憧れなんです」
と、目を輝かせて言うのだった。
「あ、ありがとう。でもそっか、本当にゲーム研究会は
活動休止なのかぁ・・・・・・」
と、僕は呟いた。
この状況に僕は困ってしまった。
これではピエロットとのクエストを果たせない
かも知れない。流石に、第三者の僕がコウに事情
を聞くのも気まずいし。
すると、コウは急に顔を曇らせた。
「あの、カイさん。お時間ありますか?少し、相談したい
事が-あるんです」
と言うコウは、どこか思い詰めた表情をしていた。
「うん、いいよ。僕なんかで良ければ」
と、僕は内心、驚きながら答えた。
「本当ですか。なら、部屋に入ってください。鍵は俺が
持ってるんで」
そして、僕はゲーム研究会の部室へと招かれるのだった。
この時、僕は何もかもがトントン拍子で進むのを
感じていた。それはまるでゲームのように、イベントが
予め組み込まれているかのようで。
僕はピエロットの両手で踊らされているかのような
感覚を覚え、ゾッとするのだった。
・・・・・・・・・・
ゲーム研究会の部室の中は散らかっており、多少、
埃っぽかった。
それに、ゲームの機体も放られたかのように、床に落ちていた。
「この部屋、しばらく使ってなかったんだね」
「そうなんです。あ、お茶どうぞ」
そう言って、コウは僕に-お茶を出してくれた。
「ありがとう。それで相談って?」
「はい。実は・・・・・・俺、好きな人が居るんです」
とのコウの言葉に、僕は困ってしまった。
まさか、恋愛経験の無い僕に、恋愛相談なんて。
「そ、そう。恋かぁ・・・・・・」
と、僕は面食らいつつも答えた。
すると、コウは顔を真っ赤にして口を開いた。
「あ、ち、違うんです。間違えました。相談ってのは、
それじゃ無くて・・・・・・その。いや、それも関係してる
んですけど、その・・・・・・」
と言い、コウはブツブツと呟きだした。
ともかく、事情を聞かねば。
「あ、あのさ。ゆっくりで良いから、順番に説明してってよ」
「はい。実は・・・・・・」
そして、コウは僕に事情を話し出した。
ゲーム研究会は小さなクラブで、総員を合わせても
5人という、部として認められるギリギリの大きさで
あった。
こういう小さなクラブは予算なども下りづらく、
場所の確保など、色々と大変なのだそうだ。
しかし、部長の鈴原 成実さんが、頑張って部を
牽引していたのだった。
とはいえ、一人で何もかも出来るわけが無い。
彼女を支えていたのが、副部長の岸田 隆人だった。
二人は共に中学3年で、仲むつまじかったらしい。
そして、それは二人が付き合っているのではないか、
という噂が流れる程だった。
「多分、本当に二人は付き合ってたんだと思います。
ただ、校則で禁止されてますから、おおっぴらに
出来なかっただけで」
と、コウは説明した。
「なる程・・・・・・」
と、僕は相づちを打った。
これだけ聞けば、微笑ましい話だった。
しかし、この時、僕は大体の事情を察していた。
モトハルの話では、ゲーム研究会の上級生の女子が
飛び降りたという事だ。
それは恐らく部長の鈴原 ナミさんの事だと
思われた。
となると、恐らく彼女にショックな出来事が訪れた
ワケで、そして、それは多分、恋愛がらみと思われた。
つまり、鈴原 ナミさんは岸田 タカヒトに
振られたんだろう。それもひどい振られ方で。
となると、ゲーム研究会が活動休止中なのも分かる。
もちろん、全ては憶測でしか無いが。
ともかく、僕は話の続きを聞くことにした。
「俺を含めた部員達は二人の関係を祝福してました。
本当にお似合いでしたから。もっとも、俺は内心、
複雑なモノを感じてましたけど」
「もしかして、コウは鈴原 ナミさんの事が好きだった
の?」
と、僕は尋ねた。
コウがナミさんを語る時の表情から
容易に察しがついた。
「はい・・・・・・。その通りです。憧れの先輩です。
入部当初から俺に優しくしてくれて。
小さな部活を頑張って盛り上げようとしてる姿も
すごく素敵で」
と、顔を赤らめながらコウは言うのだった。
それを見て、僕はコウが鈴原 ナミさんを本当に好き
なんだと分かった。
「そっか・・・・・・。でも、じゃあ活動休止じゃ鈴原 ナミさん
も残念がってるんじゃないの?」
との僕の言葉に、コウは顔をうつむけた。
「あの・・・・・・カイさん。これから話す事は内密にして
頂けないでしょうか?」
そう真剣な面持ちで言うコウに対し、僕は頷くの
だった。
こうして、ピエロットからの最初のクエストは、始まりを
告げるのだった。
・・・・・・・・・・