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愛し、哀し。  作者: 季夜
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弥生 1

もうすぐ春だというのに、あちこちにまだ雪が残っている。

肌寒い風を浴びながら、一人歩くのは淋しくて。

隣に温もりがあった頃が恋しくなる。

曇り空の切れ間から鮮やかな青がのぞいていた。



君を思い出す、3月。










「りーく」

「お、久しぶり」



高校生のころ、よく広夏(ひろか)と待ち合わせをしていた場所で3年ぶりに会った。

今日は高校2年の時の同窓会がある。

駅から少し歩いたところにある居酒屋で開かれる。

隣をあるく広夏を見て、3年やちょっとで人って変わるんだなと思った。



「…なに?」

「別に」



目的地について中に入ると懐かしいメンツが顔をそろえていた。

私たちに気づくなり、みんな言いたい放題。

「綺麗になったね」とか「大人っぽくなったね」とか、よく聞くセリフ。


今いる人を確かめてみて、男子もほとんど揃っていたけど、やっぱりあいつは来てなかった。



「はーい、みんな注目。これから2年2組同窓会を始めます」



かんぱーい、の声を合図にみんな騒ぎ出す。

なんとなく理由は解っているけど、やっぱりちゃんと確かめておきたかった。

手にビールを持ちながら、幹事のところまで歩いていく。



「高野君」

「おー、雨宮。久しぶり」

「久しぶり。…じゃなくて、今日楓は?」

「あいつ仕事忙しくて来れないって」



そんなことだろうと思った。

解っていて聞いたのに、自分でも驚くほど落ち込んだ。

でも、来なくて良かったのかもしれない。

だってどんな顔して会えばいいか解らない。





始まってまだ一時間ほどしか経っていないのに、周りは酔っ払いだらけ。

広夏なんて顔真っ赤。

私はもともとお酒が強いわけじゃないから、隅の方でウーロン茶を飲んでいた。



「りくー、眠い…」



…甘えたさんかよ。


広夏は隣に座るなり、私の肩に頭を預けて眠ってしまった。

…これじゃ身動きができない。

小さくため息をつき、また一口ウーロン茶を飲んだ。

黙っていれば可愛いのに、と広夏の寝顔を見ていると勢いよく入口の戸が開いた。


驚きつつもそちらに目を向けると、肩で息をしながら頬を赤く染めた楓が立っていた。



「相沢楓、ただいま到着!」



Vサインを見せながら、得意げに笑っていた。



「楓だー!」

「お前今日来れなかったんじゃねーのかよ?」

「急いで仕事終わらせて来ちゃった」



すぐに楓の周りは人でいっぱいになった。

みんなに囲まれた中で笑っている楓は昔のままだった。

楽しそうに話している姿を遠目に見ながら、持っていたグラスをテーブルに置いた。

中の氷が カラン、と崩れるのと同時に、楓がこちら側に振り向いた。



「六じゃん!いるなら言えよ」

「あ、ごめん…」



ひとしきり楓に声をかけ終わると、皆それぞれの場所に戻ってまた騒ぎ始めた。

楓はコートを脱ぎながら私のところに来た。

肩に凭れて寝ている広夏をみて「寝顔変わんないねー」と言いながら頬をつついた。

ね?と笑いかけながら私の隣に腰掛ける。

久しぶりの距離に頭が追い付かず、軽いパニックを起こした。

普段では考えられないような速さで鼓動が脈打っていた。



「3年ぶりかー。ど?大学楽しい?」

「まあ、ぼちぼち」

「そっか」



楓がチューハイを飲む横で、私は中身の入っていないグラスをストローでかき混ぜた。

溶けるだけの氷がカラカラと回る。

そこから特に会話もなく、ただ手元のグラスだけを見ていた。


突然、「そうだ」と楓が声をあげた。



「ね、今からちょっと抜けない?」

「は?だってさっき来たばっかじゃん。てかいいの?」

「俺ら2人いなくたって問題ないって」



そう言うと、楓はマフラーを巻いてさっさと出て行ってしまった。

マイペースぶりは健在ですか。

とりあえず広夏を起こさないように畳に寝かせ、楓を追った。



「どこ行くの?」

「ん?ひみつー」



私の質問に答えてはくれず、スタスタと先に行ってしまう。

私は黙って楓の後を追いかけた。

後ろを歩いていて、楓の背中はこんなに広かっただろうかと昔の記憶と重ねてみる。

3年も経てば成長するし、雰囲気だって変わるんだ。


どのくらい歩いたか。

しばらくして楓が立ち止った。

楓の背中しか見ていなかった私は、そのままその背中に激突した。



「ちょ…いきなり止まらないでよ」

「着いたよ」



楓が指さす先には古ぼけた校舎が見えた。

私と楓が初めて出会った高校だ。



「六との腐れ縁もここから始まったんだよね」



ニカッて笑う顔は、あの頃よりも少し大人びて見えた。

長く離れてしまっていた今の私たちを腐れ縁と呼んでいいのか。

そう思ったけど、それでも、昔はいつも一緒にいたんだ。





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