奇妙な電話
これはある夏の蒸し暑い夜の話である。
一昨年、一本の電話があった。
「田中さんの電話でよろしかったでしょうか」
「ええ。田中です」
「ああ、よかった。私、大阪の堺のアクセサリー屋で働いている佐々木というものです。田中さんは大阪に来たこととかってありますかぁ?」
いきなり電話してきて、セールスするつもりなのかと思ったが、まあ適当にあしらうか、と僕は考えた。しかし、この人は何故僕の電話番号と名前を知っているんだろう・・・
「大阪ですか?修学旅行で行ったことありますよ」
「へぇー、そうなんやぁ。どうでした、大阪は」
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世間話のような会話がそのあとも続いた。
そして、思い出したかのように話を切り出した。
「そうやぁ!今度田中さんが住んでる仙台で個展やるんですよぉ。奇遇ですねー」
・・・ちょっと待て。何故僕が仙台に住んでると知っている・・・?でもそれは聞いてはいけないような気がした。なにか禁断を破ってしまうような嫌な感じがしたからだ。
その後もしばらく世間話が続き、ありがとうございましたと言われて電話は終わった。
釈然としない電話だった。僕の個人情報がどこかから漏れたのだろうか。しかし、セールス目的じゃないのにそこまでするだろうか・・・
一応メモした店の名前で検索したらその店が出てきた。オーダーメイド500円からのアクセサリーショップだった。
そして去年。
お気に入りの着信音で電話が鳴った。
ー非通知ー
恐る恐る電話を取る。
「こんばんはー。初めまして、田中さんのお電話ですかぁ?」
件の人だ。声と大阪弁でわかった。
あれ?・・・は じ め ま し て??
おかしい。前の年に話したじゃないか
違和感を覚えながら話を聞いてみることにした。
話の内容は前の年と同じ。海遊館がどうとか、道頓堀のカニがどうとか。
そして、例の個展の話。
あまりにもおかしかったので思いきって聞いてみた。
「初めましてじゃないですよね?去年も電話くれましたよね?」
「やだなぁ、田中さん。去年電話してるはずないですよー。だってうちの店できたの1ヶ月前ですよ?」
少し寒気がした。確かに同じ人なのだ。記憶違いではない。
やはりおかしい・・・
とにかくこの電話は早く終わらせた方がいい。
理由を付けて話を切り上げることにした。
「ちょっと、用事あるんで電話もういいですか?」
「ああ~ごめんなさい忙しいのに。ありがとうございましたぁ」
同じ電話が二年連続で来る。一度話したことを覚えていない風ではなく、本当に初めての感じだった。
名前と電話番号、住んでいる地名を知っている。
最初と二回目で店の名前が違う。どちらも実在した店舗。
最初の店は二回目の電話のあと調べたら存在しなかった。
不思議だ・・・
今年も電話がかかってくるのだろうか。
携帯電話が鳴った・・・・
ー非通知ー
。