お姫様
勇者様たちが旅立つのを、私は一番高い塔の窓から眺めていた。
お父様――この国の王は、広場で膝をつき、まるで我が子を失うかのような嘆き悲しむ姿を演じている。その肩の震わせ方、涙を拭うタイミング。私はそれを、刺繍の手を止めて、ただ冷めた心地で数えていた。
「……三、二、一。はい、ここで抱擁」
案の定、お父様は一番若い勇者の肩を抱き寄せ、耳元で何かを囁いた。
勇者の頬が紅潮し、決意に満ちた顔で頷く。ああ、あの方は今、この世で一番美しい「毒」を飲み下したのだわ。お父様の「期待しているよ」という、呪いよりも重い言葉という名の毒を。
「姫様、あのように慈悲深いお父様をお持ちで、お幸せでございますね」
後ろで着替えの準備をしていた侍女が、うっとりとため息をつく。
私は鏡の中の自分を見つめた。
私の瞳は、お父様にそっくりだ。色ではなく、その奥にある「温度」が。
「幸せ? ええ、そうね。お父様は、あの方たちが死んで戻らなくても、立派な『勇者の廟』を建ててくださるわ。そしてその前で、また今日と同じ涙を流して、国民の支持を集めるの。……死者は文句を言わないもの。お父様にとって、死んだ英雄ほど扱いやすい道具はないわ」
私は、窓辺に飾られた硝子細工の鳥を指先ではじいた。
勇者様たちは、お父様が用意した「正義」という名の鳥籠に閉じ込められ、空へ放たれた。彼らが魔王を倒そうが、逆に倒されようが、どちらでもいい。お父様が望んでいるのは、その「過程」を政治の材料にすることだけ。
もし、あの方が奇跡的に生きて戻ってきたら?
その時は、私が微笑んで迎えなければならない。そして、お父様が裏で用意している「毒入りの褒美」を、私が手渡すことになるのかもしれない。
「……可哀想に」
私は、小さくなっていく一行の背中に向かって、誰にも聞こえない声で呟いた。
お父様が守ろうとしているこの平和は、誰かの純真を磨り潰して作った、薄汚い砂の城だ。そして私は、その城を継ぐために、心を殺して「お人好しなお姫様」を演じ続けなければならない。
広場では、まだ民衆が王を称えて叫んでいる。
私はそっとカーテンを閉めた。
暗くなった部屋の中で、私の唇だけが、お父様と同じ、歪んだ弧を描いていた




