村人
勇者様たちの一行が城門を抜けていった後、街道にはひどい砂埃と、食い散らかされた屋台のゴミだけが残された。
「……行ったねえ、あの子たち」
隣の八百屋のおかみさんが、煤けた前掛けで額の汗を拭いながら、遠ざかる馬の背中を眺めて呟いた。その声には、英雄を見送る敬意なんて欠片もない。ただ、季節外れの嵐が過ぎ去るのを待つような、ひどく乾いた響きだった。
「ああ。いい若いのが四人も。死にに行くようなもんだよ」
私は、店先に並べた萎びた大根を並べ直しながら、鼻を鳴らした。
さっきまで、王様はバルコニーで泣いていた。あんなに高いところから、あんなに綺麗な服を着て。民衆はみんな「情の深いお方だ」って涙ぐんでいたけれど、私に言わせれば、あれは「高い買い物をした客の顔」だ。
自分が手を汚さずに、厄介な魔王を片付けてもらう。そのための代金として、あの若い子たちの命を差し出した。王様が流した涙は、いわばその「領収書」みたいなもんだろう。
「でもさ、王様が『生きて戻れ』って仰ったんだろ? 優しいじゃないか」
向かいの若造が、まだ熱狂の残骸に浮かれた顔で言った。私は、その無知な横顔を、憐れみすらなく見つめた。
「あんたね、大人が『生きて戻れ』なんてわざわざ言う時は、心の中じゃ『死んでくれて構わない』って思ってる時だよ。本当に死なせたくないなら、そもそも行かせやしないんだから」
勇者様たちが魔王を倒せば、明日のパンが安くなるわけじゃない。むしろ、戦勝祝いの増税が始まるだけだ。
もし負ければ、また別の「生贄」が選ばれる。次はうちの息子かもしれないし、あの若造かもしれない。
「……ま、せいぜい派手にやっておくれよ。私たちは、あんたたちが魔王を倒したって号外が出るか、全滅したって葬式が出るか、どっちのニュースで酒を飲むか決めるだけなんだから」
私は、勇者様たちが通った後の地面に、ペッと唾を吐いた。
そこには、王様が振りまいた「正義」の残り香と、若者たちが信じた「希望」の燃えカスが、無様に転がっているだけだった。




