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勇者

 城門をくぐり、石畳を叩く馬の蹄の音を聞きながら、僕は何度も胸元の開襟を確かめた。そこには、ついさっき陛下が僕の肩を抱き、震える声で囁いてくれた言葉が、まだ熱を持って残っている。


「君たちだけが頼りだ。どうか、生きて戻ってきてくれ」


 陛下の瞳に浮かんだ涙。あんなに気高く、一国の運命を背負う方が、僕たちのような名もない若者のために、人目を憚らず泣いてくださった。その一滴の重みが、いま僕の背負う鉄の剣を、羽毛よりも軽く感じさせている。


「……なあ、聞いたか? 陛下、僕たちのために、今夜から国を挙げて祈祷を捧げてくれるって」

 隣を歩く仲間の戦士が、照れくさそうに鼻を鳴らす。


「ああ。あんなに温かい手、初めてだった。まるで本当の親父みたいだったな」

 僕たちは、自分たちが「選ばれた」のだと信じて疑わなかった。


 この国を守るため、あの慈悲深い王の涙を乾かすためなら、この命なんて安いものだ。魔王がどれほど恐ろしくても、あの方が僕たちを信じてくれている限り、負けるはずがない。


 沿道から降り注ぐ民衆の歓声。花吹雪。

 僕たちの目には、未来を照らす希望の光しか見えていなかった。


「行こう。陛下が待っている、あの平和な城へ帰るために」

 僕は馬を速めた。


 背後にそびえる王城は、夕日に照らされて黄金色に輝いていた。

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