目覚め
ああ、眠い。それに身体も痛い。昨日は何か怪我をしたのだろうか。
しかも、この布団は他人の匂いがする。目を開けば、
「どこだ、ここは?」
寝室でもない、実家でもない、今まで泊まったホテルとも違う、古民家のような趣のある天井と壁。
そして、隣に人影はおらず、何らかの過ちの結果こうなっているわけではなさそうである。
ガチャと物音がする。部屋の隅にある扉が開く。誰かが来たようだ。
見知らぬ場所で、見知らぬ人が入ってくるというのは怖いものだ。加えて身体が痛いのだ。先ず、私に傷を負わせた人物が入ってきたと思うのが普通だろう。
「At, okiteil. Yok at ta.」
扉から入ってきたのは想像していたような野盗や粗暴な男ではなく、見目麗しい茶髪の少女。とは言っても、私は、ストライクゾーンが広いと言われる。私の主観での麗しさは世間一般的な麗しさと合致するとは限らない。しかし、私は以前から周囲の美醜の評価は当てにならないと思っている。私が美しいと思ったらそれは美しいのだ。
「お嬢さん、お美しいですね。」
間違えた。
「おはようございます。」
「Opayau. Kotoba sukaushy okashy. Sotaunaw monaw?」
日本語ではない言語で話しかけられた。どういう状況なのだろうか。……どういう状況なのだろうか。知らない場所で、知らない人に、知らない言語で話しかけられている。何もわからない。その上、どうやったら今の状況を正確に知ることができるのだろうか。
「Excuse me, do you speak English?(すみません、英語わかりますか)」
ひとまず、国際語たる英語で話しかけてみよう。これで通じなかったら終わりだ。私はフランス語もポルトガル語も中国語もできない。
「Nany Yit teil? Okashy kotoba. Sotonaw kotoba?」
コトバ? 言葉と言ったのか? もしかして、言葉の話をしているのだろうか。たまたま聞き覚えのある発音と同じだったのだろうか。
「コトバ? もしかして言ってることが通じたりしますか?」
私はゆっくりと話しつつ、口元を指差し、指を相手と自分の間で行ったり来たりさせて身振り手振りで意思疎通を試みる。
「Kotoba! Yit tel Tujil! Moshkashtay, nitail kotobawau panasy tail?」
少し通じたようだ。後半の方はよくわからなかったが、「言葉」と「言ってる」が通じているような気がする。ゆっくりと話してもらえればわかるかもしれない。
「あー、もう少しゆっくりと話してもらえますか?」
再びゆっくりと、先程よりもゆっくりと話しつつ、手を羽毛が下に落ちるときのように柔らかく下ろす。
「YUKKULY... At! Yukkuly! Kon-na kan-jy? Mo-shy-ka-shy-tay, pa-na-sy, wa-kal?」
「あー、『こんな感じ』って、『もしかして、話わかる』って言っていますか?」
「Sau! Panasy, wakal mit tay! Sotonaw monauka to omow ta kedaw, panasy wakaly saw.」
「早い早い。もっとゆっくり話して。」
ゆっくりと復唱してもらうと、外国語かと思ったが話が通じて安心しているようだ。拾った人間が話の通じない外国人だったら困るだろう。目覚めたら突然話の通じない外国に放り込まれるよりはマシだろうけれど。
一時は不安に思ったが、想像よりは状況は悪くない。なんとかなるかもしれない。




