第7話 魔の森の非情な現実 盗賊への冷徹な検証と『後始末』
50メートルほど先に人影が立っている。
剣のようなものを持って周囲を警戒しているようだ。
ここから見えるのは1人だ。
見えない位置に何人かいそうだな。
俺は左周りに移動しながら距離を詰めていく。
見つからないように背後に回り込んでいく。
30メートルほどの距離まで近づいた。
近づいてみると、人影は人間の男であることが分かった。
人間だ! 生きている人間がいた!
俺は内心で歓喜した。
とにかくこの世界にも人間がいて良かった。
更に接近していく。
もう少し、あと5メートル。
20メートルほどの距離まで近づいたところで状況が分かった。
あの男が持っている武器は片手剣のようだ。
警戒を続ける男の背後には、10メートルほどの広場のような空間があった。
そこに男が2人、しゃがみこんでいる。
1人の男が、地面に横たわる女性にのしかかっている。
――強姦か。
さっきの声は女の悲鳴だったようだ。
男たちは全部で3人いる。
片手剣を持った男が1人で周囲を警戒し、あとの2人が行為に及んでいるのか。
男たちは何も喋らない。
女の声も聞こえてこない。
男の荒い息遣いだけが聞こえてくる。
そこの女を助けようなどとは思わない。
所詮は見知らぬ人間だ。
下手をすれば俺が殺されるからな。
俺はこの世界に飛ばされてきた、元々いなかった人間だ。
本当ならこの場に俺はいなかったんだ。
ここで女が殺されるとしたら、そういう運命だったんだろう。
まだ片手剣の男が警戒を解いていない。
繫みでじっと機会を待ち続ける。
しばらくすると動きがあった。
しゃがんでいた2人の男が立ち上がった。
片手剣の男が2人に近寄っていく。
3人で女を眺めて何か話しているようだ。
――3人とも背を向けている。チャンスだ!
直後、男たちが眺める視線の先から火の手があがった。
油をかけられたように勢いよく炎上している。
クソどもが。
犯して焼き殺したか。
こいつらは殺して良い奴だ。
遠慮はいらねぇな。
俺は自分の中で殺意を固めた。
アイテムボックスシールドを前方展開しながら立ち上がる。
既に氷弾は右肩の手前に生成してある。
まず武器を持ってるあいつからだ。
片手剣の男の頭に狙いを定めて無言で発射する。
ドスッという鈍い音とともに男が倒れた。
頭部を撃ち抜いたようだ。
「うお!?」
「ぎゃああ!」
片手剣の男が動かなくなる。
左隣にいた奴が悲鳴を上げながらしゃがみ込んだ。
弾けた氷の破片を至近距離で喰らったようだ。
もう1人の帽子をかぶった男は立ち尽くしている。
突然の出来事に状況を飲み込めない様子だ。
俺はすかさず次弾を発射して、立っている男を無力化する。
「アイスバレット!」
「いぎいい!」
帽子の男は右肩を砕かれた勢いで後ろに倒れる。
右腕が体から離れて飛んでいった。
俺は次弾を浮かせながら歩き出す。
男たちの立っていた所まで近づいていく。
燃えているものが何かハッキリした。
後ろ手に縛られた女性が激しく燃え上がっていたのだ。
女は炎の中でピクリとも動かない。
燃やされる前に、既に事切れていたようだ。
男たちを見る。
右腕を失った帽子の男は、倒れたまま左手で傷口を抑えて震えている。
顔に破片を喰らった奴が立ち上がってきた。
片手剣を抜いて叫ぶ。
「何しやがる! このやろう!」
「アイスバレット!」
すかさず立ち上がった男の腹にアイスバレットを打ち込む。
鳩尾の辺りを氷弾が貫通して後ろに飛んで行った。
「ぼええええ」
腹に穴が開いて血を吐く。
膝から崩れ落ちて地面に伏した。
こいつはもうすぐに死ぬな。
使い道はなさそうだ。
息の根を止めておこう。
近づいて、アイテムボックスを使って首から上を空間ごと削り取る。
首のない死体の出来上がりだ。
切断面から血が流れる。
頭が無くなっても心臓はまだ動くらしい。
「おい、お前。俺の言葉が分かるか?」
帽子の男に話しかける。
奴が肩を抑えて震えながら叫ぶ。
「助けてくれ! 殺さないでくれ!」
「おい、答えろ。俺の言葉が分かるのか?」
「ああ? ああ、分かる! 分かるから!」
「おお! 言葉が通じるのか!」
何故か言葉が通じるようだ。
こいつの言っている言葉が俺も分かる。
色々聞きださなくては。
氷弾を浮かせながら話しかける。
「おい、お前。俺の聞くことに正直に話せ。話さないと、分かるな?」
「わ、分かった……は、話す、なんでも話す」
「よし。まずお前たちは何やっていたんだ?」
「こいつを……この女を攫って来て、やってただけだ」
「何で女を殺す? この女が何かしたのか?」
「いや……そういう訳じゃねえよ」
殺す理由があるのか?
意味が分からないな。まぁいい。
「次だ。ここはどこだ?」
「どこって……魔の森だよ」
ここは魔の森という場所らしい。
魔物が多い森ってことだろうか。
「近くに村か町はあるか?」
「そこを出たとこの……川沿いを下流に進めばグリムだろ」
「グリムってのは街か? お前の仲間は他にもいるのか?」
「頼む、助け……」
「おい。質問に答えろ」
「……あー」
目の焦点が合っていない。
意識が朦朧としてきているようだ。
腕を失って大量出血してる。
この男も、もう駄目だな。
ちょうど良い。
まだ生きてる肉体だ。
こいつで実験してみるか。
「ヒール!」
帽子の男にヒールをかけてみた。
右肩の傷口が、みるみるうちに治っていく。
「おお、すごいな!
大怪我なのに一瞬で完治したぞ」
傷口が塞がって皮膚になった。
だが無くした右手がニョキニョキ生えてきたりはしないようだ。
もう血は止まっているが、男の意識は朦朧としている。
失った血液量までは元に戻らないってことか。
落ちている片手剣を拾う。
剣を振りかぶって、帽子の男の左腕に狙いをつける。
ガッという手応え。
簡単には切断できない。
骨で剣が止まってしまった。
切れ味が悪いな。
帽子の男に反応はない。
もう痛みも感じていないようだ。
今度は手首の関節を狙って、思い切り振り下ろす。
関節部分で上手く切断できた。
離れた左手を拾う。
切断面同士を合わせる。
「ヒール!」
切断面がくっついた。
こいつの意識がないから動くかは試せんな。
無いものは生えないが、切断面はくっつけられるのか。
もういいか。
あまり長居したくない。
もしかしたら、こいつらの仲間が他にもいるかもしれないしな。
帽子男の顔にアイテムボックスを重ねて収納発動する。
男の体が、だらりと力を無くした。
手早く男たちの持ち物を集めてアイテムボックスに放り込む。
武器も回収して次々と放り込む。
片手剣3つに短剣1つ、剣帯もだ。
現地の服が必要だ。
最初の男の服はあまり血がついてなさそうだ。
身ぐるみ剥いで収納する。
他の2人もブーツだけ脱がして収納する。
こいつらの死体が残ると厄介なことになるかも知れない。
アイテムボックスを操作して、男の頭からつま先まで収納していく。
地面の土ごと削り取る。
よし、人間も入るな。
残る2人も収納して痕跡を消した。
女はもう真っ黒こげになっている。
俺は女には何もしていない。
ただこの場から強姦殺人の犯罪者どもが消えただけだ。
初めて生きている人間を殺したな。
心臓の鼓動が煩い。
俺は足早にこの場を立ち去ることにした。
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※【重要】本作の「R18版(完全版)」について
本作は「ノクターンノベルズ(なろうの大人版)」にて、過激な描写を解禁した
【R18完全版】
を連載中です。
ここではカットされた「リューイチとエルフたちの濃厚な夜」や「より容赦のない展開」は、そちらでお楽しみください。
★探し方★
ノクターンノベルズのサイト内で、
『おっさん異世界物語 ~物理魔法と「鉄の理」。愛欲と硝煙に塗れた男が、やがて神を殺すに至る覇道戦記~』
と検索すると出てきます。
(※作者名:「眠れる森のおっさん」でも検索可能です)
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