第3話 メタボ解消&視力回復!? 異世界の恩恵と『温泉イメージ』で覚える回復魔法
さて、これからどうするか。
自分の体を眺める。
半袖のポロシャツの下に白いTシャツ。
グレーの長ズボンにベルト。
靴はプーマのスニーカーだ。
俺の会社はビジネスカジュアルOKなので助かった。
こんな所にスーツ姿で放り出されたら、たまったもんじゃない。
メタボリックな腹だ。
身長172センチに体重80キロ。
腹以外にもふんだんに脂肪がついている。
学生時代はサッカーをやっていたんだった。
社会人になってからはウエイトトレーニングも続けていた。
30代になって、肩と膝を痛めてから運動を辞めてしまった。
それからだ、太り始めたのは。
持ち物は何もない。
当然、食料も飲み水もない。
――あ、メガネがない!? どこだメガネは!
どこだどこだ、メガネがないと。
……あれ、見える、遠くまで見えてるぞ?
そういえば膝も痛くない。
昔ジョギングで膝を痛めて以来、寝ても覚めても痛かったのに。
あぁ、やっぱりここは異世界なんだな。
有り得ない話だ。
視力も良くなって膝も治るなんて。
まぁ治ったのは喜ばしい事か。
特に、こんな状況じゃな。
それはそうと空腹は何とかなるとしても、飲み物がないと人間はすぐに死んでしまうはずだ。
何も飲めなかったとして、どうだろうか。
1日、2日は何とかなるかも知れない。
3日目にはまともな思考力は残ってなさそうだ。
最後に飲んだのは会社を出る前だから、3~4時間前くらいか?
とすると俺の命のタイムリミットはあと44時間ってことか。
サバイバルなんて漫画で読んだ位だ。
俺にはこんな所で生きていける能力はない。
飲み水はどうすれば良いんだ?
そこら辺に溜まった雨水は飲んではいけないと聞いた事はある。
草花や木の実だって、何が食べられるか全く分からない。
変な物を食べて腹を下すだけでも死に直結するだろう。
何も薬がないんだ。
とにかく現状を知る必要がある。
まずは現在地だ。
どこなんだ、ここは。
耳を澄ますが、やはり何も聞こえない。
風に葉が揺られる音だけだ。
空気がムワっとするな。
鳥の鳴き声もしない。
この森は動物が少ないのだろうか。
どちらを見ても同じ景色だ。
果たして、どっちに進むのが正解なのか……。
よし、木に登って高い所から見るか。
選択を間違った時点でゲームオーバーだ。
あてずっぽうに進んでも生き残れない。
立ち上がって後ろの大木を見上げる。
枝はずっと上のほうにあるな。
そこまで掴む所がない。
ボックスで木を削れば掴む所を作れるか?
ボックスで近くにある蔦を切断する。
引っ張ってみるが、かなりの強度だ。
これならロープ代わりになりそうだな、収納しておこう。
長方形にしたボックスを大木に少し埋め込んで収納発動と念じる。
よし、木を削れた。
はしごを作るイメージで削っていく。
これなら大丈夫そうだ、登れる。
10メートルほど登った所で枝に掴まることが出来た。
ここまで来れば後は楽だろう。
枝に掴まって上に上にと登っていく。
段々と枝が細くなってきた。
地面はもう見えないが、5階くらいの高さだろうか。
高い所は苦手なので、無心になったつもりで登る。登る。
段々と空が見えてきた。
あと、もう少しだ。
登るにつれて、木の枝が細くなってきた。
これ以上は危険だろうという所で、ようやく視界が開けた。
――おお、これは。
360度、見渡す限り森。森だ。
ここは平地だったのか。
山の中ではないらしい。
空を見ると、雲の隙間から太陽が覗いている。
あの太陽、青白いか?
うん、青白い……な。
地球の太陽よりも熱い恒星なのかも知れないな。
見える大きさは地球の太陽と同じ位だ。
ちょうど頭の真上あたりにある。
今は昼時なのかも知れない。
この世界の1日は何時間なんだろうか。
ずっと遠くの方に山々が霞んでいるのが見える。
標高は高そうだが、富士山ほどではなさそうだ。
山の方角に行くのはやめよう。
都市がある可能性は低そうだ。
集落か何かがあるとすれば山とは反対方向か。
ここからは森の切れ目は見えないが、少なくとも平地が続いていそうだ。
よし、あっちだな。
大体分かったので降りることにする。
高い所は怖いので、慎重に降りる。
進行方向を見失わないように、ボックスで枝や葉を削って目印を作る。
ふう、何とか無事に降りることができた。
疲れたな。
行く前に少し休むか。
登った大木に背を預けて座り込む。
念のためボックスをマンホール型のシールドにして目の前に出しておこう。
頭が疲れているのが分かる。
極度に疲労すると頭に霞みがかかったように重くなる。
思考力が鈍るんだ。
まずいな、相当疲れている。
ムワっとした空気に少し息がつまる感じがする。
汗だくだ。
服がベトついている。
目を閉じて頭を休ませながら考える。
そういえば仕事帰りだったんだなぁ。
一日頑張って疲れて。
あぁ、家に帰って風呂に入りたいなぁ。
風呂に湯をはって、バブ入れて温泉気分だ。
じんわりと温かい湯に浸かりたい。
こんな風に座って足を伸ばして……。
あーあったかいなぁ、いい湯だ。
ちょっと肌寒かったから、体の芯から温まる。
疲れが癒えていくようだ。
――なんだこれは!?
目を開けると体の周りがほんのり光っている。
薄い光の膜が体全体を覆っているように見える。
マジか! 回復魔法が使えるのか!?
もしかしてこれがヒールってやつか。
疲れが飛んでいく気がする。
さっきの木登りでプルプルいってた腕の筋肉が復活している。
頭もシャッキリした。
すげえなヒール。伊達にヒールじゃないな。
やった、生存率が爆上がりだぞ。
いきなり魔法を発動できた事でハイテンションになっている。




