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第22話 生きる希望は『娘との再会』 孤独な未亡人奴隷との主従契約

 売買を済ませた俺は、ニーアを連れて泊っている部屋に戻ることにした。

 宿に入ると女将のおばちゃんに声を掛けられた。


「あら、お客様。お連れ様ですか?」

「先ほど奴隷を買ってきたもんでな」

「まあ、そうでしたか」

「今日から一緒に泊まらせたいんだが良いかな?」

「ええ? ウチの宿に奴隷をですか?」

「ん? なんだ、駄目なのか?」

「いえ、普通は野宿させるものですから。

 それか良くても奴隷だけ安宿に泊まらせておくか」

「そういうものか」


 それもそうか、何せモノだ。

 奴隷は人間ではないそうだからな。


「本当に奴隷と一緒の部屋でよろしいのですか?」

「そうだなぁ、どうするか。

 おい、ニーア。お前はどうしたい?」

「私は野宿で問題ありません。ご主人様」


 ニーアの表情には変化ないな。

 本当に野宿で当たり前だと思ってるようだ。

 商人をしていたそうだからな、奴隷の扱いはよく知ってるか。


「なるほどな。

 よし、女将。こいつも同じ部屋に泊まらせる」

「……分かりました、お客様がそう仰るのでしたら」

「そうすると料金はどうなるかな?」

「何人泊っても部屋代は変わりありません。

 夕食はいかがなさいます?」

「1人分追加して貰えるか」

「水桶は追加なさいますか?」

「いや、水桶はいらないな」

「それでしたら、追加料金は1泊あたり銅貨2枚になりますね」

「銅貨2枚か。じゃあ残り5泊分だから、銀貨1枚を払えば良いか?」


 財布から銀貨を取り出して女将に渡す。


「ありがとうございます」

「もうすぐ夕飯だと思うが、追加分の用意は間に合うか?」

「大丈夫ですよ。お出しできます」

「では後で食いに来るから用意を頼む」


 女将にそう告げて、階段を上がっていく。

 ニーアは後ろをついて来ている。

 一番奥の左手の部屋に来た。ドアノブに手をかける。

 ドアを開いて部屋に入る。

 ニーアを入れてドアの鍵を閉める。


 部屋の中に入ってベルトを外し、装備と一緒にテーブルの上に置く。

 椅子に腰かけて一息つく。

 ニーアはドアのところで立ったまま、黙って俺の仕草を眺めている。


 俺はニーアを眺めながら考える。

 ふう、何だか勢いで奴隷を買ってしまったな。

 やはり美人だ。

 昔の清純派アイドルって感じか?

 いや、ニーアは27歳か。

 清純派アイドルが成長して結婚したって感じか。

 さて、どうするか。


「おい。近くに寄れ」

「はい、ご主人様」


 こっちに来るように呼び寄せる。

 俺の手の届くところにニーアがやってきた。


「俺の目を見ろ」

「はい、ご主人様」


 ニーアが俺の目を見ている。

 だが、その目には生気がない。

 全てに絶望しているって感じだな。

 当たり前か。

 愛する旦那と子ども。

 家族3人で仲良く暮らしてたのが突然、奴隷に転落だもんな。


 俺はニーアの顎をくいと持ち上げ、その顔をじっくりと観察する。

 近くで見ても整った顔立ちだ。

 長いまつ毛が震えている。


「ニーア」

「はい」

「お前は俺の物だ」

「はい、ご主人様」

「お前は俺に忠誠を誓えるか?」

「誓います」

「お前は俺を裏切ることはないか?」

「裏切りません」


 ニーアの返答が軽いな。

 ただ命令に従っているだけだ。

 心がこもっていない。

 これではいざという時に役に立たないかもしれない。

 踏み込んでみるか。


「お前の望みはなんだ。

 何が望みだ?」

「望みなどはありません」

「あるだろう。言ってみろ」

「そんなものは……もう」

「お前の生きる希望は何だ?」

「……」

「命令だ。

 正直に言わないと、許さんぞ」

「……子どもに。

 ……一目でも子どもに、会いたい、です」


 そうか、子どもに会いたいか。


「子どもは何歳だ? 女か?」

「7歳の……女の子です」

「名前は?」

「……ミア、です……」


 ニーアの目から涙が溢れ出る。

 溢れ出た涙が、ツーっと頬を伝う。


「ふっふぐっ……ふぐうぅ……ううぅっ」


 ニーアが肩を震わせて、嗚咽を漏らす。


「そうか。

 どこかの奴隷商に買われたのか?」

「うっうぅっ……分かり、まぜ、ん」

「どこではぐれたんだ?」

「……ジパーンの、街で」

「そうか」


 ニーアを売った奴隷商は、ニーアの子どもは買っていないと言っていた。

 違う奴隷商に買われていったのだろうか。

 街から街へと、どこへ行ったやも行方が知れないということか。


「ニーア。お前は誰の物だ?」

「ご主人さまの、奴隷です」

「そうだ。お前は俺の奴隷だ。

 では、お前には何が残っている?」


 俺はニーアの目を見つめる。


「私には……何も、何も残って、いません」

「そうだ。お前には何も残っていない」

「ううぅっ……」

「ニーア。お前の主人は誰だ?」

「……ご主人様、です」

「お前の主人の名前は何だ?」

「……リューイチ様、だと」

「そうだ。俺はリューイチだ。

 お前の主人は特別だ」

「はい……ご主人様は特別です」

「違う。俺には力がある。特別な力が」

「特別な力……ですか?」

「そうだ。これを見ろ」


 突然、2人の周りに大小さまざまな無数の炎と氷が浮かび上がる。


「こ、これはっ!?」

「分かるか? お前の主人の力が」

「こんな魔法……聞いたことがありません……」


 無数の炎と氷が、二人を中心にゆっくりと回り出す。

 ニーアが驚愕に目を見開いている。


「ま、まさか宮廷魔術師様……?」

「いや、違うな。

 だが俺に特別な力があることは理解したか?」

「……はい、理解しました」

「よし。では今から俺が言うことをよく聞け」

「……はい」

「もしお前が望むのなら、お前の子どもを、ミアを手に入れてやろう」

「ええ!?」

「見ただろう? 俺の力を。

 俺にはそれをやれる力がある」

「それは……でも」

「俺にはやらなくてはならないことがある。

 そのためには、いつかこの街を離れて旅に出るだろう。

 もしかしたら、どこかでお前の子どもを見かけることがあるかも知れん」


 そう言って、アイテムボックスを出して周囲の炎と氷を消す。


「だがな。それはお前が俺に全てを差し出せば、の話だ」

「すべてを……」

「お前の心も体もだ。

 お前の全てを俺に捧げられるか?」

「心まで……」

「そうだ。俺を信じろ。

 そうすれば俺がお前に生きる希望を与えてやろう」

「信じる……生きる希望を……」

「まぁ、俺のやれる範囲ではあるがな。

 どうだ?」


 泣き腫らした瞳でニーアが俺の目を見つめる。

 溢れ出ていた涙は、もう止まっている。

 ゆっくりと俺の前に跪き、頭を垂れた。


「私の全てを。

 ご主人様に捧げます」

「全てを、か?」

「はい。私の心も、ご主人様に捧げます」

「こっちを向け」


 ニーアが膝まづいたまま顔を上げる。


「夫だった者のことは、もう忘れろ。

 二度と俺以外の者に忠誠を誓うことは許さん。いいな」

「はい。夫のことは忘れます。私はご主人様の物です」

「よし。いいだろう。立て」

「はい。ご主人様」


 ニーアがゆっくりと立ち上がる。


「誓いの言葉と口づけをしろ」

「……はい。失礼します」


 ニーアが俺の手にそっと両手を添えた。

 目を閉じて俺の手の甲に口づけをする。


「私は、ご主人様に忠誠を誓います。

 ご主人様を一生お慕いします」


 俺の目を真っすぐと見つめて、ニーアはそう言った。


「ニーア。お前の全てを受け取ろう」

「ご主人様。ありがとうございます」

「よし。そろそろ夕飯だな」

「はい。ご主人様」


 17時の鐘はとっくに過ぎていた。

 勢いでやってみたが、どうやら上手いこと心を掴めたようだ。

 子どもが手に入るかは分からんが、見つかったらその時に考えれば良いだろう。

 俺はニーアを連れて、1階へ降りていくのだった。

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