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第1話 愛娘の誕生日に異世界転移!? メタボなおっさんと規格外の『黒い箱』

 プロローグ


 ――2018年8月16日


「お先に失礼しますね」

「岡部さん、お疲れ様です」

「おつかれ様っす~」


 ふう、誰にも捕まらず会社を出ることができた。

 うまく逃げ切れて良かった。

 頑張って何とか18時過ぎに仕事を終えることができた。


 つい数か月前まではプロジェクトが炎上していたんだよな。

 終電で帰ることが多かったし、帰れない日もあった。


 俺も、もう40歳。

 腹は出ているし、運動不足だ。

 終電続きにも体が耐えられなくなってきた。

 去年は災難だった。

 疲れて駅の階段を踏み外し、足首を骨折してしまったからなぁ。


 今年の始めにやった仕事が、グッジョブだった。

 何とか提案を通してプロジェクトの一部業務を自動化できた。

 そのお陰で大分仕事が減って、今では早く帰れるようになったんだ。


 駅を目指して早足に歩く。

 今は8月の夏真っ盛りだ。

 ちょっと歩くとすぐに汗が噴き出てくる。


 駅の改札を抜けてエスカレーターで地下に降りていく。

 ホームに滑り込むと、ちょうど電車がやって来た。

 車両のドアが開いて沢山の人が降りてくると、運の良いことに椅子に座れた。


 一息ついた所で家族の事を考える。


「パパ早く帰ってきてね」

「今日は由紀の誕生日だからな。

 パパお仕事頑張って早く帰ってくるよ」

「ママも早くお迎えに行くからね。

 皆でお祝いしよう!」

「うん!」


 脳裏に朝の風景が思い浮ぶ。

 妻の祥子も仕事を早く終えて、保育園に向かっている頃だ。

 今日は1人娘の由紀が4歳の誕生日。

 由紀は随分前から誕生日ケーキを楽しみにしていた。

 帰り道でケーキを買っていかないとな。


 スマホに入っている写真を眺める。

 4年間でこんなに大きくなって。

 生まれた時は猿のような顔だったのになぁ。

 可愛くなったもんだ。


 俺は元々、子どもにあまり関心がない方だった。

 それが、いざ生まれてみるとこんなに愛おしくなるだなんてな。


 4年前は祥子も痩せていたなぁ。

 出産してからは、大分贅肉がついた。

 お互い様だけどな。

 祥子とは学生時代からの付き合いだ。

 もう20年以上にもなる。

 俺にとって、かけがえのない大切な存在だ。


 さて、最寄り駅に着くまで時間がある。

 少し仮眠しておこう。


 鞄からイヤホンを取り出して装着する。

 眠る時にはクラシック音楽が一番だ。

 最寄り駅に着く35分後にスマホのアラームをセットして、鞄を前に抱えて顔を伏せる。


 由紀の喜ぶ顔を思い浮かべながら、俺の意識はまどろみの中に落ちて行った。


 ================


 ――ハッ!?


 しまった! 寝過ごしたか!


 大分時間が経っている気がして目が覚めた。

 何でスマホのバイブが鳴らないんだ?

 手に握っていたスマホが無い。

 鞄も無いぞ。


 顔を上げる。


「……え?」


 森だ。

 何だここは。

 周囲を見回す。

 薄暗い森の中だ。

 テレビで見るようなジャングルだ。

 誰もいない。

 何処だここは。

 頭が混乱する。


 後ろを振り返ってみる。

 大木だ。

 両手を広げたよりも太い大木がある。

 俺は大木に寄りかかって眠っていたようだ。


 立ち上がって、周囲をグルっと見回す。

 見渡す限り大木ばかりだ。

 まるで樹海のようだ。


 どちらを向いても薄暗い。

 空が見えない。

 幾重にも葉っぱが覆い被さって空を隠しているようだ。

 今は晴れなのか、天気が分からない。


 これは夢か?


 ――いや、違う。


 深い森の匂いが鼻孔をくすぐる。

 肌にムワっとくる湿った空気を感じる。

 顔をしたたる冷や汗。

 自分の心臓の鼓動。

 どれも圧倒的な現実感がある。


 まさか……異世界転移か!?


 目覚めたら深い森にいるなんて、それ以外に考えられない。


 顔から血の気が引いていく。

 目の前が暗くなっていく。

 息がしづらい。

 気持ち悪い、吐き気がする。


 そんな馬鹿な……。

 俺は帰れるのか?

 祥子、由紀……母さん。

 家族に二度と会えないのか?

 一瞬で様々な想いが込み上げてくる

 涙が溢れてくる。


 いや、気をしっかり持たないと駄目だ。

 これが夢でないなら、絶対に日本に帰らなくては。

 どうやったら帰還できるんだ。

 どういう状況なんだ、これは。

 考えなくては。


 いや、それよりも生き抜かなくては。

 死んだら二度と家族に会えない。

 絶対に死ねない。

 こんな所で死ぬ訳には行かない。


 静かに耳を澄まして辺りの様子を伺う。

 何も音はしない。

 葉の擦れる音だけだ。


 深い森だ、何がいるか分からない。

 音を出しては駄目だ。


 ここが異世界なら魔法があるかも知れない。


(ステータスオープン)(プロパティ)(スキル)(ファイアボール)(鑑定)(召喚)…………


 声に出さずに念じてみるが何も起きない。

 小声で唱えてみても駄目だ。


 ラノベのような仕組みは無いのか。

 何かギフトはないのか。


 こんなジャングルの奥地で武器も何も持たずに1人きりなんて。

 100%確実に死ぬ。

 肉食動物に見つかったら、すぐに殺されてしまう。

 頼む、何かあってくれ。

 その後も思いつく言葉を次々と念じていく。


(アイテムボックス)


 突然、目の前に正方形の真っ黒い空間が出現した。


 おお! やった!!


 一辺が30センチほどの正方形の立方体だ。

 俺の胸の前、手の届くところに微動だにせず浮いている。

 とりあえず一つでも魔法が使えて良かった。


 祈るような気持ちで念じたら出た。

 イメージしたのはドラ〇モンの4次元ポケットだ。

 これは本当にアイテムボックスなのか?


 しかし状況は何も変わっていない。

 深い森の中でメタボリックなおっさんが一人ぼっち。

 早く身を守る手段を獲得しなければと、気持ちが焦る。

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