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二人の7300日  作者:


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第1話 離婚届をもらいに行った日

市役所の戸籍課の前で、二人は並んで番号札を握っていた。

 20年前、この手を握ってプロポーズしたのも亮介。いま、その手は同じ距離にあるのに、触れ合わない。


「……本当に、これでいいのかな」

 亮介が言うと、美沙は小さく笑った。


「いいのよ。ここ数年、会話らしい会話もなかったし。お互い、限界だったんだと思う」


 そう言い切る声は強かったが、目元はどこか寂しげだった。


 窓口で離婚届を受け取り、書き方の説明を聞いていると、担当の男性職員がパンフレットを差し出してきた。


「ところで、お二人。最近“離婚式”というイベントをご存じですか?

 20年という節目を過ごされたご夫婦には、よくご利用いただいてまして」


「……離婚式?」

「はい。結婚式の逆でして。これまでの日々を感謝とともに締めくくる儀式です。

 仲が悪くなったご夫婦だけでなく“卒業”という形で別れる方にも人気でして……」


 美沙は半ば呆れたようにパンフレットを開いた。

 リングを外す儀式、感謝のスピーチ、思い出ムービー。

 まるで結婚式のスライドを逆再生したようなプログラムだった。


「……こんなのあるのね」

「やってみます?」

「やらないわよ!」と美沙が即答し、亮介は苦笑した。


 だが帰り道、二人は妙にそのパンフレットの話題を引きずっていた。


「ああいうの、最後くらいちゃんと向き合いたい人が行くんだろうな」

亮介の何気ないつぶやきに、美沙は歩みを止めた。


「……向き合うって、いまさら?」

「いまさらだけどさ。俺たち、20年も一緒にいたんだし。

 “嫌だから別れる”だけじゃ、なんか、終われない気がして」


 美沙はパンフレットを見つめたまま、ふっと笑った。


「じゃあ……行ってみる?」

「え?」

「最後くらい、ちゃんと終わらせるのも悪くないかなって。

 7300日分の“ありがとう”くらい、言ってもいいかもしれないし」


 それは、二人が久しぶりに同時に笑った瞬間だった。

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