週末のご褒美
ロンドンのアパートのリビングに、金曜日の夜の静けさが優しく満ちていた。
外は既に真っ暗で、通りを走る車のエンジン音が時折窓を通り抜けてくる。
「ふぅ……やっと終わった!」
ラベンダーがソファーに深く体を沈ませながら明るい声で言った。
ローテーブルには、数時間前まで開かれていた大学の専門書の山が残っている。
「ラベンダーもお疲れ様。私も今週は、新作家具用の布の裁断が大変だったんだから。さあ、ご褒美タイムだよ、ラベンダー!」
リリーは冷蔵庫へ向かい、琥珀色に輝く2本のサイダーを取り出した。
2人にとって、週末を彩る特別なリンゴ酒だ。
テーブルの上に置かれたグラスに注がれると、リンゴの甘く爽やかな香りがリビングに広がった。
「「乾杯!」」
グラスをカチンと合わせる音は、1週間の頑張りを承認する合図のようだった。
「美味しいね。このちょっと強めな炭酸が、たまらない♪」
リリーは一口飲んで満面の笑みを浮かべた。
疲れを洗い流すようなキリッとした冷たさが喉を通り過ぎていく。
2人は仕事や学業の話、週末の予定など他愛のない会話を続けて、1本目のサイダーを飲み終えてラベンダーは2本目を開けた。
「今日はとことんゆっくりしよう。リリー、目元が少し疲れているよ。」
「うん……ありがとう、ラベンダー。確かに今日は、ちょっと効くかも。」
リリーは2杯目のサイダーをゆっくりと口に含んだ。
彼女の真っ白な肌がサイダーのアルコールでじんわりとピンク色に染まっていく。
ラベンダーが大学での出来事を面白おかしく話している最中、リリーの目がゆっくりと瞬きを始めた。
相槌を打つ声が少しずつ小さくなり、言葉の間に空白が目立ち始める。
「……でね、教授がさ、」
ラベンダーが話のクライマックスに差し掛かった時、リリーの頭がカクンと傾いだ。
「リリー?」
ラベンダーが声をかけるとリリーは「うう……ん。」と小さな返事をしたが、もう目を開ける力はないようだ。
彼女の赤毛はもたれるように顔周りに散らばっている。
そのあまりにも幼く無防備な寝顔に、ラベンダーは思わずクスリと笑った。
「もう、しょうがないなぁ。」
ラベンダーは立ち上がってテーブルの上の空のグラスを片付け、リリーを抱きかかえてベッドの上まで運んでブランケットを優しくかけた。
リリーは完全に夢の中だ。
「おやすみ、リリー。頑張ったね。」
窓の外のネオンサインだけが静かに光っている。
やがてラベンダーもブランケットに包まり、そっと目を閉じて夢の中へ旅立った。
イギリスでは『サイダー』はリンゴや梨を発酵させたお酒を指します。




