ヒートショックと、その後の揺りかご (少々汚い描写あり)
12/7 文章を少し修正しました。
時刻は夜9時。ロンドンのアパートは真冬の寒さに包まれていた。
暖房は効いているものの、ユニットバスの空間はリビングと比べて温度が低い。
リリーは仕事で冷えた身体を温める為に、熱めの湯を張った湯船に浸かっていた。
彼女の赤毛は湯気で湿り、湯船の温かさが小さな体の芯まで染み渡る。
「ふぅ……」
たっぷり時間をかけて温まり、リリーは湯船から立ち上がった。
素早く身体を拭き、持ってきたピンクのネグリジェに袖を通す。
幼い顔立ちのおかげで、ネグリジェ姿はどこかあどけない。
ユニットバスを出て、濡れた髪をタオルで拭きながらベッドルームに向かおうとした次の瞬間。
リリーの脳への血流が減少し、視界が砂嵐のように点滅したのだ。
足元がグラグラと揺れ、壁に寄りかからないと立っていられない。
それから数秒後に強烈な吐き気に襲われ、リリーは一刻も早くこの不快感を止めたい一心でユニットバスに戻り、扉を閉めるや否や便器に顔を伏せて嘔吐した。
「ゲェッ……! ゲホッ、オェエエッ!!」
全身から力が抜け、食べた夕食が薄茶色の液体と共に逆流して便器の中に沈んでいく。
リビングで大学の課題を片付けていたラベンダーは、リリーがユニットバスから出た直後の大きな物音と、その後の苦しそうな声を聞き逃さなかった。
「リリー、大丈夫!?」
ラベンダーは意を決して扉を押し開けた。
リリーの顔は赤毛と相反するように青ざめていて、冷や汗が滲んでいる。
「熱すぎるお湯に入ったの? それとも、今日食べたものが悪かった?」
「分からないけど……急に、目が回ったの……」
長風呂と急な寒さでヒートショックを起こしたと判断したラベンダーは厚手のフリースガウンと、マグカップに入れた常温の水を持ちユニットバスに戻った。
「ご、ごめん……ラベンダー……」
「謝らなくていいわ。落ち着いたら、マグカップの水を一口だけ飲んで。脱水しないようにね。」
ラベンダーはリリーにフリースガウンを着せ、彼女の華奢な背中をさすり続けた。
ラベンダーの快活な性格が、今は揺るぎない安心感となってリリーを支えている。
やがて嘔吐が収まり、リリーの呼吸が少しずつ整ってきた。
ラベンダーはリリーの口元を紙ナプキンで拭い、口を濯がせ常温の水を一口飲ませてから彼女を抱きかかえるようにして立ち上がらせた。
「立てる? もう大丈夫よ。温かいベッドに行きましょう。」
ラベンダーの献身的な介抱のおかげで、リリーは温かいベッドルームに戻る事ができた。
潤っていた緑の瞳はすぐに閉じられ、疲労と安堵の中、彼女の意識は眠りの海へと深く落ちていく。
ラベンダーはリビングで課題に戻りながらも時折耳を澄ませて、ルームメイトの小さな寝息を確認していた。




