果物の山と天才的なひらめき
アパートのリビングルームで、ラベンダーは頭を抱えていた。
リビングの隅には巨大なダンボール箱が鎮座していて、中には真っ赤なリンゴとゴツゴツとした洋梨がぎっしり詰まっている。
ラベンダーの祖母から毎年届く、大量の冬の恵みだ。
「はぁ……また今年も届いたわ。」
ラベンダーは金髪の癖っ毛をかき上げ、深い溜め息をついた。
快活でしっかり者の彼女も、この時ばかりは無力感を覚える。
「美味しい果物を送ってくれるのは有難いんだけど……子供の時から毎年食べてるからもう飽きてるのよ。」
「気持ちは分かるわ。私の場合、それはシェパーズパイだったけど。」
テーブルでインテリアメーカーのカタログをチェックしていたリリーが顔を上げ、やれやれと言わんばかりに頬杖をついた。
それはリリーが6歳の頃の事だ。
祖父母の家で、祖母が初めて作ってくれたシェパーズパイをリリーが「世界で一番美味しい!」と無邪気に褒めたのだ。
それ以来、毎年イースターやクリスマスに祖父母の家に集まる度にリリーの為にとシェパーズパイが食卓に必ず並ぶようになり、愛情たっぷりの1皿だが今のリリーにとっては有難迷惑でしかなかった。
「本当はもういらないんだけど、それがおばあちゃんの愛情表現だから申し訳なくて言えないの。」
「どこの家もそうなのね……」
ラベンダーはリンゴを手に取り、冷蔵庫の中を指差し確認した。
中にも、既に半端な量のリンゴと洋梨が並んでいる。このままでは腐らせてしまう。
リリーは洋梨を1つ手に取って匂いを嗅いだ。硬すぎず、程よい甘い香りがする。
「うーん……やっぱり、生のままじゃ飽きるよね。」
リリーは自分の幼い話し方とは裏腹に、インテリアメーカーで働く中で培った発想力で、この難題を解決できないかと頭をひねった。
脳内では様々なアイデアが化学反応を起こし始めている。
「ねえ、ラベンダー。」
「どうしたの? 食べるの?」
「違うよ。これだけ沢山あるんだから、日持ちするように加工しちゃえばいいんじゃない?」
「加工って……ジャム? 作るのが大変じゃない?」
ラベンダーは眉をひそめた。ジャム作りだと手間がかかる。
リリーは興奮気味に提案した。
「ジャムじゃなくて、もっとおしゃれで、しかも私達が作ったって事で、誰かにプレゼントできるようにするの!」
「プレゼント?」
「そう! リンゴはアップルバターに、洋梨はタルト・タタン風のキャラメリゼコンポートにするの!」
リリーの提案に、ラベンダーの瞳が大きく開いた。
「アップルバターは煮詰めてペースト状にするからパンに塗れるし日持ちするよね。それから洋梨は、キャラメリゼして瓶に詰めるの。私達のアパートでパーティーを開いて、それを皆に配るのよ!」
リリーは更に畳み掛けた。
「そしたらラベンダーのおばあちゃんの愛情も無駄にならないし、私達も料理の腕前を披露できるよ! ほら、ラベンダーはお菓子作りが上手でしょ?」
リリーは、快活なラベンダーの性格がこのイベント化された作業に乗り気になってくれると確信していた。
ラベンダーはリリーの提案を頭の中でシミュレーションした。
アップルバターは確かに日持ちするし、キャラメリゼした洋梨は瓶詰めにしてリボンをかければ洒落た手土産になる。
そして何より、リリーの『皆に配る』というアイデアが、ラベンダーのイベント好きの血を騒がせた。
「……なるほど! 毎年うんざりだった果物が、一気におしゃれなオリジナルギフトになるって事ね!」
ラベンダーの顔にいつもの快活な笑顔が戻った。
彼女は立ち上がり、ダンボールの果物を覗き込む。
「じゃあ、早速準備しなきゃね。リリー、あなたはまずリンゴを洗って! 私はレシピを調べるわよ!」
大量の果物はリリーの天才的なアイデアによって、真冬の重荷でしかなかった山から、ワクワクするプロジェクトへと変わったのだった。
ちなみにシェパーズパイとは、羊肉で作ったミートソースにマッシュポテトを被せて焼いた家庭料理です。




