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リリー&ラベンダーのルームシェア日記  作者: 綾小路隼人


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2/9

白猫のクッキー

日曜日の午後は、静かで柔らかな光に満たされていた。

リリーはアパートの一室で小さな体をソファーにうずめて眠り、摩訶不思議な夢を見ている。


夢の中でリリーは、巨大なアイシングクッキーでできたキッチンに立っていた。

目の前では白いコック服を着た巨大な白猫がクッキー生地を練っている。

白猫は鼻歌を歌いながら手際よく星やハートの型を抜いてオーブンで焼き、バターの甘い香りが夢の中に充満していた。


「リリー嬢、焼き加減はいかがですかニャア?」


白猫は焼き上がったばかりのクッキーを熱々のまま差し出し、リリーは星型のクッキーを一つ取って口に入れた。

バターとバニラの風味が舌の上で優しく溶けていく。

その数秒後、現実の強い光がリリーの瞼を貫いた。


「うーん……」


リリーは瞼を開け、天井を見つめて夢と現実の狭間をしばらく彷徨(さまよ)った。


(ああ、夢だった……白猫のパティシエのクッキー、食べたかったなぁ……)


身体を起こすと、窓から差し込む陽光が部屋全体を明るく照らしている。

壁に掛けた時計に目をやると、針は午後3時を指していた。たっぷり昼寝をしてしまったらしい。

掃除が行き届いたキッチンからは、ルームメイトのラベンダーが洗い物を片付ける規則正しい水音が聞こえてくる。

ラベンダーは快活でしっかり者の女子大生で、家事も学業もテキパキとこなす、リリーの保護者のような存在だ。

リリーは夢で白猫のパティシエが焼いてくれたクッキーの味が忘れられず、キッチンに入るなりラベンダーに声をかけた。


「ラベンダー、さっきすごく不思議な夢を見たの!」

「どうしたの、リリー? また変な夢でも見た?」


ラベンダーは振り返り、食器を拭くのをやめてリリーを見た。


「あのね、コック服を着た白猫さんが、私のためにクッキーを焼いてくれる夢を見たの! すごくすごく美味しい、バターがたっぷりのクッキー! 現実でも食べたいよ~!」


ラベンダーはリリーの幼い表情を見て、少し呆れながらもクスッと笑った。

インテリアメーカーで働く立派な社会人なのに、夢の話をする時のリリーは本当に子供のようだ。

だが彼女のそんな子供っぽい所が、ラベンダーは嫌いではなかった。


「それはきっと、クッキーが食べたいって事ね。」


ラベンダーは手を拭き、キッチンカウンターに肘をついた。


「分かったわ。私の得意なショートブレッド風のクッキーでいい? ちょうどお昼で使ったバターが少し余ってるし。」


リリーの顔がパッと輝き、緑の瞳がキラキラと喜びで揺れた。


「え、本当!? ラベンダーのクッキー、美味しいから大好き! お願い、作って!」

「はいはい。じゃあ、手を洗ってキッチンに来て。生地を混ぜるのを手伝ってもらうわよ。」


ラベンダーはキャビネットから小麦粉と砂糖を取り出した。

ラベンダーがキッチンに立つと、途端に部屋の空気が活気づく。

手慣れた様子で材料を計量し、リリーの目を覚まさせたバターの甘い香りが、今度は夢ではなく確かな現実のものとしてアパートを満たしていく。

リリーは洗面台で手を洗ってからエプロンを着け、生地を混ぜるのを手伝った。

約30分後。オーブンの扉が開かれ、黄金色に焼けたクッキーが姿を現した。

星やハートや猫などの色々な形をしている。


「ほら、熱いから気をつけて。」


ラベンダーは紅茶と一緒に、皿に盛りつけたクッキーをリリーの前に差し出した。

リリーは焼きたてのクッキーを一つ手に取り、ハフハフと冷ましながら口に運ぶ。

サクッとした食感と、素朴ながらも優しいバターの風味。

夢の中のクッキーには負けるかもしれないけれど、ラベンダーが作ってくれた、この温かい現実の味がリリーは一番好きだった。


「う~ん! ラベンダーのクッキー、最高!」


リリーは満面の笑みを浮かべ、午後の光の中で幸せそうにクッキーを頬張った。

しっかり者のルームメイトと過ごす穏やかな休日が、リリーの心を豊かに満たしてくれるのだった。

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