白猫のクッキー
日曜日の午後は、静かで柔らかな光に満たされていた。
リリーはアパートの一室で小さな体をソファーに埋めて眠り、摩訶不思議な夢を見ている。
夢の中でリリーは、巨大なアイシングクッキーでできたキッチンに立っていた。
目の前では白いコック服を着た巨大な白猫がクッキー生地を練っている。
白猫は鼻歌を歌いながら手際よく星やハートの型を抜いてオーブンで焼き、バターの甘い香りが夢の中に充満していた。
「リリー嬢、焼き加減はいかがですかニャア?」
白猫は焼き上がったばかりのクッキーを熱々のまま差し出し、リリーは星型のクッキーを一つ取って口に入れた。
バターとバニラの風味が舌の上で優しく溶けていく。
その数秒後、現実の強い光がリリーの瞼を貫いた。
「うーん……」
リリーは瞼を開け、天井を見つめて夢と現実の狭間をしばらく彷徨った。
(ああ、夢だった……白猫のパティシエのクッキー、食べたかったなぁ……)
身体を起こすと、窓から差し込む陽光が部屋全体を明るく照らしている。
壁に掛けた時計に目をやると、針は午後3時を指していた。たっぷり昼寝をしてしまったらしい。
掃除が行き届いたキッチンからは、ルームメイトのラベンダーが洗い物を片付ける規則正しい水音が聞こえてくる。
ラベンダーは快活でしっかり者の女子大生で、家事も学業もテキパキとこなす、リリーの保護者のような存在だ。
リリーは夢で白猫のパティシエが焼いてくれたクッキーの味が忘れられず、キッチンに入るなりラベンダーに声をかけた。
「ラベンダー、さっきすごく不思議な夢を見たの!」
「どうしたの、リリー? また変な夢でも見た?」
ラベンダーは振り返り、食器を拭くのをやめてリリーを見た。
「あのね、コック服を着た白猫さんが、私のためにクッキーを焼いてくれる夢を見たの! すごくすごく美味しい、バターがたっぷりのクッキー! 現実でも食べたいよ~!」
ラベンダーはリリーの幼い表情を見て、少し呆れながらもクスッと笑った。
インテリアメーカーで働く立派な社会人なのに、夢の話をする時のリリーは本当に子供のようだ。
だが彼女のそんな子供っぽい所が、ラベンダーは嫌いではなかった。
「それはきっと、クッキーが食べたいって事ね。」
ラベンダーは手を拭き、キッチンカウンターに肘をついた。
「分かったわ。私の得意なショートブレッド風のクッキーでいい? ちょうどお昼で使ったバターが少し余ってるし。」
リリーの顔がパッと輝き、緑の瞳がキラキラと喜びで揺れた。
「え、本当!? ラベンダーのクッキー、美味しいから大好き! お願い、作って!」
「はいはい。じゃあ、手を洗ってキッチンに来て。生地を混ぜるのを手伝ってもらうわよ。」
ラベンダーはキャビネットから小麦粉と砂糖を取り出した。
ラベンダーがキッチンに立つと、途端に部屋の空気が活気づく。
手慣れた様子で材料を計量し、リリーの目を覚まさせたバターの甘い香りが、今度は夢ではなく確かな現実のものとしてアパートを満たしていく。
リリーは洗面台で手を洗ってからエプロンを着け、生地を混ぜるのを手伝った。
約30分後。オーブンの扉が開かれ、黄金色に焼けたクッキーが姿を現した。
星やハートや猫などの色々な形をしている。
「ほら、熱いから気をつけて。」
ラベンダーは紅茶と一緒に、皿に盛りつけたクッキーをリリーの前に差し出した。
リリーは焼きたてのクッキーを一つ手に取り、ハフハフと冷ましながら口に運ぶ。
サクッとした食感と、素朴ながらも優しいバターの風味。
夢の中のクッキーには負けるかもしれないけれど、ラベンダーが作ってくれた、この温かい現実の味がリリーは一番好きだった。
「う~ん! ラベンダーのクッキー、最高!」
リリーは満面の笑みを浮かべ、午後の光の中で幸せそうにクッキーを頬張った。
しっかり者のルームメイトと過ごす穏やかな休日が、リリーの心を豊かに満たしてくれるのだった。




