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第9話 王家からの来訪

 村の門兵が騒がしかった。何かあったのだろうか?


「貴族の馬車が来たぞ! しかも王家の紋章がついているぞ」


「「王家っ!?」」


「こんな辺境の村に王家の紋章付き馬車が来るだなんて何事だ、村長を早く呼べ! こりゃ大変だぞ」


 村奥の役場から村長が走ってやってきた。馬車に近づくと跪いて口上を述べる。


 村長

「近衛隊騎士様、村長ここに参上いたしました」


 近衛隊

「うむ、貴殿が村長か? 王命を伝える。直ちに冒険者ギルド特秘S級冒険者アレスに魔王討伐・勇者パーティへの随行を命じる。詳細は極秘であるため、質問を禁じる」


 村長

「はっ! 誰か、先生をここに呼べ」


 門兵

「「承知いたしました」」


 村長

「(魔王討伐……歴史上、討伐を成功させた人間はいない……そんな……先生……)」


 ・・・・・・・・・・


「なんだってぇー! 僕が魔王討伐の勇者パーティに参加だと……」

(とうとう、この日がやって来たか……宿命からは逃れられなかったか)


 ミユ……まさか、こんなに早くお別れが来るだなんて……。


「少しだけ待ってくれないか、湖へ超特急で行ってくる。ミユにお別れを言ってくるから、少しの時間だけ許してくれ。体力強化の付与を自分にかければ、あっという間に往復できるから」


 門兵

「先生……待たせる相手は王家ですよ?」


「頼む、一生のお願いだ」


「先生、何回オレに一生のお願いを言うんですかい? 今回だけですよ」


「何回もお願いしたっけ? でも、ありがとう、直ぐに戻ってくる」


「はい。名残惜しさを恋人にたっぷりと伝えて来てください」


「恋人じゃない、娘みたいなもんだよっ」


 ・・・・・・・・・・


【湖の畔】


「ミユ、聞いてくれるか? 数千年前、魔王軍と人間国で戦争が勃発して現在まで、人々の生活は苦しくなり、女性たちは愛する恋人と別れさせられ、攫われ、酷い暴行を受けたりしているんだ。それがここ最近、膨大な被害者数に増えているらしい。そこで僕は、人々が苦しんでいる現状を憂いて、魔王を倒してくると決意したよ。でも、死ぬ為に行くのじゃない、生きるために魔王を倒しに行くのだから、応援して欲しい」


「先生……わたしね、ぐすん、わたし……」

「大丈夫だよ、直ぐに帰ってくるさ。ミユの好きなものを買ってくるよ。お土産。楽しみにしていてくれ」


「えー、お土産は先生自身が好い。すぐに帰って来て一緒に湖を観よう。お祭りも行かなきゃ」


「すぐに帰ってくるさ、お土産は……期待しないでくれな」

「もう……。こういう時は『わかった』一択でしょ」

「分かったよ。来年のお祭りでは手を繋いで歩こうな。屋台も美味しいぞ」


「先生、帰ってきたら伝えたいことがあるの。私の気持ち、ほんと真剣だよ」

「それを楽しみに帰ってくるよ」


 どちらが先に泣いたのかは分からない、気がつけばお互いに涙を流しながら見詰め合っていた。しかし、二人は軽くハグをして別れた。また会えると信じている為、『また来週な』みたいな気軽なものだった。


 ・・・・・・・・・・


 ミユとの短い挨拶を終え、出発の時。


 長旅で暫く会えないというお別れ直前なのか、村の女性たちが告白してきた。八百屋の女性、花屋の娘、パン屋の看板娘、男性を紹介してくれと頼まれた娘さんまでもが告白してきて、流石の彼も苦虫をつぶした感じになっていた。あまりのモテぶりに背後から若い村人たちが茶化してきた。しかし暗い出発よりかは良いと彼も感じていたので寧ろ救われた感じだった。


 女性らからの告白祭りを終え、彼が村内を振り返ると、先ほどまでのテンションが嘘のように、その時だけは村人たちはチャラけなかった。みんな深刻そうな顔をしている。やはり討伐実績ゼロの魔王相手では先読みが辛いからだ。楽天的になりたいのに絶望が迫って来てしまう。


「マリーナさん、長い間、ありがとうございました」


「は、はいっ先生」


 感慨極まって肩を震わせるマリーナが一歩。前に出る。


「先生、ギルドのお仕事、またご一緒してください。お帰りを……ずっと、お待ちしています……ね」


 マリーナはとうとう心の内を告白出来ず、内に恋心を秘めたまま我慢して見送る。目には涙が溢れんばかりになっていた。


 村長

「早めに帰って来てくれんと仕事が溜まって叶わん。頑張れよ、先生」


 冒険者ギルドマスター

「マリーナが寂しがるし、他の女性職員も泣いてるからな、早目に帰って来てくれ」



「ああ、直ぐに帰ってくるさ。帰ったら酒を奢ってくれよ。それじゃ行ってくる。他の皆にも宜しく伝えてくれ。ミユの事も僕の娘だと思ってケアを頼むよ」


 村の門から踵を返して背を向けると用意されていた王家の馬車に乗る。長く住んだ村を横目にしてじっと感慨深く心に焼き付ける。『きっと、また帰ってこれるさ』と彼は呟いた。


 マリーナは馬車が見えなくなるまで村の門の外に居た。堰を切ったように泣き崩れ、我慢に我慢を重ねていた愛情の詰まった気持ちを吐き出す。


「先生……わたし、待っていますから、生きて、生きてこそ……」


 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・


 王都の宮殿の国王陛下謁見の間にて、懐かしい面々に会った。


 旅の劇団の王妃役だった魔法使いの女優リエ、神官系魔法使いのユイの二人だった。村でのスタンビートで戦友となっていたので、すぐに打ち解けた。


 他には、剣聖と付与術師は初対面だった。


 彼は勇者のスキルがあるため聖剣を陛下より賜り、自動的にリーダーとなった。


【移動中の馬車の中で】


 神官系魔法使いユイ

「このコースで行くと村の傍を通りますね。アレス先生」


 アレス

「ああ、僕からすると王都へ行って帰ってきた感じだ。途中で村の奇麗な湖が見えるから景色を楽しむと良いよ。その直ぐ後、大きな街エルソンに宿泊して、魔族とのハーフが多く住む最強と言われるジャッキ村、そして先にある地下の魔王城に辿り着く」


 魔法使いリエ

「あの村、演劇をしたのが懐かしいわ。そういえばアレス先生とユイちゃん、二人とも観に来てくださいましたね。ありがとうございました」


 上品で奇麗なお辞儀をするリエ。


 剣聖

「リエさん、こんな美人が魔法使いだなんて驚いたぜ。ユイちゃんは可愛いし」


 付与術師

「まったくだ。天は二物を与えたな」


 ユイ&リエ

「「……」」


 アレス

「君たち、シモネタ禁止」

(正確にはセクハラだろうけど)


 剣聖&付与術師

「「ええっ! きびしぃ~」」


 ユイ&リエ

「「ププッ」」


 実は即席パーティにしては雰囲気は悪くなかった。虐げられている人々を救いたいという使命感、責任感が強かったからだ。


 過去の勇者パーティらは鍛えたりしながらの旅路になるのが普通だったが、今回だけは魔族の動きが活発化しており、人間界の方に事件が多発した為、急ぎでの討伐となっていた。そもそも魔王討伐は困難さを極めているのに、慎重に四天王や幹部たちを倒して回るのではなく、魔王城への直行という無茶な行軍であった。何か裏がありそうであったが、宰相の調査でも把握しきれず確証はなかった。


 聖女を兼ねる筈の神官系魔法使いのユイは聖女スキルを与えられておらず、聖付与師は不在、その代わりに付与術師が随行している。聖騎士も不在で剣聖が帯同している。


 このことから分かる通り、この勇者パーティは色々と戦力も充分とは言えなかった。ただですら討伐実績がゼロの魔王が相手で、果たして通用するのか? これは王家はじめ騎士団、教会など全ての人々が不安に思っていた。ゆえに宮殿から王都を出るまでの街道パレードはなく、異例尽くしの疑問の生じる出立であった。


 リエ

「じーーーー」


 ユイ

「じぃ~~~~」


 アレス

「な、何かな?」


 リエとユイは口にはしなかったが、アレスから何かを感じ取っており、いわゆる赤の他人には思えない感覚を覚えていた。もちろんアレス自身も感じていた。


 リエ

「わたしね、親が付けてくれた名前は、別の名だったの。どうしてか分からないけど、リエという名前にしたくてリエと変えたのよね」


 ユイ

「私も。生まれは普通の貴族で、普通に名付けられたけど、ユイという名前がずっと頭に浮かんでたの。それで名前を変えたわ……。リエさん、偶然ですね」


 アレス

「リエさんもユイちゃんも、不思議な偶然の一致だね。まぁ僕も君らを随分と前から知ってる気がしているよ。前世では友達だったかもね、ハハハ……」


 リエ

「……そうね」


 ユイ

「私は恋人だった気がするわ」


 何という事でしょう。ユイは、まるで恋する乙女というか、雌の顔になっていた。

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