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第7話 村を襲うスタンビート

 カンカンカン


 けたたましく村の鐘が鳴る。警戒警報だ。


「スタンビートが発生したぞ!」



 湖の畔にていつも通り寛いていた二人。耳に村の騒動が聞こえてきた。


「僕は急ぐよ。ミユは村へは近づかないようにね」


「この警戒体制への音は……なにか凄く思い出しそう……胸騒ぎとはちょっと違う、心がうずきます」


「じゃ」


「あ、先生っ」


 ・・・・・・・・・・


「村長、スタンビートが発生したんだって?」


「ああ、近隣から押し寄せてきている、大群だ。村の柵じゃ、きっと耐えられん」


「知っての通り、スタンビートは最後尾の大物の魔物が追い立てるから発生する。大元を断てば群れが散開する可能性が高い、僕は最後尾の魔物を倒しに行きます」


「小物たちが近寄ってきたら数人の兵士や魔法使いで対応する。ただ、多分すぐに限界が来るだろうから、なるべく早く倒せられるよう頑張ってくれ」


 村人A

「先生、大丈夫なんですかい? 怪我人を治療しているところは良く見かけるけど、戦闘が出来るとは思えないが……」


 マリーナ

「大丈夫です! 先生は、この村の唯一の秘匿S級冒険者であられます、先生、お気をつけて」


「まかせろ」


 先生は一人でスタンビート最後尾にいる大物魔物を倒しに行った。


 小規模な魔物たちが村の入口に迫ってきた。


 門兵やギルドマスターをはじめとする冒険者たちが門の外で待機している。しかし総勢二十名ほどしかいない。対する魔物たちは無尽蔵に増えていっている。すでに目視で百体以上に見えた。門のすぐ内側では村の男性たちが杭や鉈などを持って待機している。弓矢を放てる猟師は五人ほどしかいない。


 魔法使いユイ

「私が最大規模の広範囲攻撃魔法を使います。少しの間は動けなくなりますから、私が倒れたら村の中へ引っ張り込んでください」


 ユイに続いて普段から魔法使いとして冒険者をしている女性たちも加わる。中には旅の劇団員の王妃役の女優も加わっていた。こんな美しい人が、まさか魔法使いだったとはと周囲を驚かせた。


 女優

「わたしも一端の魔法使いです。頑張ります!」


 どーん、どーん


 魔法使いユイ

「くっ、きりがないわ……」



 どーーーん、どーーーん


 前方の魔物からも魔法の破壊音が聞こえてきた。魔物の中には魔法が使えるものが存在する。こちらからの攻撃ではなく魔物からの破壊音であり、非常に危機的状況であった。


 戦闘をしている兵士たちが傷つけば、教会の職員たちが回復魔法をかけながら、ポーションで魔力を補充しながら頑張っていたが、魔力ポーションもHPポーションも底が尽き始めていた。


 しかし、魔物たちは更に集ってきて、最早、千体を超える勢いだった。


 神官系魔法使いユイ

「そろそろ私の魔力も枯渇します! みなさん、隣の町まで逃げる準備を」

(全滅だけは防がないと)


 村長

「手荷物だけでいい、ルートはバラバラで、急げっ」

(いよいよ、この村もダメか……故郷を捨てるのは辛いのじゃが)


 そこに勢いよく走り込んできた子供がいた。


 湖のミユ

「お待ちください、私に任せて下さいっ! そーーれっ、結界ッ」


 ピッキーーーーーーン


 ミユは全力で村全体を覆う結界を張った。


「ああーーー何かが頭上を覆っていくわ」


「魔物からの攻撃を弾いてるぞ!」


「おい、なんだこれ」


「「こ、これは……」」


 魔法使いユイ

「完璧に魔物の物理攻撃や魔法を弾いているわ」


 マリーナ

「ええっ! ものすごい範囲結界っ」


 村長

「あ、この子は……? いや、キ、キミは……? いや、あなたさまは……?」


 湖のミユ

「私は先生の一番弟子! 湖のミユと申します。なぜか魔法が使えるようになりました、私も先生が大好きな村を守ります!」


 ミユが魔法を使えるようになった段階で、これまた何故か、今まで村人には認識できなかったミユの姿が、村人たちに視認されるようになった。


 湖のミユ

「先生が最後尾の魔物を倒して帰ってくるまでは結界を維持しますから、村へ侵入しようとする魔物だけに注目されて、みなさんは結界の内側で休憩をとってください! 怪我人は腫れた部位を氷魔法で作った氷で冷やして! 早期治療が重要だって先生がおっしゃってたわ、早く!」


 村長

「十歳ぐらいにしか見えないのに、すごくテキパキと……それに結界の規模が半端でないスケールじゃ……」


 マリーナ

「まさか……伝説にある村の守護神、湖の女神様……? 湖女神ミユの伝説……でしょうか」


 村長

「この村に伝わる伝説か……さもありなん、とうに忘れ去られた伝説なのに……」


 湖のミユ

「もう! 魔物たち、お家へお帰りなさいっ! エクスプローージョンッッ」


 どどどーーーーーーんんん……どーーーーん


 村の周囲に集っていた魔物たちが吹き飛んだ。後塵の魔物は後ずさる。そして徐々に散らばり、散開して統制がなくなっていった。


 魔法使いユイ

「そ、そんな、結界を張りながら攻撃魔法を詠唱なしで打つなんて……そ、そんな、そんなーーーーっ」


 ・・・・・・・・・・


 少し時間が進む。


 大きな魔物の首を持った先生が村に帰ってきた。


 マリーナ

「あ、先生っ! お帰りなさいっ」


「ああ、マリーナさん、ただいま。どうしたんだコレ、この村の様子は……」


 湖のミユ

「せ、せんせーーーい」


 走って抱き着いてくるミユ。彼は戸惑っていた。少しだけ身体が大きくなっていたからだ。


「む、胸が当たってるなり」


「先生、会えて嬉しーーーっ! 胸が当たっている”なり”って、どういうことなり?」


「いや、ごめん、急に成長したみたいで照れてしまう表現を使ってしまったよ」


「先生、なんだか可愛い言葉使いだね。少し気に入っちゃったかも」


「……どうしたんだい、ミユ。なんだか大人っぽくなってやしないか?」


「へへーーん、私、魔法が使えるようになった”なり”よ」


「そうか……(魔法の覚醒か……それで身体も大きくなったのか?)」


 冒険者ギルドマスター

「最後尾の魔物の討伐、お疲れさまでした。先生」


 村長

「おかえり先生、一番弟子というミユさまに我々は助けられましたよ」


「ミユさま……? 様付けとは……、く、詳しくお聞き出来ますでしょうか……」


 村長

「うんうん、ミユ様には村を護って頂けましたから」


「へっ……」


 村長

「その前に、お寛ぎくださいな」


 村長はじめ、村の主要メンバーが何かを催そうと忙しく動き回っていた。どうやら即席の宴会が開かれそうだ。村の中央広場でも大きな焚火がキャンプファイヤーのように準備されつつあった。みんな、笑顔であった。つい先ほどまで戦闘があったにもかかわらず、切り替えが早い。



「さぁ、みんな勝利の宴じゃ! 騒ぐぞ! 魔物の死骸の回収は明日じゃ!」


 辺境の村は、救われた奇蹟に感謝しつつ、全員の笑顔がはじけ、夜も更けていく……

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