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第2話 湖の娘の謎の夢

 湖の娘は夕食後、先生特製の魔道具を使ったお風呂へ入り、すっきりして浴衣を着て寛いだ後、初めての泊りだった故にドキドキしていた。


「ボク、どうすればいいんだろう? 初めての経験だから、よく分かんない」


「何か飲み物要るかい?」


「何でもいいよ」


「じゃ、氷の魔法で冷たいものでも作ろう。お茶は充分いけるな」


 彼はお茶を入れ始めた。そのお茶は草原で採取してきた香草を淹れたものだ。なんとなく前世で嗜んだジャスミン茶の様な味だったので気に入っていた。


「さ、どうぞ」


「ありがとう」


 湖の娘はゴクゴクと一気に飲み干してしまった。


「あー、すごく美味しいよー。初めての味だぁ」


「そうだろう? いつもあげている飲み物は安いお茶だからね。これは僕のオリジナルだ。もう一杯飲むかい?」


「飲むー」


「どうぞ、召し上がれ」


「ねぇ、先生。何かボクがお手伝いできることってないかな?」


「ん、何もないぞ。遠慮するな」


「初めて先生のお家に泊まらしてくれたから、何か手伝いたくて」


「いや何もしなくていい。そうだな、それより君のお家の謎について教えてくれないか?」


「うーん、まだダメ。教えると先生がボクを嫌いになっちゃうもん」


「不思議なことを言うね、毎回。これを聞くと保護者になりたくなるよ。なぁ、誰も家族がいないんだろ? いつも解散したら何処へ行くのかい? まだ教えてくれないのかな」


「ごめんなさい。まだ教えることが出来ないや。嫌われちゃうから」

(そもそもボクも自分の事が分からないし)


「危険な目に遭わないのも一番不思議なんだよなぁ。毎日、湖の畔に僕に会いに来るけど、最初はハラハラしていたんだよ」


「心配かけてたの? ごめんなさい。でもボク、大丈夫だよ。湖さえあれば……」


「まるで湖に棲んでいるみたいじゃないか。全く理解できないぞ」


「ふーん、秘密ですぅ」


「もし生活に苦労するなら、僕の養子にならないか?」


「養子って何?」


「僕の血を分けた子供ではなく、僕の義理の子供になるってことだよ」


「うーん、よく分かんない。ボクはお嫁さんならなりたい」


「お嫁さんかぁ、まだそんなこと考えるのは早いぞ。これから大きくなったら恋人だって出来て、失恋して、また恋をして、失恋して、辛くて大変で、そうやって成長して、最愛の恋人を作って、結婚してお嫁さんになるんだよ」


「なんだか大変そう……」


「うむ、重要なことを教えてあげよう。それはな……寝取られるのは絶対に駄目なことだ。浮気というのは相手に対する裏切りだからね。だから恋人が出来たら他の男性とイチャコラしては決してダメなんだよ」


「せ、先生、なにか力が入ってるけど、嫌な事でもあったの?」


「ああ、子供に話すべきことじゃなかったな、ごめん。気にしないでくれ」


「ボク、早く大人になりたい」

(どうしてボクって小っちゃいままなんだろう?)


「すぐなれるさ。それより、そろそろ遅い。寝ようか。布団と部屋はあちらだ」


 指をさして部屋を示す。そこには彼女がお風呂に入っている間に用意したフトンが敷いてある。


「おやすみなさい」


「うん、おやすみ。いい夢を」


(先生と一緒に眠りたいんだけどな……)


 彼女は外見十歳相当ゆえ、ラブラブなこともなく、用意されていた布団に潜り込んで眠りに入った。夜も更け、そこで不思議な夢を見た。


 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・


 これは未来のお話。


 付与術師

「ところで、ミユちゃんの喋り方なんだが、その変な癖というか(なま)りというか、誰かに教えて貰ったのかい?」


 湖のミユ

「言葉遣いなりか? ボクに高尚な言葉を教えてくれたのは、流離(さすらい)の風来坊アレス先生なりよ」


 聖女

「あら、アレス先生なのね」


 湖のミユ

「また会いたいなりなぁ、アレス先生に」


 遠い目をするミユの顔は、恋する乙女のように外見の年齢相応に可愛らしい顔つきをしていた。少し頬も赤くなっていた。


 ミユがアレスに聞いた話によると、アレスは転移ではなく転生勇者だったそうだ。大学医学部に通っていたところ、ある日、恋人が知らない男性とホテルへ入っていくのを目撃し、心痛で走り出したところトラックに轢かれ、そのトラックの運転手と助手席の女の子に救われ、白い部屋みたいな空間へ連れていかれたそう。


 そして異世界トラックの運転手に『あなたは転生で頑張って』と言われて、気づいたら赤ちゃんになっていた。頭は冴えているのに身体が動かず、言葉も喋れなかった、長い年月、それはそれは苦痛だったという。次回、同じようなことがあったら『私は絶対に転移にしてくれ、転生だけは嫌だ!』と叫ぶだろうと力説していた。


 成長して村に冒険者としてやってきて移住、スローライフをかますぜ! と新種の果物や井戸・用水路の開発、栄養学に基づくキャベツやレタス類の野菜、薬草や香草などを村民に教えたり、救急処置の医学や薬学を教えたり、どっぷりと村に馴染んでいたという。


 そこで村の守護神であるミユと仲良くなり、彼から色んな言葉を教えて貰ったという。時々息抜きに言う彼のジョーク(オヤジギャグ)がミユにとって新鮮で楽しくて、ミユは何度もリクエストしてしまったという。


 また、湖において、水の有効利用から、魚の養殖で安定した食料の供給を目指し、日照りが続けば水が蒸発し、台風が来れば洪水になるので、砂防ダムを作り活用していく方法など、生活に密接する役立つ学問を毎日教えてくれたという。


 アレスに対し恋心を持つ女性が多く出現したが『すみません、恋はこりごりです』と全ての告白を断っていたらしく、転移前の恋人が寝取られたのが相当トラウマになっているのだそう。しかし、ミユはそんなアレスが好きになり、でも、告白しても成就しないだろうと思って恋心を封印していた。否、恋心を育て続けていた。


 ある日、国王からの使者が村に来て、魔王討伐のパーティにアレスが加わるというお触れを言い渡された模様で、『困ったなぁ~』と髪の毛を掻きながらも、平和のために自分は出陣するよ、近いうちに出立するからね、とミユに伝えた。


『ミユ、心配するな、直ぐに帰ってくるさ。お土産は期待するなよ』


『待ってるね、アレス先生が帰ってきたら、ボク、伝えたいことがあるんだ』


 いつの間にかアレスは姿を消しており、ミユは、またいつか会えると信じて何年も時が経った。ミユは今でも彼の帰宅を待ち続けているという。今度会えた時には告白して、村の祭りで手を繋いで歩いて、出店で買い食いするんだと夢を語っている。花火も一緒に見たかった。


 付与術師は『良いこと絶対にあるからな、頑張れよ』とミユに語り、聖女も『貴女の恋を全力で応援するわ』と彼女の恋心にエールを送っていた。


 ミユは『ありがとなりね』とウンウンと頷きながら、そして照れながら顔を赤くして(うつむ)いていた。


 聖剣がサトシの手にある以上、アレスが帰らぬ人だという事は分かっていた。魔王討伐は勇者サトシのパーティしか成し遂げていないからだ。


 アレスが最後にどうだったかは推測できるが、聖女も付与術師もミユに話すことが出来なかった。


「きっと、いつか、いい恋をすることが出来るさ」


「そうね、いい恋を見つけて欲しいわね。私たちのように」


 付与術師と聖女は互いに目を合わせてから、ミユへと優しく微笑んだ。




 付与術師と聖女は手を繋ぎながら湖を後にした。

 湖からは、ミユが腕が千切れそうな程、激しく手を振っていた。


「また遊びに来てねーーーっ、もう友達なりよーーーー」


 湖のミユはまだ子供。子供故に知らなかった。自分が、湖の精霊よりも遥かに強力な力を持っていることを。


 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・


「はっ!」


 湖の娘は目を覚まして起き上がった。


「不思議な夢を見たわ……なんだろう? どうしてボクが出てきたんだろう。それにアレス先生って……名前は知らない、まだ教えて貰ってないもん。でも、死んじゃうの? ウソ……。いえ、まさか先生が亡くなるなんて……。いや、ボクの喋り方も全然違うし、登場した女の子はボクじゃない。名前はミユって一緒だったけど、きっとボクじゃない。死んじゃうのも先生じゃない……」


「あの二人も知らないけど、優しそうだった…‥。もし現実になるとしても絶対に先生を死なせたくない……」


 ガラッ


「やっぱり起きてたかい?」


「あ、先生、ごめんなさい。起こしちゃったね」


「どうした? なんだか、うなされていたみたいだけど」


「ううん、大丈夫。ちょっと嫌な夢を見た気がして」


「そうかい、朝まではまだ時間が随分あるよ、二度寝をすればいい、二度寝は気持ちいいぞ」


「……」


「水でも飲むかい? 持ってきてあげよう」


「うん、ありがとう。あの……先生と一緒に寝ていいですか?」


「甘えっ子の時期かな? いいよ」


「うん……」


 変な夢を見たが、その結果、一緒の布団に入れることになった。彼女は未だ子供であり、出生が不明なだけに見知らぬ親の愛情に飢えており、ただ単に嬉しかった。さっきまでは寂しさが上回っていた。


 夢の内容は気にせず、よくある想像の賜物として考えることにした。


「先生……」


「ん?」


「もっと近くに行ってもいいですか?」


「いいよ。おいで」


「ムフーっ」


「甘えん坊ちゃんだな……」


 彼女は眠りにつきながら、ただ、おじさんこと先生の名前が気になっていた。もしアレスという名前だったらどうしよう? 教えてもらいたいけど、知りたくない、複雑な気持ちだった。

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