第11話 息子サトシ(終)
女神ハルは各神々の侃々諤々の調整に駆り出されていた。全く余裕がなく、各地への統治を配下の上級神や中級神に任せっきり。これは、そんな物語の頃。
【遥か未来の世界】
夜、かつて悪霊の街と呼ばれたエルソンの外壁部にて焚火を囲む。
そこでは、勇者サトシを中心に聖騎士ミキオ、聖付与師ヨシタカ達がいた。久しぶりのエルソン観光だ。
廃坑道から相変わらず悪霊が出現してきて、領主騎士団や護衛兵らが奮闘むなしくジリジリと負けが込んでいたため、王都から応援として勇者サトシ率いるパーティが派遣された。
尚、観光を兼ねているのは、前世にて史上初の魔王討伐を果たしたため彼らの銅像が建設され、エルソンの中央広場の噴水の脇に立ってると、ヨシタカが他のメンバーに観に行こうと誘っていたからだ。
パチパチパチ……
……焚火を見ながらボーっとしている。
ミキオ
「どうしたサトシ?」
サトシ
「なんだか家族の事を思い出してたよ」
ミキオ
「親父さんたちの事か。妹のユイちゃんや、やっぱり女優のお母さんが美的に飛び抜けてたな」
サトシ
「家族は、僕らと違って別世界へ転移しているのか、時代が違うのか分からないけど、時々、無性に会いたくなるよ」
ヨシタカ
「そりゃそうだろ。俺の場合、妹が居るだけで救われていることが多い。お前らにはスマンと思っているけどな」
妹ユアイ
「あらあら、お兄ちゃんったら困った子ねぇ、ウフフ」ハグッ!
ヨシタカ
「おい、ユアイ、いきなり抱き着くなよ」
ユアイ
「いきなりじゃなければ好いの?」
ヨシタカ
「兄離れしないと駄目だぞ」
サトシ
「父は医学に多大な貢献をしたのに、研究成果を上役に取られてしまってね。父が燻っていた時に僕は元気づけようとしたんだ。するとね、父が言うには『僕には優しくて料理の上手い妻がいて、頼れる息子がいて、可愛い娘がいる。これが僕への一番の褒美だよ』って言ってくれてね」
ヨシタカ
「いいお父さんだったよな」
サトシ
「うん」
ミキオ
「いきなり泣くなよ、勇者の癖に」
サトシ
「いいじゃないか、泣いたって」
ミキオ
「そうそう、エルソンに来る途中にあった奇麗な湖を覚えているか? あそこには可愛い子供の湖の女神様が棲んでるんだってよ」
ミズハ:聖女
「なになに、ミユちゃんのこと?」
ミキオ
「なんだ、知ってんのか」
ヨシタカ:聖付与師
「その娘と友達になったんだよな」
女神ハル
「ぶぇ~~~~~ん、私が忙しさにかまけて至らなかったばかりに、私が至らなくて、ごめんなさい、ぶぇぇぇぇーーーん」
サトシ
「!?」
ミキオ
「ヨシタカ、頼む」
ヨシタカ
「はいはい、女神様、こっちへ来てください。涙を拭きましょうね、いいこ、いいこ、ハルちゃん、なでこ、なでこ」
女神ハル
「ヨシくん、抱っこ。抱っこして。甘えさせて」
ミズハ
「ハルちゃん(怒)」
女神ハル
「ミズハちん、ごめん……」
ヨシタカ
「ミズハにも後でナデコするからさ」
ミズハ
「そういう問題じゃありません!」
ヨシタカ
「あう……、そういえばミユちゃんが女神様に温泉に行きたいって許可を取って欲しいって言ってましたよ」
女神ハル
「温泉? サトシ君のお父さんが日本人ゆえ温泉の話でもしたのかしら? いいわよ。その代わり、私も行きたいから皆で行こうね、お泊りで!」
サトシ
「?」
ミズハ
「湖から離れられないって言ってましたけど」
女神ハル
「うん、許可する!」
ミキオ
(そんなに温泉に行きたいのか……)
ミズハ
「そうそう、ミユちゃんに会う前に事前調査でさ、湖についての面白い解説が村の公文書館にあったのよね。学校の教科書みたいじゃなくて面白おかしく書かれてて勉強になったわ。確か……アレス先生ってお名前の学者先生でね……」
ヨシタカ
「教科書のように堅苦しくなく、村人の誰でもが簡単に覚えられるようになってたな。オヤジギャグみたいに突っ込みたくなったよ」
サトシ
「……へぇ、なんだか、一度行ってみたいね、その湖。湖女神ミユ様にも会ってみたいな」
ミズハ
「エルソンの帰りに寄りましょ。ミユちゃん喜んでくれるわ。友達がいっぱいできるって」
その村には、村の発展に大きく寄与したとしてアレス先生の銅像が建てられており、それを勇者サトシが観て、再度、父親や家族に思いを馳せることになる。
そしてミユと先生の息子サトシが時を超えて出会うのであった。