闇賭博との戦い―膠と下剤と逆転と
やはり地下街も危険が多い。
地下で逮捕される危険は少ないが…
リスクは低くない。
俺も途中何度か襲われそうになったが、騎士パーシモンがいたので助かった。
税務官カタルパと俺だけだったら、たぶんもう…。
しかも今回アホタレ家を潰した際に
闇賭博の問題が浮上した。
闇賭博は実は地下で最大の武闘派組織だ。
特に意識はしていなかったが、
これはマジでヤバイ…
今までは強盗で襲われる可能性だけだったが…
今後は…
怨恨で襲われる可能性がでてきた。
しかも闇賭博のメンバーの中で特に厄介なのが
”赤髪の番犬”との二つ名を持つ戦士。
闇賭博の主催者のボディガードで
王国で3本の指に入るといわれる男だ。
身長は180㎝を超えー赤髪の長髪ー双剣の使い手
いつもは強気なパーシモンでさえも
「こいつだけは厄介だ」
と一目を置いていた。
しかし…
このまま闇賭博を放置していると…
俺らがやられる。
そこで…
闇賭博についても調べてみることにした。
しかし…
どうもきな臭い。
イカサマ賭博疑惑
異常な高金利
借金の取り立てが暴力的
借金の代わりに、女たちが「夜の店」に回される。
「賭場で破産すると、家族が連れて行かれる」という噂が常態化
そして
小規模な商人の屋台を「賭博場の入り口に近いから邪魔だ」と撤去させる
などの横暴…
まー潰しても誰も文句言わないだろう。
そう思った。
俺は一人闇賭博場に潜入することにした。
リスキーなので、酒に眠たくなる粉をしこんでおいた。
いびきをかいて眠り呆けるなか
見つけたのが
・重心に細工をされたサイコロ
・指先で触れてもわからない微妙な凹みがあるカード
だった。
これらが賭場には何十セットもあり
ご丁寧に
細工のされていないサイコロと凹みのないカードまで
用意されている。
これはきっとイカサマがバレた時ようのダミーだろう。
(……ヒドイことしやがる。)
そこでまたまた空気を読まずに…
俺たちは闇賭博にハマり、破産した男たちを見つけ出した。
その数50人。
彼らにこの事を教えたやった。
みな口々に
「許せない」
とブチ切れていた。
そこで
「もし悔しければ…
今週末のベストなタイミングで
復讐をしかける。
参加したければ来い。
多少…
取り返せるかもしれないぞ…」
と伝えておいた。
ただ問題は
賭場には武器類は持ち込めないってこと。
武闘派相手に、武器ナシでは心もとない。
そこでオレは手軽な武器の
ブラックジャックの作り方を教えてやろうとすると…
「ブラックジャック?ダメダメ。オレはもうギャンブルはやらねーぜ」
と言われてしまった。
いやーまーそうくるわな…
「いやブラックジャックというのは、カードゲームじゃなくって、靴下にコインを入れて作る武器のことだ」
と、
自分の履いていた靴下にコインを入れて、靴下をくくり作ったものを見せてやった。
これで攻撃すると、かなり痛いと…
実際に男のお腹の辺に試してみると…
当たり所が悪かったらしく…
ぶっ倒れてしまった。
あーごめんよ。
大事なところだったねと…
当たり所が悪かったという
ハプニングはあったが、お陰で効果は十分に伝わったようだ。
俺は1人に3Gずつ渡し。これで、服と身なりをキレイに整えて、残りは賭場のかけ金に使えと言っておいた。
全員で150G…
150万円くらいになるから
結構な痛手だ―
まっいっか。
賭場で回収すれば…
ただ地下街最強の武闘派―
こちらは50人はいるとはいえ
素人ばかり…
普通にいけば勝ち目はないよなと
やはり根っからビビりな俺は
決行前夜にまた闇賭博に忍び込んだ。
そして今回はナイフや剣などに、膠を塗りこめ、さやから抜けないように細工した。
これでかなりの時間かせぎになる。
また細工のされていないサイコロと凹みのないカードには
すぐにはバレないように、落書きを書いておいた。
これですり替えられるリスクもない。
あと最後のとどめに…
従業員用の酒にメチャゲリーナという薬草を入れておいた。
この薬草…
実は強烈な緩効性の下剤効果があり、
酒に入れると…
1時間ほどして強烈にお腹を壊す。
賭場で働く連中は大体いつも酒を飲んでいるから…
きっと面白いことになのでは?―
E級シーフなので、腕はあまりないが
こういう悪智恵だけは得意分野だ。
この賭場ってボディガードは強いが…
イカサマするディーラーは、元スリなどが多いから
体力はなく、喧嘩は弱いらしい。
見て目からしてまったく違う。
つまり…
今回のバトル
ボディガード連中さえ抑えれれば…
勝ち目は見える。
◆ ◆ ◆
そして
決行当日―
賭場内には30人ほどのメンツが集まった。
10人ほどは外で待機している。
みんな身なりと服装を整えていたので
誰だかわからなかった。
10人ほどは来なかったようだ。まー怖いのだろう。
30Gは痛いが…
まーいいだろう。
それは仕方がない。
しかし10人足りないけど
大丈夫かな?
賭場の連中はというと…
どうも赤髪の番犬だけが見当たらない。
ディラーにそれとなく赤髪の番犬の事を聞くと
「赤髪の旦那は…剣のメンテナンスとか言って、外にでていますぜ」
と言っていた。
うーんこれはマズい。
決行途中に入ってこられたら、失敗の可能性がすこぶる髙くなる。
そんなことを考えていると…
「てめぃ。これイカサマじゃねーか」
と急にトラブルが起こってしまった。
「うわー。はじまっちゃったよ」
とビビっていると…
外で
「闇賭場がイカサマしたって大乱闘だぞ」
と叫ぶ声が聞こえる。
「あちゃー」
なんと…用意していたサクラの皆さんが動き出しましたよ~。
実はこの作戦が始まる前に、ビラ張りの中から、特に闇賭場に恨みのある連中に、
今日イカサマが暴かれるらしいから…
ことが起こったら、地下街中に宣伝しまくってくれと言っておいたのだ。
予定通りといえば、予定通りなのだが…
展開は早いし―
どこにいるのかわからない
赤髪の番犬がどうも怖い。
そんな事を考えていると賭場内のあちこちで、
イカサマの材料がでてくるは…
でてくるは…
もちろん仕込んでるからね。
でるのは当たり前なんだけど…
当然こうなると、主催者の命令で
ボディガードも動き出すわけで…
ただ…
「く、くそ……腹が……ッ!」
「やべぇ、俺も……トイレ……」
「なぁ、なんで剣が……抜けねぇ!?」
メチャゲリーナな入りのお酒をたんまり飲んでおり
おまけに剣も膠で固めてあるので…
しかも
ちょっとブラックジャックで…
お腹やお尻を攻撃すると
あら不思議…
賭場は一気に阿鼻叫喚、笑いと悲鳴と怒号の嵐に包まれた。
完全に攻撃能力がなくなって
あちらこちらでお尻を抑えながら
うずくまっております。
いつもは強面な連中が
下痢ピーで情けない顔をして…
俺がしたり顔で
「……な?
戦いってのは、汗かくより“考えた”ほうが勝つんだよ。
E級でもな――やる時は、やる」
と言うと
これには…
メンツだけじゃなく
現場を見に来た地下街の連中も大盛り上がり
賭場の主催者は
「赤髪の番犬はどこだ」「赤髪の番犬はどこだ」
と右往左往している。
仕舞には。主催者にもメチャゲリーナが効いてきたらしく。
主催者もうずくまりだした。
あーこれは行くとこまで行くしかないみたいだな。
その頃パーシモンはというと一人
闇賭場に一番近い出口まで
赤髪の番犬を探しにいった。
すると賭場の様子をみる一人の赤髪の大男がいた。
赤髪の番犬だ。
「赤髪の番犬、お前は行くのか?」
「行くのなら、俺は全力で止める」
とパーシモンは剣に手をかけた。
赤髪の番犬は背を向けたままこう答える:
「……番犬? ああ、あれは主がいた頃の話だ。
俺はもうただの――赤髪の“野良犬”だ」
そして赤髪の番犬は夜の街へと、ゆっくりと消えていく
そして赤髪の番犬が不在のまま
闇賭博は壊滅した。
闇賭博にあった備品や金銭はすべて
参加メンバーと、暴徒によって持ち去られた。
パーシモンが戻ってきて
「番犬は野良犬に変わったよ」
と教えてくれた。
一瞬
「は?」
となったが…
赤髪の番犬が来ないんだなということは伝わってきた。
パーシモンが
「40人しかいなかったな……全員来たんじゃないのか?」
というとカタルパが
「……いいえ。10人は、裏道の封鎖をしていました」
と
俺は驚いて
「は?」
とまたヘンな声をだしてしまった。
カタルパは
「誰に指示されたでもなく、自分たちで動いたようです。
“誰かが逃げると意味がないから”と」
と
これには俺も
「……マジかよ。
E級シーフのくせに、仲間に知恵で負ける日が来るとはな……」
とぼやいてしまった。
いやはや俺よりも慎重な奴がいるとは―
◆ ◆ ◆
そういえば…
地下街の人間の亡骸と、地下にある墓所に葬られるのが通例だ。
どれほど貧しくても、命を失えば、静かに土に還る――それが地下の流儀だった。
だが、今回は違った。
闇賭博の連中の亡骸は、みぐるみを剥がされ、
夜の闇に紛れて、王都の貴族屋敷の門前に投げ捨てられた。
礼もなく、祈りもなく。
ただ“怒り”という名の小包として――
地下の沈黙が、ついに牙を剥いた。
その後
闇賭博の主催者の家も特定され
襲われ、家財道具も財産も暴徒によって全て持ち去られた。
闇賭博と関係のあった夜の店も全部壊滅され
これらの道具も財産もすべて持ち去られた。
夜の仕事を無理やりされてた人たちも家族の
もとへ戻っていった。