投獄されたけど、空気を読まずに脱獄し、ついでに他の人も助けてしまった件
ぽつり
水滴が顔にかかり…
意識を取り戻した。
まだ頭がぼーっとする。
あれがガーデニアの過去か。
何を言っていいのか…
言葉を失った。
いや。
今はそんな事を考えている場合ではない…
脱出しなくては…
貴族の屋敷の地下牢には、俺以外に2人捕まっているものがいた。
看守はいない。食事は1日1回朝のみで、あとは放置だ。
ひどい悪臭で…
家畜以下の扱いのようだ。
早くでなければ、きっと始末される。
2人もそれぞれ…疲れた顔をしている。
ふとポケットを探ると、針金が1本。
あれこれ余裕じゃねと。
牢屋のカギを開けたら、
カチャン――
え、マジか? ってくらい、拍子抜けするほどあっさりと鍵は開いた。
拍手のひとつもほしくなるほどの軽業だったが、誰も見ていないのが残念である。
ほかの2人も出たそうにしていたので、他のとびらの鍵も開けた。
◆ ◆ ◆
脱走途中に壁にかかった紋章を見た。
その紋章に息をのんだ。
あのガーデニアの両親の命をうばった犯人の剣についていた紋章だ。
あの紋章を見た瞬間、胃が逆流したような感覚に襲われた。
喉の奥が焼けるように熱くなり、拳に知らぬ間に力がこもっていた。
ガーデニアの両親は、この貴族か、その関係者に…
行き場のない怒りが俺を飲みこんでいったが…
今は連れが2人もいる。
止まっている余裕はない。
屋敷から出る途中に
間違って入った倉庫に無造作にお金があったから…
1000Gほど盗んでいった。溢れるほどお金があったので気付かれないだろう。
途中3回ほど、見つかりそうになりながら、ようやく屋敷から逃げ出せた。
◆ ◆ ◆
まだ明るい時間だ。
これからどうしよう。
ボロボロの恰好で不審者同然。
じっとしてれば、確実に通報される。
そして貴族ゼニゲバに捕まれば、今度こそ始末される。
俺も冒険者ギルドには戻れない
とりあえず3人で地下に潜ることにした。
地下は割高だが、ほとんどのものが揃う
◆ ◆ ◆
ひとりは騎士だった男パーシモン。腕も太く、背も高いが、瞳の奥にうっすらと諦めの色が滲んでいた。
もうひとりは税務官だった男カタルパ。痩せぎすで小柄だが、眉間の皺は深く、何度も不正を見てきたのだろう。
2人とも口数が少なかったが、助け出された時だけは、ほんのわずかに目の色が変わった気がした。
2人とも。
貴族の不正の疑いを上司に報告したら、突然捕まり投獄された。
今は失踪したことになっているらしい。
3人ともこの世界に復帰するには、貴族を倒すしかないだろう。
地下街の空気は重く湿っていて、どこか薬品と鉄錆のにおいがした。
地下街の隅っこで俺たちは相談を始めた。
さきほど地下の商人からパンとワインを買い、
飲み食いしながら、相談することにした。
すこしカビかけのパンだが、空腹は最大のスパイス。
こんなものでも美味く感じる。
そして体調は少しは回復した。
ワインは酸味が強かった。
騎士の肩がわずかに震えていた。自由というものを、まだ信じきれていないようだった。
税務官はパンを噛みながら、しきりに指先で書類のクセをなぞるように動かしていた。――それぞれが、それぞれの傷を抱えていた。
「面倒だからさ~屋敷に火をつければいいんじゃないか?」と俺
「あーそうだな。それは……いや、燃えるかな?」と騎士パーシモン
「お二人ともちょっと待ってください。あの屋敷は石造り。火をつけてもすぐに消し止められます」と税務官カタルパ
そうか…
「じゃあひっそりと始末するのは?」と俺
「あーそうだな。それは名案だ」とパーシモン
「お二人ともちょっと待ってください。あの貴族は、常に護衛がついております。しかも実力は王国屈指の腕前。すぐに止められます」とカタルパ
「あのさ…まず外堀を埋めよ。って言葉があるんだけど、なんか周りから徐々に的な攻め方はできないのかな?」と俺
「あーそうだな。それは名案だ」とパーシモン
「なるほど…。
たしかにゼニゲバ家には、とりまきの連中がいます。
そのとりまきの連中は、一人一人はたいした力を持っていませんが、
数の力でゼニゲバ家を支えています。
これらを一つずつ潰させれば、ゼニゲバ家の勢いをそぐことはできるでしょう」とカタルパ
「しかし…どうやって攻撃する?匿名で役所や騎士団に投稿してもにぎり潰されるのでは」と俺
「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン
「あっゼニゲバ家に積年の恨みがある貴族がいます。この方に不正の証拠を渡し、王に調査を進言するようにすれば?」とカタルパ
「それは超名案っぽい。じゃあそれでやろう」と俺
「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン
「しかし…問題はどう信じてもらうかですね…」とカタルパ
「信じてもらう???別に証拠を置いておけば信じるんじゃね。その家の家紋が入ったものとか同時にあったら、信じるんじゃねーの。よーわからんけど…」と俺
「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン
「たしかに…それに…こういうのは思い切りが必要ですね。じゃあやりましょう」とカタルパ
「しかし何からはじめる」と俺
「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン
「そうですね。もし基礎的な情報…例えば噂とか…そういうのを調べれるのであれば助かるのですが…」とカタルパ
「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン
「お前…そればっかだな。なんかアイデアないのか?」と俺
「あーそうだな。おれもそう思う…
ここは地下だろ。なんでも売っている。情報とかも買えるのでは?」とパーシモン
「おぉいいアイデアじゃんか」と俺
「たしかにそれはいいアイデアです。ではまず状況を整理して、ターゲットを絞りましょう」とカタルパ