なんだかんだで…出世することになった件
ゼニゲバ家の壊滅、戦争の阻止、腐敗役人の一掃。
気づけば俺のやったことは――全部「王国の利益」になっていたらしい。
いや、マジで?
E級シーフが、だよ?
「王国として、君に正式な役職を与えたい」と言ってきたのは、どこぞの偉い騎士団長だった。
「今後は、君のような動ける頭脳が必要だ。混乱を未然に防ぎ、情報を操り、国を守る。
我々はそれを“ゴースト”と名付けた。正式には“第108王国諜報局”。君にはその初代局長になってほしい」
「いやいや待て。E級シーフだぞ? 初代局長って何だよ。もっとほら…騎士とか、貴族とかいるだろ?」
「……残念ながら、君より優秀な者はいなかった」
「それ、褒められてるのか?」
そうしてできたゴースト(第108王国諜報局)。
その構成員を見て、俺は目を疑った。
・「騎士団を辞めたので」としれっとやってきた《パーシモン》
・「税務官は副業で」と言いながら、やけに楽しそうな《カタルパ》
・「主が変わっただけだ」と、相変わらず不愛想な《赤髪の番犬》
・地下街を束ねていた連中まで「なんか面白そう」と来てしまった。
もう、カオスである。
しかも…
みんな戸籍上
存在していないことになっている。
まさにゴースト。
でもまあ…悪くない。
王国は混迷していた。
腐敗貴族の抜けた穴をどう埋めるか、外交、軍事、内政、すべてが混沌としていた。
「国を守るには、国民を守るには、シーフの知恵が必要だ」――そんなことを真顔で言われる時代が来るなんて、思ってもみなかった。
ある日、部下がこう言ってきた。
「局長、今日の会議ですが、“空気”を読んだ発言をお願いできればと…」
俺は言った。
「バカヤロウ。
“空気”なんてのは、読んで従うもんじゃねえ。
破って変えるもんだ」
こうして、王国最初の“異端の情報機関”が誕生した。
表の貴族たちは眉をひそめたが――
裏でこの国を支えていたのは、元・E級シーフと、その“はみ出し者たち”だった。
──俺たちは、世界の影で、今日も誰かの未来を盗んでいる。
ゴースト:第108王国諜報局
王国を守る、誰にも知られてはならない“空気の読めない”組織。
どこの派閥にも属さず、民衆の未来を見据える“存在しない存在”
そしてその長の椅子に、
今日も俺は、しれっと座っている。
END
※本作は完結しておりますが、反響やご好評をいただければ、続編やスピンオフも考えております。