雨の日の出会い 【月夜譚No.352】
雨宿りの軒先は、少し淋しい気がする。空の暗さと雨音とひんやりとした空気感。それ等がなんとなく気分を下げて、ここから動けなくなった不自由さに拍車をかける。
彼女は太陽の見えない空を見上げて、ふっと息を吐き出した。
いつもは折り畳み傘を鞄の底に忍ばせているのに、今日に限って普段使わない鞄で出てきてしまった。気に入りのワンピースだったから濡れるのが嫌で手近にあった軒先を借りたが、いつになったら止むのやら。
この後に予定が入っていないことは幸いだが、帰ってする予定だった家事は明日以降に持ち越しになってしまうだろうか。
「――あの」
不意に借りていた軒先の店の扉が開き、眼鏡をかけた青年が顔を出す。
「良かったら、見ていきますか?」
ふと看板に目を遣ると、ここは手作りの硝子細工店らしい。今日は定休日なのだが、雨宿りをする影を見つけてわざわざ開けてくれたようだ。
覗いた店内には、グラスに始まり置物、風鈴、アクセサリーまである。電灯にキラキラと輝くそれ等は、まるで陽光が照らす雨上がりの世界のようだった。
「それじゃあ、少しだけ」
雨雲がすっかり通り過ぎてしまうまで、彼女は笑顔を絶やさなかった。