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57話 謎の少年

 小学五年生になって既に二ヶ月が経過し、外の気温はもう夏間近というほどの暖かさになっていた。

 歩くだけでも額に汗が滲み、薄着でも良いくらいだった。


 そんな俺が一人で下校することになったある日のことだった。


 日課というほどではないが、暇があれば一人でルーシーとの思い出のある、あの公園によく足を運んでいた。

 四台あるブランコの一つに腰を下ろして、ブラブラとルーシーのことを考えて体を揺らす。


「ルーシー元気かなぁ」


 空を見上げると、今日は雲一つない晴天だとわかる。

 公園では、親子や子供達が遊んだりしている。


「よう、お前一人か?」


 突然、俺の隣のブランコに人が座ってきた。


「え、あ……そうですけど」


 相手の年齢はわからないが、突然だったので敬語で返してしまった。

 その人物の顔を見ると、ここらへんでは珍しい金髪で外国人っぽい顔のイケメンだった。

 なんとなくだけど、俺より体も大きいし年上に見えた。


「最近調子はどうだ?」


 初対面なのになぜか俺の調子を聞いてくる。


「普通、ですけど……」


 無難に答えた。自分の状態なんてよくわからない。

 普通と言えば普通なのかもしれないけど、やっぱりどこかでぽっかりと穴が空いている気がする。


「普通か。学校はどうだ?」


 今度は学校の事。彼は俺の顔を見ようともせず、ブランコから前方だけを向いて俺に話しかける。

 顔に向かって話していないからか、俺も少し話しやすかった。同じように俺もブランコの前方を見て話す。


「学校も普通ですかね。特に変わったことはないです」

「女子と仲良くしてるようじゃないか」

「……え?」


 突然、具体的なことを言い出した。女の子……遊んでいると言えば千彩都としずはくらいだ。

 それが何かあるのだろうか。


「その子のこと好きなのか?」

「え!?」


 いきなりどういうことだろう。千彩都かしずはをってことを?


「いや、普通に友達なので、好きとかではないですけど……てかなんでそんなこと聞いてくるんですか?」


 何か流れで答えてしまったけど、見ず知らずの人にいきなりプライベート過ぎることを話してしまっているのはよくない気がする。


「そうか。それならいい」

「え……?」


 なぜ聞いてくるのか答えてくれないようだった。

 すると彼はブランコを立ち上がり、そのまま公園の出口へ向かう。


「あの……」

「お前の心にあるその気持ちを信じろ」

「え……?」

「お前が心変わりしていなければ、また会うかもな」


 せめて名前でも聞こうと思っていたが、彼が俺の言葉を遮ってきた。

 最後によくわからないことを俺に聞かせ去っていった。


「何だったんだ……」


 心の奥にある気持ちってなんだろう。さっき千彩都やしずはのことを好きなのかって聞かれたことと関係あるのかな。

 もしかしてルーシーのこと? ルーシーのことだとしたら、ルーシーのことを好きって気持ちなのかな。


 そのことなら大丈夫だ。

 ルーシーに関して何か思い出せる物は手元には何もない。

 あの写真だって、ルーシーのスマホで撮ったものだから、俺の手元にはない。

 それでも数少ないルーシーと会った時間、俺はすぐに思い出せる。ルーシーへの気持ちは小さくなるわけがない。


 ルーシーのことを考えると、寂しい気持ちになる。

 でも同時にいつか再会できる時のことを考えたら、頑張ろうって思える。

 少しでも何か努力した結果をルーシーに見せたい。今は勉強と筋トレと少し前に始めたジョギングくらいしか頑張れることはないけど、父さんにも継続が大事だと言われている。


 色々あるけど、一番に思うことはやっぱりーー、


「ルーシーに会いたいなぁ……」


 姉の友人達に相談した結果、俺は待つと決めた。

 だから、いつかルーシーが日本に帰ってきた時に、かっこいいって思えるくらいにはなりたい。




 ◇ ◇ ◇




「兄さん、どうだった?」


 光流が残された公園を出た少年が、一分ほど道路沿いを歩くともう一人の少年が待っていて声をかけた。


「おう。元気がめっちゃあるって感じではなかったけど、頭の中はルーシーって感じはした」 

「じゃあ、光流くんはルーシーの事は忘れてないってことだよね?」

「そうだと思う」


 立ち話をしている二人はどちらも金髪で、光流よりも何歳か年上。

 彼らは今日だけではなく、何度か光流のことをつけて様子を見ていた。


「一人の女の子は光流くんに積極的だったよね」

「そうだな」

「微妙な気持ちだね」


 遠くから見ても彼らの目には、その女子は光流に何かしら好意を寄せているように見えたのだろう。


「なんで恋する相手って一人に絞らなきゃならないんだろうな」

「誰しも自分だけを見て欲しいからじゃない?」

「そうなんだけどな……」

「一人を選んだら、もう一人は選ばれない。どっちかは不幸になっちまう」

「不幸の受け取り方は様々だけど、相手が好きであればあるほど辛いね」


 彼らは一番に妹の幸せを願いたい。しかし、そのために他の女子が傷つくのを見るもの良しとは思わない。

 中学生と高校生の彼らは、まだまだ幼い小学生相手に色々と考えていた。


「最初は面白おかしく見てたんだけどな」

「スパイみたいでワクワクするとか言ってたもんね」

「人が恋する気持ちを誰も止める権利はないからな」

「僕達がやれることとしたら、光流くんをブレさせないことだね」

「……あぁ」


 そして彼らは近くに止まっていた車に乗り込む。


「氷室、家まで頼む」

「はい、坊ちゃま達」


 車に乗り込むと、一人の執事が彼らを誘導、運転手が車を動かして移動し始める。


「ルーシーの方は心配する必要ないな」

「もう頭の中は光流くんだけっぽいしね」


 彼らは親経由でも聞いていた。

 ルーシーは光流のことばかり話すと。


「ならルーシーのことは茶化しても構わないな」

「いっつもそれだね」

「『あいつ、また女子と遊んでたぞ』……っと、送信」

「ほどほどにしなよ……」

「嫉妬させておけば、ルーシーもあいつから心が離れないだろ?」

「その結果、最悪なことにならないといいけどね」


 そんな会話を繰り広げながら、彼らは帰路についた。




 ◇ ◇ ◇




 公園で俺よりも大きい謎の少年と会話し、ルーシーのことを考えさせられた。

 そんな状態で俺も家に帰った。


『ガチャ』


 俺は持っていた鍵で玄関の扉を開けた。


「ただいま〜っ」


 玄関の中に入り、ランドセルを置いて靴を脱ごうとしたその時だった。


「ひかるぅ〜〜っ!」


 突然何者かにタックルを受けた。うちの愛犬であるノワちゃんではない。


「うおっ」


 俺は突然のことに驚いて転びそうになる。必死に前方からの突進に耐えてその人物の体を引き剥がす。

 筋トレで少し力がついたのか、難なく引き剥がせた。


 身長は俺よりも低めで、肩より下の少し長い髪、姉と似た顔の雰囲気、でも姉よりもあどけなくて子供っぽい表情。


「ま、鞠也(まりや)ちゃん!?」

「久しぶりだねっ、ひかる!」


 ニコッと笑顔を向ける少女。会うのは一年振りくらいだろうか。

 彼女は遠坂鞠也(とおさかまりや)。母さんの姉の娘さんだ。つまりは俺の従姉妹。少し遠くに住んでいたはず。


 彼女はこんなに抱きついてくるような子だったろうか。

 性格が変わったのだろうか。活発な性格は一緒なのだが、こういうスキンシップは一年前はなかったはず。

 彼女もこの一年で何か変わったのかもしれない。


「今日から一週間泊まるからよろしくね!」

「ええ!?」


 突然の訪問だと思ったら、普通に学校もあるはずなのに一週間も泊まると言う。

 意味がわからない。


 とりあえず俺はランドセルを持って、なぜか俺の腕にしがみついたままの鞠也ちゃんをリビングに連れていくことにした。



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